【「復讐の記憶」評論】年の差バディがフェラーリで疾走する血まみれ韓流リベンジ・サスペンス

2023年9月10日 19:00


「復讐の記憶」
「復讐の記憶」

全世界100カ国以上での配給が決定、「KCIA 南山の部長たち」のイ・ソンミンと、韓国版「ジョゼと虎と魚たち」のナム・ジュヒョクが初共演を果たしたサスペンス・アクション。監督は「華麗なるリベンジ」のイ・イルヒョン

ベトナム経験を持ち、現在はファミレスで働く在郷軍人のピルジュ(イ・ソンミン)。彼は妻の死をきっかけに、60年間練り上げた計画を実行に移そうとしていた。それは自分の家族を死に追いやった者たちへの復讐だった。認知症の進行で残された時間が少ないことを悟った彼は、職場の若い同僚インギュ(ナム・ジュヒョク)をドライバーとして雇い、後戻りの出来ない戦いに挑む。

アトム・エゴヤン監督、クリストファー・プラマー主演のサスペンス「手紙は憶えている」を韓国映画界がリメイク。ナチスとユダヤの関係性を日韓の構図に入れ替えた、いわゆる抗日映画の流れを汲んだ作品だ。このジャンルは今もコンスタントに製作されているようで、最近も安重根を描いたミュージカル「英雄」(原題)や、朝鮮総督暗殺にまつわる密室ミステリー「幽霊」(原題)などが韓国で公開されている。

リメイク元の「手紙は憶えている」で主人公を演じたプラマーは当時85歳だったが、本作のイ・ソンミンはまだ54歳。監督はキャラクター造形に、80歳の最高齢でマクドナルドから表彰された実在のアルバイト男性を参考にしたという。さらに毎回2時間以上かかる特殊メイクを施し、話し方や身体の動きもソンミンと他のシニア共演者で差が生じないよう、テストを繰り返した。また「ザ・シークレットサービス」や「メメント」を思わせる演出も登場し、映画ファン向けの趣向も凝らされている。

事件に巻き込まれる青年を演じたナム・ジュヒョクは「ジョゼと虎と魚たち」に続くリメイク作への出演になる。オリジナル版には無い役柄だが「ジョゼ虎」で見せたナイーブさを感じさせ、彼を通して韓国の若者の現状が透けて見えるのも興味深い。作中の激しいカーチェイスでは、いくつかのシーンで実際にジュヒョク自身がハンドルを握っている。

前作「華麗なるリベンジ」では、獄中の検察官と出所したイケメン詐欺師という異色の組合せに加え、コンゲーム要素を持たせた法廷劇に仕上げ観客を楽しませたイ・イルヒョン監督(本作のイ・ソンミンもラスボス政治家の役で出演)。今回は退役軍人とZ世代という年の差バディのため、てっきりコミカルなアクションになると思いきや、血まみれ復讐劇へと雪崩れ込む展開に意表を突かれた。オリジナルとは違う、老若男のコンビ劇だからこそのエンディングも感動的だ。この機会にぜひ見比べて欲しい。(本田敬)

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