俳優のデジタルクローン化について AIが完全導入されたハリウッドの未来像はどうなる?【ハリウッドコラムvol.338】
2023年8月9日 10:00
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ゴールデングローブ賞を主催するハリウッド外国人記者協会(HFPA)に所属する、米ロサンゼルス在住のフィルムメイカー/映画ジャーナリストの小西未来氏が、ハリウッドの最新情報をお届けします。
ハリウッドで進行中の労使衝突の争点のひとつに、生成AIがある。脚本家たちは、スタジオ側がChatGPTのような大規模な言語モデルを使って脚本を書いたり、リライトを行うことを恐れている。俳優たちは、自分たちが「デジタルクローン」に取って代わられるリスクを懸念している。かくしてアーティストたちは生成AIからの保護やルール作りを求めていたのだが、他の争点と同様、前向きな返答を得られなかったため、ストライキに突入した経緯がある。
ストライキのあいだも、スタジオ側はAIの導入を着実に進めている。Netflixが「プロダクト・マネージャー (機械学習プラットフォーム)」を90万ドルという高額年俸で募集していたことが発覚し、大きなバッシングを浴びたが、実はディズニーやソニーといったライバルスタジオも一様にAI関連の役職を募集している(Apple TV+を抱えるアップルやPrime Videoを持つアマゾンの募集人数はさらに多いが、彼らは本業がテクノロジーなので、どれが映像製作や動画配信に向けたものなのか分かりづらい)。ChatGPTの導入により業務効率の向上につながった企業が多いように、エンタメ業界がAIの導入でコスト削減と生産性向上を狙っているのは明白である。
ただし、映画やドラマは文学から音楽、写真、演劇などが合わさった総合芸術だから応用可能な場面が多すぎて、決定的な利用法はまだ見つかっていない。現時点で見込みが高いと言われているのは、俳優の「デジタルクローン」化だ。俳優の全身をスキャンし、コンピュータ内に役者のクローンを作る。いったんクローンを作れば、生身の俳優は不要となるため、出演料を払う必要がなくなる。
まるでSF映画の設定のように聞こえるかもしれないが、実は一部のハリウッド映画ではすでに採用されている。VFXが多用される大作に出演するさい、役者は全身のデータをとられている。また、「アイリッシュマン」や「インディ・ジョーンズと運命のダイヤル」のように、高齢の俳優がフラッシュバックで若い時期を演じるときも、若い時期のクローンが作られている。
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ただし、クローンは言ってみればデジタル人形なので、なにもしなければ無表情で動作もぎこちない。そのため、VFXアーティストたちがたっぷりのリソースを費やして、演技指導を施している。今後、AIが進歩すればある程度は自動化できるようになるだろうが、現時点では人間の俳優を雇ったほうが安くつく。
そこで、スタジオ側は台詞がある役者ではなく、エキストラにターゲットを当てている。エキストラとは英語でバッググラウンドアクター(背景役者)と呼び、群衆や通行人などを演じる人たちのことだ。米俳優組合(SAG-AFTRA)に所属しているエキストラの場合、1日最低187ドルのギャラが支払われる。人混みの場面となればそれだけ多くのエキストラが必要となり、大規模な場面となると撮影は数日にも及ぶから、コストも膨れあがる。
そこで、エキストラをデジタルクローンにしてしまおうというのだ。エキストラとはもともと画面のなかで目立ってはいけない存在で、動作も単純なので、手間をかけずに実現できる。
実際、スタジオ側の業界団体AMPTPはSAG-AFTRAとの交渉の際に、エキストラに1日分のギャラを払う代わりに、彼らの全身をスキャンし、デジタルクローンを作ることを提案したと言う。だが、SAG-AFTRAはデジタルクローンが無償・無制限で使われることを危惧して猛反発している。
今後の交渉で細かな条件やルールが制定されていくのだろうが、エキストラを演じる役者がデジタルクローンに差し替えられるのは時間の問題だと個人的には思っている。なぜなら、ある程度のお小遣いと引き替えに、自らの肖像権を差し出してもいいと考える一般人はたくさんいるからだ。いずれどこかがクローンのライブラリーを作成し、安価で提供するようになるだろう。
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では、デジタルクローンの先には何が待っているのか?
AIが完全導入されたハリウッドの未来像を描いているとして、業界内でNetflixの「ブラック・ミラー」が話題となっている。「ブラック・ミラー」といえばテクノロジーがもたらす社会変化を描くアンソロジードラマだが、シーズン6の「ジョーンはひどい人」の題材はAIを駆使した動画配信サービスだ。ここでは詳しい説明はしないが、すべてのクリエイターにとって戦慄のシナリオが描かれている。1話完結なので、ぜひとも視聴をお勧めしたい。
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