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坂本龍一の最後の演奏を収めたドキュメンタリー映画の上映に、ベネチアの観客が感動

2023年9月8日 14:00

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空音央監督
空音央監督
(C)Giorgio_Zucchiatti_La_Biennale_di_Venezia_-_Foto_ASAC

現在開催中のベネチア国際映画祭で、今年3月に亡くなった坂本龍一さんの最後のコンサートを収めたドキュメンタリー「RYUICHI SAKAMOTO | OPUS」が披露された。メガホンを握ったのは、彼の息子で映像作家の空音央(そら・ねお)。映画作品として完璧な演奏を残したいという坂本の思いから、観客なしに演奏する様子を3台のカメラで追ったモノクロ作品だ。

坂本は10年前にベネチア・コンペティション部門の審査員を務め、6年前にはスティーブン・ノムラ・シブル監督によるドキュメンタリー「Ryuichi Sakamo: CODA」のプレミアで現地を訪れるなど、ベネチアとの縁が深い。さらにイタリア人監督ベルナルド・ベルトルッチとは、アカデミー賞音楽賞に輝いた「ラスト・エンペラー」と「シェルタリング・スカイ」で2度組んでいるだけに、イタリア人にとっても思い入れの強い作曲家。それだけに、今回の上映は終わった途端に拍手喝采が鳴り響くエモーショナルなリアクションを巻き起こした。

現地を訪れた空監督は、映画.comの取材に答え、制作の経緯について語ってくれた。

「もともと坂本の方から2022年の初めぐらいに発案があり、もうコンサートをできない身体になっているけれど何かを遺したい、ということで、『コンサート映画』という形でやりたいと言われました。コンサートを疑似体験できるようなものにしたかったんですが、観客がいるようなコンサート映像というよりは、『映画』という形を意識しました。たとえば通常は、コンサートをやってそれを映像化するのであれば、比重が音におもむきが置かれると思うのですが、今回は絵と音の両方におもむきを置いた。サウンドエンジニアのザックからは、当初マイクが森のように並んだ配置を提案されたのですが(笑)、それだとカメラの置く場所がないので、その辺を話し合いながらマイクを少し減らしてもらったりしました。目の前で起こることを明確に記録する、ということに集中しました。

事前に20曲のセットリストを決めてもらい、それを練習している姿をさらに携帯で撮って準備をしました。1つ明確に記録したいと思ったのは身体性というか、演奏者の身体とピアノがどう調和して音楽が出てくるのかというところで。それは撮影監督のビル・キルスタインとよく話し合いました。絵コンテのプランを決めたなかで、即興性を持たせることを大事にして、スタッフにも、音楽に突き動かされたらそういう風に撮ってくれというように伝えていました」

撮影監督のビル・キルスタインと
撮影監督のビル・キルスタインと
(C)Kuriko SATO

ビル・キルスタインもこう付け加える。「最初と最後はしっかり決めていましたが、真ん中はトラベリングなどの動きのショットが多かったので、カメラと音楽によるダンスのような即興の自由がありました」

映画はピアノを演奏する坂本さんの後ろ姿から始まり、ラストは坂本さんのいなくなった自動ピアノの演奏で幕を閉じる。不在の重みを実感させるような幕切れに、胸が締め付けられるようだ。

「あれは鍵盤の圧やスピードを記録するミディ・データーというものなんですが、それをエンジニアたちが使っているときに眺めていて、面白いなと思い撮っておいたんです。最初から考えていたわけじゃなく、現場での判断だったんですが、何か幽玄な感じがするといいますか。坂本も観て良いと言ってくれたので、喜んでいたと思います」

日本の公開時期はまだ決まっていないが、今後も各国のさまざまな映画祭を回る予定だという。(佐藤久理子)

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