【「バーナデット ママは行方不明」評論】専業主婦が南極へ ケイト・ブランシェットが惚れ込んだ、“現在地”から飛び出そうとするバーナデット
2023年9月24日 16:00

歴史に名を刻む偉大な女王やハリウッド女優から、伝説的ファンタジーの王妃、秘密の恋に悩むエレガントな女性、絶大な権力を手にした指揮者まで。ケイト・ブランシェットは、実にさまざまなジャンルの幅広い役どころを、見事に演じ上げてきた。そんな彼女が自ら演じることを熱望した本作の主人公・バーナデット。一体どんな人物なのだろう?
バーナデットは、一流IT企業に勤める夫や、親友のような関係の愛娘とシアトルで暮らし、何不自由ない幸せな生活を送っている専業主婦。しかし、彼女の日常を眺めるにつれ、少しずつ綻びが顔をのぞかせる。極度の人間嫌いである彼女は、隣人やママ友たちと、うまく人間関係を結ぶことができない。外出も苦手で、買い物や家事やスケジュール管理は、メールで依頼できる“バーチャル秘書”に任せっぱなし。そんな彼女には、天才ともてはやされながらも、建築家の夢を諦めたという過去があった――。
自分にも他人にも厳しく、エキセントリックで強烈なバーナデット。しかし、苦悩する彼女の姿から、「耐えがたい挫折や、家族の存在によって、捨て去ったはずの夢といかに向き合うのか」という、多くの人々が自分自身に問いかけるであろう、普遍的なテーマが透けて見える。そして、ブランシェット自身が「最も魅了された」と語る、「自分からは決して逃れられない」という動かしがたい事実。逃げてきた“何か”と向き合わなければ、人生が変わることなど、決してないのだ。
そんなバーナデットの心模様は、建築家である彼女の家に、さまざまな形をとって現れる。もとは感化院だったという設定で、古めかしくも個性的な家は、ところどころ雨漏りや補修が必要な箇所があり、バーナデットはその都度、とりあえずの応急処置を施している。一方、床を突き破って生えてきた植物にはスペースを確保し、自由にさせている。そして、運命の大雨の日――家のそばにあった庭が、文字通り“崩壊”する。
振り返ればブランシェットは、アカデミー賞にノミネートされた「あるスキャンダルの覚え書き」では、家庭での満たされない思いから、15歳の教え子との禁断の恋に突き進む教師、そしてオスカーを手にした「ブルージャスミン」では、失った上流階級の地位にしがみつこうとする元セレブを演じてきた。いずれも、思い描いた“現在地”にいない自分自身を直視できず、狂わんばかりの焦燥感を抱えた人物だ。そんな彼女が、自宅と娘の学校を往復するだけの退屈な日々に、少しずつ心のバランスを崩していくバーナデットを、繊細かつ魅力的に表現している。
本作のなかで最も輝かしい瞬間のひとつは、彼女が終盤で下す、シアトルという“現在地”から1万6000キロメートル離れた南極に行くという決断だ。人間嫌いで外出嫌いの彼女が、家族にも頼らずたったひとりで、極寒の極地へと旅立つ。そんな並々ならぬ勇気と覚悟が必要だったであろう行動と、彼女がそこで得たものが、確かに伝えてくれる――人生を変えるのに、遅すぎることはない、と。
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