鳥山明「SAND LAND」で考える、日本がアニメ大国になった理由とは?【コラム/細野真宏の試写室日記】
2023年8月19日 08:00
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映画はコケた、大ヒット、など、経済的な視点からも面白いコンテンツが少なくない。そこで「映画の経済的な意味を考えるコラム」を書く。それがこの日記の核です。また、クリエイター目線で「さすがだな~」と感心する映画も、毎日見ていれば1~2週間に1本くらいは見つかる。本音で薦めたい作品があれば随時紹介します。更新がないときは、別分野の仕事で忙しいときなのか、あるいは……?(笑)(文/細野真宏)
今週末の8月18日(金)から鳥山明の原作マンガを劇場アニメ化した「SAND LAND」が公開されました。
ただ、そもそも、「SAND LAND」という作品を知らない、という人も多いでしょう。
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マンガ家・鳥山明の代表作と言えば、「Dr.スランプ」「ドラゴンボール」の2作品があります。
1980年5・6合併号の「週刊少年ジャンプ」で「Dr.スランプ」の連載が始まりましたが、この作品が日本を現在のアニメ大国にする流れを作っていたことはあまり知られていないような気がします。
「週刊少年ジャンプ」といえば、1995年の3・4合併号で「653万部」という発行部数を記録し、この週刊マンガ誌におけるギネス記録は未だ破られていません。
その「週刊少年ジャンプ」は、実は「アニメ化」の動きに対して、当初は消極的なスタンスをとっていたのです。
そんな「週刊少年ジャンプ」が、フジテレビの熱意に後押しされ「Dr.スランプ」のアニメ化の許可を出したのです!
1981年4月から「Dr.スランプ アラレちゃん」としてフジテレビ系列でゴールデンタイム19:00~19:30(水)に放送され、高視聴率をマークしました。
加えて、関連グッズが飛ぶように売れるようになり、版元の集英社は版権収入に加えて、単行本や雑誌自体も加速度的に売れるようになったのです。
この「ゴールデンタイムにアニメ―ション視聴」という体験を、いわゆる団塊の世代と、その子供世代がしてきています。
そして、アニメーションとの親和性の高い世代が育っていくと、その世代に向けた映像表現は必然的に、技術革新が目覚ましいアニメーションが強くなっていきます。
その結果、今やどの世代にとってもアニメーションは文化として定着し、親しみのある表現手法となっているわけです。
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「Dr.スランプ」のアニメ化の大成功によって、マンガのヒット作を生み出し続けているトップの「週刊少年ジャンプ」が大きく変わることになったのです。
「Dr.スランプ」のネタを考えるのが限界になったとして、連載の終了を鳥山明が集英社に打診した際も、もはや「週刊少年ジャンプ」という雑誌にとっても「鳥山明」は大き過ぎる存在になっていました。
そこで、「3カ月後に新しい作品を連載する」という厳しい条件のもと、1984年39号で「Dr.スランプ」の連載が終わり、 1984年51号から「ドラゴンボール」が始まることになったのです。
「Dr.スランプ アラレちゃん」は1981年4月8日~1986年2月19日まで放送が続き、間髪入れず翌週の1986年2月26日から「ドラゴンボール」の放送が始まっています。
結果的に、鳥山明による原作作品が約18年間にもわたってフジテレビ系列のゴールデンタイム19:00~19:30(水)を担ったのです!
この「集英社×フジテレビ×東映アニメーション」の関係は、「Dr.スランプ」「ドラゴンボール」を経て、現在の「ONE PIECE」まで順調に進んでいます。
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では、原作者が鳥山明の「SAND LAND」であれば、再び「集英社×フジテレビ×東映アニメーション」の製作か、というと、今回は違います。
今回の「SAND LAND」については、バンダイナムコHD(ホールディングス)だけで作られています。
そもそも「SAND LAND」は、「Dr.スランプ」「ドラゴンボール」の連載が終わって、「週刊少年ジャンプ」の部数が大きく下がることになったため、テコ入れとして投入された作品でした。
具体的には「単行本1冊分」の短期集中連載として、2000年の23号~36・37合併号の全14話からなる連載で生まれたのです。
その埋もれていた作品にバンダイナムコが目を付け、「独自のアプローチ」で映画化しました。
「独自のアプローチ」とは、2022年6月11日に公開されたドラゴンボールの最新作「ドラゴンボール超 スーパーヒーロー」でようやく採用された「全編3D化アニメーション」です。
この「全編3D化アニメーション」の場合は、制作コストが上がるので、映画に勝算がないと挑めないように感じます。
しかも、原作は1巻完結で、今回の映画で描き切っているのでシリーズ化も期待しにくい面があります。
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そこで、注目したいのが60万個の「入場者特典」である、「鳥山明描き下ろしアートボード(A5サイズ)」と「スーパードラゴンボールヒーローズ バトルカード:ベルゼブブ」のセットです。
前者は、鳥山明ファンへのサービスで、後者は、バンダイナムコが手掛けるカードゲームにおけるカードです。
つまり、バンダイナムコがカードゲームへのプロモーションを兼ねている面があるのです。
また、バンダイナムコは、(今回の映像技術をフルに使ったと思われる)「アクションRPG」のゲームリリースの予告をしています。
これらを総合的に考えると、今回の「SAND LAND」の映画化は「バンダイナムコHDだからこそのビジネスモデル」として成立するのかもしれないのです。
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最後に、本作を見て気付いたことに「スタジオ・ライブ」という作画スタジオの存在があります。
エンドロールで本作の映像の生まれ方が見えてくる面白い仕掛けをしていますが、このエンドロールのイラストを「スタジオ・ライブ」が担当していました。
「スタジオ・ライブ」とは、2011年7月に亡くなった芦田豊雄さんが代表を務めていた作画スタジオで、芦田豊雄さんは「Dr.スランプ アラレちゃん」のメインの作画監督として活躍したりしていました。
そして、2007年に「アニメーター及び演出家の地位向上」を目的とし「日本アニメーター・演出協会」(JAniCA)を設立し、アニメ業界の待遇改善を求めてきていました。
そんな芦田豊雄さんの後を継いで「スタジオ・ライブ」の社長になっているのが、本作で「ディレクションアドバイザー」を務めた神志那弘志。
本作の私のイメージは、ベースは「Dr.スランプ」、たまに「ドラゴンボール」といった雰囲気を感じています。
「Dr.スランプ アラレちゃん」で芦田豊雄さんの作画監督時代に原画で支えてきた神志那弘志。まさに鳥山明作品の映像化を初期から手掛けてきたベテランの神志那弘志が適任だったのです。
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このように、スタッフの面から考えても、作画のクオリティーは非常に高い再現性を持っていました。
そして、「アニメーター及び演出家の地位向上」について。
これは、「アニメーション業界を盛り上げること」に加え、「スタッフらをキチンと紹介すること」がそれにつながる重要な要素だと私は考えています。
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