“A24新作”監督の異色すぎる経歴 ゲイであることで母に捨てられる→10年間ホームレス→海兵隊志願
2023年6月27日 18:00
「ムーンライト」「エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス」といった革新的な作品を送り出してきた映画会社A24の新作「インスペクション ここで生きる」。同作を手掛けたのは、異色の経歴を持つエレガンス・ブラットン監督。本記事では、解禁されたメイキング写真とともに、本作の核となった“驚きの実話”を紹介していこう。
イラク戦争が長期化する2005年のアメリカ。ゲイであることで母に捨てられ、生きるためにすがるような想いで海兵隊に志願した青年・フレンチ。彼を待ち受けていたのは、軍という閉鎖社会に吹き荒れる差別と憎悪の嵐だった。理不尽な日々に幾度も心が折れそうになりながらもその都度自らを奮い立たせ、毅然と暴力と憎悪に立ち向かうフレンチ。孤立を恐れず、同時に決して他者を見限らない彼の信念は、徐々に周囲の意識を変えていく。
主人公エリス・フレンチを演じるのは、ジェレミー・ポープ。俳優、そして歌手としても活動しており、2019年のトニー賞では別々のパフォーマンスで2つの部門(演劇主演男優賞/ミュージカル助演男優賞)にノミネートされるという、史上6人目の快挙を成し遂げている。本作では、第80回ゴールデングローブ賞で主演男優賞(映画・ドラマ部門)にノミネート。また、音楽は「21世紀の最重要バンド」と評されるアニマル・コレクティヴが担当している。
1979年生まれのブラットン監督は、ゲイであることで母親に捨てられ、16歳でホームレスになった。そのまま10年という長い年月を路上で過ごした後、生きていくために海兵隊への入隊を志願している。過酷な訓練と差別が横行する壮絶な環境のなか、そこで与えられたのは、フィルムメーカー(映像記録担当)の仕事だった。
そのことが転機となり、クィアで黒人であるせいで社会からのけ者にされ「透明で重要ではない」と感じていた自分自身を癒すために映画を撮ろうと決意したという。やがてコロンビア大学の理学士、ニューヨーク大学ティッシュ校大学院映画学科の修士の学位を取得し、2022年に“自分の半生”をそのまま詰め込んだ本作を完成させた。
ブラットン監督の長編デビューとなった「インスペクション ここで生きる」は、トロント国際映画祭でのプレミア上映を皮切りに各国へと渡った。卓越した演出力やエモーショナルな人間ドラマの構築が世界から絶賛され、さらに、マーティン・スコセッシやケイト・ブランシェット、レニー・クラビッツやジェイ・Zといった映画人やアーティストたちから、ブラットン監督のもとへ直接賞賛の声が届いたようだ。
ホームレス時代、映画や音楽、アートなどの芸術家たちの本を盗み出し、小さな書店に売って“生きるためのお金”を捻出していたブラットン監督。華麗なるサクセスストーリーと言えるだろう。
そんな異色の経歴を持つブラットン監督は、自身を投影したフレンチが「(劇中で感じる)欲望、恐れ、そして最終的に抱く目標まで、すべてが本物」だと告白。自身の物語を世界へと共有できることは“実に幸運なこと”だと明かしている。
「同様のつらい経験をしたために、自らの話をすることができない人たちが大勢いることを知っています。この作品は完全に個人的な映画ですが、あらゆる種類の似たような体験をしてきたすべての人たちの心と考えが変わることを願っています。私が持っている“最強の武器”は、この物語を通して皆さんに私の真実を体験してもらえることです」
かつて体験したパーソナルな物語を、普遍的なストーリーへ――。念願の作品に切なる思いを込めたブラットン監督。映画界は、自身が育った環境とはまるで違った人々が集まる場所だったため、“ホームレスを経験した”ということを負い目に感じる瞬間もあったという。
しかし、本作を完成させたことでそうした考えは一切なくなり「困難を価値のあるものに変えることができた」という強い確信へと変化したと語っている。
「インスペクション ここで生きる」は、8月4日からTOHOシネマズ シャンテ、新宿武蔵野館ほか全国公開。R15+指定。
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