忠誠心は立派なものなのか? インドネシア独裁政権が落とした影を寓話的に描く「沈黙の自叙伝」監督に聞く
2023年9月16日 11:00
2022年第79回ベネチア国際映画祭で国際批評家連盟賞、第23回東京フィルメックスコンペティション部門で最優秀作品賞を受賞したインドネシアの新鋭、マクバル・ムバラク監督の長編デビュー作「沈黙の自叙伝」が公開された。
農村に君臨する将軍と彼に仕える青年の奇妙な関係を通し、暴力と欺瞞に満ちたインドネシアの近現代史を寓話的に描いたドラマだ。1990年代後半までの30年間、インドネシアの独裁政権下で公務員として働き、国家に忠誠を誓う父の姿と、独裁政権崩壊後まで続く価値観に対し、寓話的なドラマで疑問を投げかけた、ムバラク監督のインタビューが公開された。
インドネシアの農村で暮らす青年ラキブの父親は服役中で、兄は海外へ出稼ぎに行っている。ラキブは一族で数世紀にわたり仕えてきた退役将軍プルナが所有する空き屋敷で、たった1人の使用人として働くことに。プルナはラキブに対して立場を超えて親身に接し、父親のような存在となっていく。やがてプルナが地元の首長選挙に立候補したことで、2人の運命は大きく動き出す。
叔父や叔母を含め、 私の家族はみな公務員で政府のために働く大家族でした。始まりは1974年頃、インドネシアの独裁政権の全盛期でした。私は1990年にそのような家庭に生まれました。国家の支配的な価値観が、私たち家族の支配的な価値観になっていて、私にはその違いがわかりませんでした。
その通りです。でも混乱はここから始まりました。そういう環境の中で育ってきて、ティーンエイジャーは、みんな何かを探しています。その時、すぐに答えが出たのが宗教でした。だから政治がダメになると、世界の多くの場所では宗教が代わりに答えを出してくれるんだと思います。私はイスラム教を学ぶために家族からイスラム寄宿学校に入れられました。しかし、それは私にとって問題の解決にはなりませんでした。
その後、私は政治を学び 独裁者の下で働く人々が今も社会を支配していることを知りました。私たちはほとんど同じ価値観によって、同じ人々によって統治されています。よって価値観は変わらない。だからこの映画を撮りました。私たちはまだ影の中で生きているといつも感じているからです。それは大きな影。過去ではなく、現在です。これがこの国の精神なのです。
映画の中の自叙伝は私の自叙伝ではありません。この国の自叙伝です。 主人公ラキブと“将軍”という、この2人の登場人物の間には、権力を手にする者と権力によって追放される者という終わりのない悪循環があります。 2人の登場人物の相互作用から、この国の自叙伝を見ることができます。彼らは基本的に同じ人物であり、多くの層で同じ人物であると言えます。
タイトルはとても抽象的です。でも私はそれが好きなんです。この物語には私自身の自叙伝的な要素はなく、このレイヤーにおいてのみ、登場人物たちが実際にお互いを映し出しています。そして私の世代と父の世代もまた、私たちが今やっていることに関して、お互いを映し合うのが好きなんです。だから、このタイトルになりました。
インドネシアの独裁体制は、非常にフロイト的な方法で機能しています。 独裁者は国の父親的存在なのです。インドネシアには “Bapakisme”という言葉があります。つまり、これはイデオロギーとなり、物事はこの父親像に引き寄せられていきます。私たちは独裁者スハルトを発展の父と呼んでいました。
当時の紙幣には「スハルト、 開発の父」と書かれていました。スハルトは常に父親であり、我々は父親に忠実でなければならなかった。つまり、そこまで極端ではありませんが、現在の北朝鮮のようなものです。しかし、大統領には父親としてのオーラがあります。誰もがこの父親像を賞賛するか、他の父親像を探して反抗するかのどちらかなのです。よってインドネシア人は、常に父親像を探し求めています。国が与えてくれる父親像が気に入らなければ、自分の父親像を探す。そうすることで、人間として成長することができると考えます。ラキブが実際に探しているのはこの父親像なんです。彼自身の本当の父親は、刑務所にいるから、自分の人生は失敗していると感じているんです。
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