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革命的ミュージカル映画「ムーラン・ルージュ」のバズ・ラーマン監督が、日本でさらに進化した舞台版を大絶賛!【若林ゆり 舞台.com】

2023年7月4日 09:00

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ミュージカル映画論を語ったバズ・ラーマン監督
ミュージカル映画論を語ったバズ・ラーマン監督

絢爛豪華で艶っぽく、エネルギッシュで退廃的でロマンティック、そしてはかなくもファンタジック。「ムーラン・ルージュ」(2001)はバズ・ラーマン監督が独特の美学を大いに発揮し、ミュージカル映画に新たな革命をもたらした一大エンタテインメントだ。ナイトクラブのショースターで高級娼婦でもあるサティーンと、アメリカ生まれの作曲家の卵、クリスチャンがパリで繰り広げる悲恋物語。クラシックや古典ミュージカルから最新ヒットポップスまで、既存曲をリミックスしてミュージカルナンバーとして見事に構築。物語る音楽をてんこ盛りにしつつ、あっと驚く映像演出で彩られたラブストーリーは観客の心を鷲づかみにして、いまなお色あせない。この映画がきらびやかなマッシュアップミュージカルとして装いも新たに舞台へとよみがえり、ブロードウェイで旋風を巻き起こしたのは2019年。待望久しかった「ムーラン・ルージュ! ザ・ミュージカル」は映画に負けない熱狂を呼び、トニー賞でも作品賞ほか10部門を受賞。そして世界上演7カ国目として、この6月下旬、ついに日本で幕を開けた!

「舞台.com」では2回にわたってこのミュージカルを特集。第1弾として、この開幕を誰よりも楽しみにしていた人のひとり、映画版の監督・製作・脚本を務めたバズ・ラーマンのインタビューをお届けする。
画像2写真提供/東宝演劇部

今回、このミュージカルのプレビュー開幕に合わせて来日し、プレビュー公演の初日を観劇したラーマン。興奮冷めやらぬ彼の目に、日本人キャストによる上演はどう映ったのだろう。

「とてもエキサイティングだったよ! 日本語で上演されたものなので言葉は違っていたけれど、僕はすごくよく理解できたし非常に心を動かされた。翻訳と訳詞もうまくいっていたと思う。ユーモアについても、たとえばジドラー(※ナイトクラブ「ムーラン・ルージュ」の経営者)が面白さを発揮して観客を沸かせているのを感じることができたよ。僕は世界中でこのショーが上演されるのを見てきたんだ。でも日本のみなさんほど強烈にこのショーに対する情熱と熱意、コミットメントを感じたことはなかったと思う。それぞれの国で、その国のテイストや文化が影響するものだけれど、日本版は感情の部分をいちばん深く感じることができるものだった。悲劇性がより強く感じられて、本当に感動的な仕上がりだったね。最後の悲劇的なシーンについては、これまで見たどのバージョンにも増して、いちばん感動したと言えるくらいだ。日本人キャストのみなさんはとても素晴らしい演技を見せてくれたと思うし、感謝しているよ」

画像3写真提供/東宝演劇部

オリジナルの映画版「ムーラン・ルージュ」は、ラーマン監督にとって非常に思い入れの強い作品だ。ありとあらゆるミュージカルの要素が詰め込まれ、いままで見たことがないような映像表現に満ちあふれた、ラーマンにしかつくれない映画。ラーマンがこれをつくる原動力となったのは、「ミュージカル映画への愛」だったという。

「当時、僕はミュージカル映画というものを再発明したいという、強い意欲をもっていたんだ。大好きなジャンルなのに、すっかり廃れてもう過去のものになってしまっていたからね。とにかくどういう設定にするか、どういうストーリーにするかと考えたとき、ありとあらゆるミュージカルを研究した。僕はどの時代のミュージカルも大好きなんだ。だから各時代、各スタイルのミュージカルに対して、すべてにオマージュを入れていった。僕たちが知っているポピュラー音楽の多くは、古いミュージカルを基につくられている。それで古いミュージカルには、誰もが耳になじみのあるような曲がたくさんあるから、そういう曲を使いたかった。なおかつ、現代的なミュージカルをもう一度つくりたかったんだ。ノスタルジックで郷愁を誘うけど、それはすごく新鮮でなくてはならないし、革新的に見えるようにしたかった」

画像4写真提供/東宝演劇部
画像5

耳なじみのある古い曲たちと、現代のポピュラー音楽が短いフレーズ単位でつなぎ合わされる「マッシュアップ」という手法でリミックスされた音楽は、ストーリーや登場人物の感情にピタリとはまってミュージカルの醍醐味を増幅させた。こんなふうに音楽を「ピタリと」当てはめていく作業は、どんなものだったのか。

「それは非常に興味深いプロセスだったよ。僕が好きな音楽を使うというより、物語にぴったりフィットする曲、物語を伝え、感情を語るのに最もふさわしい曲はどれなのかということを検証しながら探していったんだ。つまり、僕らチームでシーンごとに、劇的に効果を発揮しそうな曲を思いつく限り書き出していって、どういう効果を生み出すかを実験、実証していった。歌はすべて、ドラマの瞬間を雄弁に語るものでければいけないからね。だって音楽が感情を高め、より感情的なドラマを伝える最強の味方になってくれるということこそが、ミュージカルの魅力だと思うから。今回のミュージカル版で『マッシュアップ』を再構築したアレックス・ティンバースとジャスティン・レビーンのチームは、ミュージカル音楽をさらなる高みへと押し上げたと思うよ」

画像6写真提供/東宝演劇部

この映画が公開されてから舞台版ミュージカルが誕生するまでには、18年の月日が流れていた。その間にラーマン監督が自分でミュージカル化をしようと考えたこともあったそうだが、結局は作品の生みの親にはならず、作品にとって「よき祖父」である道を選んだという。

「僕がデビュー作『ダンシング・ヒーロー』を撮ったときは29歳から30歳ぐらいで、この『ムーラン・ルージュ』のときは38歳ぐらいだったんだ。そして歳月を経たいま、この舞台版をつくるとしても、僕はもう当時の自分には戻れない。その時点で僕は50代になっていて、もう映画をつくったときと同じような感性はもっていないと思った。だから自分でやるよりはむしろ、38歳の自分と似た感性を持ったアーティストに任せた方がいいと気づいたんだ。そして(舞台版の演出を手がけた)アレックス・ティンバースは、まさに38歳頃の自分を彷ふつとさせる人だった。アレックスと出会ったのは、友達宅でのディナーパーティで、隣の席になってね。そのとき彼の話を聞いて、彼こそがまさに適任者だと思えたんだよ。だから彼らに任せて、僕は彼らの仕事がうまくいくよう祖父の立場からサポートをしようと決めた。一歩引いた祖父の立場から、子育てに行き詰まった彼らにアドバイスをしたり意見を出したりして、役に立てたこともあったと思う。ミュージカルの成長を思えば、彼は正しい親だと思うし、僕は正しい祖父だったと思うよ」

画像7写真提供/東宝演劇部

そして、ラーマン監督が手塩にかけた映画は、若い才能によって舞台ミュージカルとして新たな命を得た。生まれ変わった作品がステージの上で新たな魅力を発揮し、観客を熱狂させているのを目の当たりにしたときは「最高の気分だった」と、ラーマン監督。

「それは僕にとって、本当に新しい経験だった。もうこの年齢になると新しい経験というのはなかなかできないものなんだけれどね。僕が20年も前に作った映画の舞台版を実際に見たとき、完全に観客としても楽しめたと同時に、特別なつながりを感じてもいた。自分がつくったショーなんだけれど、自分がつくったショーではできないような形で見ることができたんだから。それはもう楽しかったよ。もし自分が生みの親になっていたら、こういう体験はできなかったと思う」

画像8写真提供/東宝演劇部

とくにグッときたシーンや、お気に入りのシーンは?

「それはもういっぱいあるよ。革新的なシーンがけっこうあるし。とくに挙げるとすれば、2幕のオープニングだね。信じられないくらい素晴らしいと思う。クオリティが高くて、技術的にも音楽の複雑さも、ダンスのレベルだけでもセンセーショナルだ。それから、これまでにいろいろな国で何回も見ているけど、どのプロダクションでも悲劇性のあるエンディングがとてもシンプルに明かされることに驚くよ。それが、すごく効果的だと思うから。とくに日本ではそれが強く感じられた。僕はアレックスのとった解決法がとても好きなんだ。そして、この悲劇の後でクリスチャンがまたこの物語を書き始めるという構成。これはアレックスが本当にいい演出をしたなと思うし、いつもグッとくるところだ。ここにはクリスチャンというひとりの青年の成長がクッキリと浮かび上がっている。これはある種の神話のようなもので、物語の根底にはひとりの青年が、若さゆえの理想主義から愛を知って失うことで苦しみ、そして成長していくという道がある。それは映画でも僕が最も伝えたかったテーマのひとつだった。だから、そこにもすごく満足しているんだ」

画像9撮影/若林ゆり

映画を原作としたミュージカル作品は、非常にたくさん生み出されている。ラーマン監督の考えでは、映画をミュージカル化する上で最も大切なことは「その映画を熟知して、新しい解釈をすること」だという。

「まずはその映画を本当に知って、愛さなくてはね。映画から舞台にするというのは非常に複雑な仕事だし、いろいろなバランスをとらなければならないし、そのプロセスは困難に満ちている。でもまずは映画に触発されて、インスパイアされなくてはいけないと思う。映画を愛する人たちが絶対に見たいと思う要のシーンとか瞬間は必ずあるものだから、期待に応えてそれを提供しなきゃいけないんだけれど、同時に新鮮で、まったく新しいもののように感じさせなきゃいけないんだ。型にとらわれることなく、相反するふたつの条件を満たすことが求められるわけだから、非常にトリッキーな道だよ。だから大事なのは、作品におけるソウルフードのようなものを見逃さないこと。食べて癒しになるような、ホッとする食べ物。でも、それは新たな解釈によって新しい調理がなされて、まったく違う味わいをもつべきなんだ。それには適切な再解釈が不可欠で、このミュージカル版においてそれをやってのけたことが、アレックスの偉大な功績だと思う」

自分の映画のミュージカル化ではないかもしれないが、いつか舞台ミュージカルを演出してみようという気持ちはもっているというラーマン。しかし、それより先に、映画「ムーラン・ルージュ」の「特別映像版」が見られるかも!

「オリジナル映画から十分な時間が経過しているので、また新たにスペシャルな映像作品をつくれるのではないかと考えているんだ。まだどんなものになるかはわからない。映画でなければ、特別番組かもしれない。ストリーミングサービス版とか、いろいろな可能性があるよね。どんな形かわからないけど、何かしらのスペシャル版ができるはずだ。自分でも見るのが楽しみだよ」

「ムーラン・ルージュ! ザ・ミュージカル」は、8月31日まで東京・日比谷の帝国劇場で上演中。詳しい情報は公式サイト(https://www.tohostage.com/moulinmusical_japan/)で確認できる。

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