ベネチア銀獅子賞の濱口竜介監督、“凱旋”報告会見「背中を押された気分」
2023年9月12日 15:30
「悪は存在しない」が第80回ベネチア国際映画祭の銀獅子賞(審査員大賞)を受賞した濱口竜介監督が9月12日、日本外国特派員協会で報告会見を行った。「何もないところから始めた企画を認めていただき、『これからも地道にやっていきなさい』と背中を押された気分。不確かな旅に付き合ってくださった方々に感謝したい」とトロフィーを前に喜びを語った。
本作は、音楽家・シンガーソングライターの石橋英子から、ライブパフォーマンスのための映像を依頼されたことから始動しており、「摩訶不思議な始まりの映画。体験したことのないような映画製作ができた」と濱口監督。石橋氏が音楽制作を行う自然豊かな環境が、インスピレーションになったといい、「まるで手紙のように、音楽と映像のやりとりをし、本当に音楽的セッションしているような感覚だった」と異色のコラボレーションを振り返った。
濱口監督は、映画「偶然と想像」で第71回ベルリン国際映画祭の審査員グランプリ(銀熊賞)を受賞、映画「ドライブ・マイ・カー」(21)では第74回カンヌ国際映画祭で日本映画初となる脚本賞を含む計3部門を受賞したほか、第94回米アカデミー賞では国際長編映画賞に輝いた。それに続くベネチアでの受賞という快挙となり、日本人では黒澤明監督以来となった。
この“偉業”に話題が及ぶと、「黒澤明監督というとても偉大な名前を引き合いに出されることに、申し訳ない気持ちでいるという状態です。黒澤監督は2つの最高賞に輝いているので、全然スケールが違う」と恐縮しきり。「黒澤監督は長く質の高い仕事を続けてきた。自分はこれからどうなるか震えているが、長く映画を作り続けたい」と背筋を伸ばした。
その上で「悪は存在しない」は、「疲れていた自分にとって、回復のプロセスだった」とも明かし、「アウトプットだけではなく、インプットできる映画製作が必要だった。結果的に『悪は存在しない』はそういう作業になった」と回想。次回作については「準備はしています」と語った。
また、海外の映画人とのタッグの可能性を問われると、「興味あります、ずっとあります」と即答。「こればっかりは、信頼し合える人たちと出会えることが大きな要素。これまでの自分も、誰かと出会い、導かれながら、映画を作ってきたので、『この人についていけば大丈夫』と思えるのがすべて。そういう出会いは簡単ではないが」と話していた。会見には、主演を務めた大美賀均が同席した。
濱口監督が「ドライブ・マイ・カー」でもタッグを組んだ音楽家・シンガーソングライターの石橋英子から、ライブパフォーマンスのための映像を依頼されたことから、プロジェクトが始動。その音楽ライブ用の映像を制作する過程で、1本の長編映画として本作が完成した。
自然豊かな高原に位置する長野県のとある町を舞台に、政府からの補助金を得たグランピング施設の開業計画が持ち上がったことから、環境破壊を危惧する地元住民たちの間に、動揺と葛藤が忍び寄る。
2023年・第80回ベネチア国際映画祭では銀獅子賞(審査員大賞)を受賞した他、映画祭本体とは別機関から授与される国際批評家連盟賞、映画企業特別賞、人・職場・環境賞の3つの独立賞も受賞した。日本では2024年GWに公開される予定。