「君たちはどう生きるか」眞人役・山時聡真が明かす、オーディションから公開当日まで【インタビュー】
2023年8月21日 00:00
俳優の山時聡真が、宮崎駿監督の10年ぶりとなる新作長編アニメ映画「君たちはどう生きるか」で主人公の眞人の声を担当していることは、公開初日となった7月14日に大きな驚きとともに世間を賑わせた。封切りまでポスタービジュアル以外、一切の情報が明かされる事のなかった今作の製作過程の一端を山時に聞いた。(取材・文/大塚史貴、写真/間庭裕基)
7月14日に全国441館で公開された「君たちはどう生きるか」は、鈴木敏夫プロデューサーの方針により作品に関する情報は伏せられていたため、初回上映のエンドロールで声優や主題歌アーティストの名が判明。山時の名も、同日午前11時前後からネットを中心に一気に拡散していった。
山時が今作のオーディションを受けたのは、昨年の秋だったという。
「時間にして30~40分ほど。声優のオーディションは初めてだったのですが、しっかり見ていただいた印象があります。オーディションはその1回だけで、僕もまさか1回で決まるとは思っていませんでした」
宮崎監督作のオーディションだと認識はしていたそうだが、極端に緊張することもなく臨めたようだ。
「母がジブリ作品の大ファンなのですが、僕は金曜ロードショーでの放送を見て親しむくらいのレベルでした。一番好きな作品は『崖の上のポニョ』。宮崎監督が新作を作ることがどれほどすごいことか理解していたつもりですが、ジブリ作品を深く語れるような知識や先入観がなかったからこそ、平常心で臨めたのかなと感じています。僕は緊張すると声に出やすいので……」
今作のタイトルは、2017年に刊行の漫画版がベストセラーになった吉野源三郎氏の小説「君たちはどう生きるか」(1937年発表)から採られているが、ストーリーは宮崎監督の完全オリジナル。山時も同名小説は読んでいたという。
「小説は読んでいたのですが、脚本を読んだら全然違うお話でした。最初は理解できませんでしたし、今も全て理解できているとも思っていません。ただ、宮崎監督からのメッセージが脚本の間に挟まっていて、『あまり読み過ぎず、作り込み過ぎないで。あくまでもイメージだけしておいて』というようなことが書かれていました」
アフレコは、誰の声も入っていない状態で、山時はひとりで挑んだという。宮崎監督や鈴木プロデューサーからの具体的なアドバイスについて聞いてみた。
「アフレコしていくなかで、アドリブという使い方が適切なのか分からないのですが、息遣いやいびきの表現が難しくて……。そこに関してはあまり気にしなくていいよと言っていただいたので、すごくやりやすかったですし、意識し過ぎることなくセリフの方に集中するようにしていました」
今作でサギ男の声を務めた菅田将暉は、所属事務所の先輩。実写映画「CUBE 一度入ったら、最後」以来の“共演”となった。
「菅田さんには、『君たちはどう生きるか』のアフレコ前にお会いする機会がなかったんです。その後、事務所の忘年会でお会いした際に『良かったよ。山ちゃんの声が先に入っていてやりやすかったし、イメージも湧きやすかった』と言ってくださって、嬉しかったです」
高校の同級生からは「言ってよ!」
世界が注目する宮崎監督の10年ぶりの新作だけに、出演していることが公になってからは周囲の反応が劇的に変わったことは想像に難くない。最も身近な存在である、家族の反応はどのようなものだったのだろうか。
「母は『え?』と言って、止まっていました(笑)。大好きなジブリ作品に息子が出るというので思考停止してしまったらしく、10秒後くらいに喜んでくれました。でも、自分も出演が決まったとき同じような感覚だったんですよね」
情報が一切伏せられているなかで、誰かに言いたくなる気持ちは想像に難くない。実際、本人は相当な我慢を強いられたようだ。
「言いたい! と思っていました(笑)。夏休みが始まる直前に公開されたのですが、初日の朝、学校のクラスで『観に行こうよ』と僕の真横で話している友だちがいたんです。その時が一番『ああ、もう言いたい!』と、もどかしかったです。
でも、僕が出演しているという公式発表がその日の午後8時だったので我慢しました。観に行った友だちからは、すぐに連絡がきました。『出てたの? 朝言ってよ!』って。高校の友だちも観に行ってくれているほど影響が大きいんだなと驚き、皆さんの反響の声を聞いて、ようやく実感が湧いてきました」
友人たちから祝福のLINEが絶え間なく届いたことを嬉しそうに語る山時だが、この大仕事を終えて、見据える先に新たな目標は定まったのだろうか。
「僕の将来の夢は、日本アカデミー賞で新人賞、そして最優秀主演男優賞を受賞することです。いま、高校3年生なんですが、出演しているドラマ『最高の教師 1年後、私は生徒に■された』の男子の中で最年少なんです。まだまだ頑張れるし、努力できるし、未来はいかようにでも変えられると思っています。このドラマに主演する松岡茉優さん、事務所の先輩の菅田さんは生徒役も先生役も経験されている。僕もいずれ先生役がやれたらなと思っています。それが、プロの俳優に近づく過程であればいいなと感じています」
筆者が山時を最初に取材してから、約1年半。「トップコートで一番丸刈りが似合う俳優がいるんです」と、当時の担当マネージャ―から売り込まれたことが取材のきっかけとなったが、赤面症だった少年の姿はもうない。今後さらなる飛躍の契機となるような作品に出合うことを願ってやまない。
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執筆者紹介
大塚史貴 (おおつか・ふみたか)
映画.com副編集長。1976年生まれ、神奈川県出身。出版社やハリウッドのエンタメ業界紙の日本版「Variety Japan」を経て、2009年から映画.com編集部に所属。規模の大小を問わず、数多くの邦画作品の撮影現場を取材し、日本映画プロフェッショナル大賞選考委員を務める。
Twitter:@com56362672
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