ハリウッド実写映画「聖闘士星矢」の聖衣はなぜあのデザインなのか? 監督に直接聞いてきた
2023年4月10日 11:00
車田正美氏による世界的人気漫画をハリウッドで実写映画化した「聖闘士星矢 The Beginning」が、4月28日から日本公開される。
原作漫画は世界累計発行部数5000万部(2022年2月時点)を超え、アニメは80カ国で放送、特にヨーロッパや中南米で熱狂的に愛される「聖闘士星矢」シリーズ。日本でも根強い人気を誇るだけに、今回の実写映画化に対して、ファンからは不安や期待が入り混じった声が多く上がっていた。
特に話題を集めたのは、聖衣(クロス)のデザインについてだ。披露された予告編やポスターには、漫画やアニメのイメージとは異なるデザイン・色・質感の聖衣を、主人公が身にまとっていたからである。
なぜこうしたデザインになったのか? どんな狙いがあるのか? 今回、疑問を解消するべく、映画.com編集部が今作の監督を務めたトメック・バギンスキーにオンライン・インタビューを実施。「聖闘士星矢」に対する見解や洞察をはじめ、聖衣のデザインの理由、原作者・車田正美からの要望など、気になる重要トピックスを詳細に話してもらった。(取材・文・構成・編集/映画.com編集部・尾崎秋彦)
トメック・バギンスキー:ポーランド出身。製作総指揮・演出を手がけたNetflixドラマ「ウィッチャー」で世界的に評価された俊英で、ショートアニメ「Katedra(原題)」(2002)では第75回アカデミー賞にノミネートされた実績も持つ。
主演は新田真剣佑が務め、共演陣には「ロード・オブ・ザ・リング」のボロミア役で知られるショーン・ビーンら豪華スターが結集。アクション監督をジャッキー・チェンのスタントで有名なアンディ・チャン、VFXを「マトリックス レザレクションズ」「DUNE デューン 砂の惑星」「ジュラシック・ワールド 新たなる支配者」を手掛けたDNEGなどが担当し、一流の製作陣が結集した。
あらすじ:これは、はじまりの物語。幼い頃に姉と生き別れになった青年・星矢は、姉を探しながらスラム街の地下格闘技で生計を立てていた。ある日、アルマン・キドと名乗る男に出会い、女神アテナの生まれ変わりであるシエナを、“グラード”と呼ばれる人物が率いる組織から守るという、自らの運命を知ることになる。
バギンスキー監督:よろしくお願いします。原作で個人的にユニークだと感じているのが、派手なアクションとスピリチュアルな心理描写が混在しているところです。
また、登場人物が自分を犠牲にして、仲間や信じるもののために進むことが、非常に独特で日本的だと強く感じました。自己犠牲は特に今の時代に重要なテーマです。そしてすべてのキャラが、バトルに負けたとしても、相手の心を勝ち取るというメッセージを体現しています。
原作は35年以上前の作品ですが、今の時代だからこそ「聖闘士星矢」の根底にある自己犠牲や贖罪(しょくざい)というテーマを語り直す必要があると強く感じました。
バギンスキー監督:自分が山羊座なのでカプリコーンのシュラと答えるべきだと思いますが、一番自分と繋がりを感じるのは、実は星矢なんです。
星矢は反骨精神を持ち、絶対に諦めない。これは職業としての映画監督に求められていることそのままなんですね。現場での撮影や製作費の交渉など、譲ってはいけない、諦めてはいけないことがたくさんあります。その点で、星矢をみていると勇気をもらえます。
バギンスキー監督:そうです。もうひとつ、別の角度からですが、辰巳徳丸(※編集部注:沙織=映画ではシエナの執事兼ボディガード。原作では星矢たちに高圧的に接する)についてお話させてください。映画ではマイロックというキャラクターとして登場します。プロジェクトをはじめたとき、スタッフのなかにこの辰巳徳丸を好きな人が誰もいなかったんです。
であれば、自分が世界中の人にこのキャラを好きにさせてみせる、と挑戦しようと決意しました。自分ではうまくいったと思いますし、ファンの方から好反応もいただいていて、自信のあるキャラクターです。
バギンスキー監督:今作はできるだけ漫画原作に忠実に、観客に提供したいと思っていました。ただ映画になることで、「聖闘士星矢」を知らない人たちにも観てもらう必要があります。そう考えたときに、説明しないといけない要素が非常に多いことがネックでした。たとえば小宇宙(コスモ)や聖闘士(セイント)という概念、人間関係やそれぞれの人物が求めることなど、丁寧に説明するとものすごく膨大になってしまいます。
なので今回は、原作漫画を踏まえながら(映画の尺にあわせ魅力的な物語にするために)、星矢と沙織の物語にフォーカスすることにしました。ネタバレを避けつつ、ひとつ大きな変更点を挙げるならば、沙織(映画ではシエナ)の性格を意図的に“強く”した点です。
特に現代では“ただ助けられるヒロイン”として描くと違和感を与えてしまいかねない。原作の沙織が持つ要素を残しつつ、一方でどれくらい彼女のキャラクターを自然に発展させ、原作の物語にもフィットできるかを見極めることが、大きなチャレンジでした。
しかし観ていただけると、この映画の後、どうやって自然と“原作漫画の物語”につながっていくのかは、ファンの方にはわかってもらえると思います。
バギンスキー監督:今回の作品での音楽は実写版に合わせて新しく作曲されたものです。それもあり当初から、「ペガサス幻想」をどこかで使いたいと思っていました。
(今作の音楽を担当した)作曲家の池頼広さんと一緒に、アニメから受け継いだ遺産に対して、どのように楽曲を使用すれば最も敬意を表明できるかを相談しました。「ペガサス幻想」は「聖闘士星矢」という作品の中では欠かせない重要な要素であり、今回のような形で収まるべきだと思っていました。
バギンスキー監督:聖衣は完成までに最も長いプロセスを要しました。最初はいろいろなデザインを作りました。もちろん、原作漫画やアニメを強く踏襲したデザインもです。また、特にハリウッドの著名デザイナーにも多く案を出してもらいました。
しかし、プロジェクトの最初期にそうしたデザイン案を車田正美先生にお見せしたときに、「こうじゃないんだよね」と言われたんです。原作の再現が大事なわけではない、と。車田先生は「自分は聖衣を最初に描いたとき、古代ギリシャの鎧をベースに作っていた」とも言っていて、ハッと気づかされたんです。
今までのデザインを全部捨てて、実際にギリシャやヨーロッパの鎧をつくる鍛冶屋に協力をあおぎ、「やはり『聖闘士星矢』のシルエットは残したい。そのうえでどうすれば」などと相談しながら、本物の西洋の鎧と同じ製法で創出していきました。
バギンスキー監督:重要視したことは、「実際に古代から受け継がれる聖衣が存在するならば、どうなる?」ということでした。原作の再現ももちろん重要ですし、意識しましたが、それ以上に車田先生の「古代ギリシャの鎧をベースに作っていた」という言葉をヒントに、原作をベースにしつつも極めてリアリスティックに聖衣の存在を考え、具現に落とし込んでいったのです。
ひとつ避けたかったのが、聖衣をすべてCGでつくること。CGで聖衣をこしらえてしまえば、それは「聖闘士星矢」ではなくなると感じたからです。そして特にアニメ版の聖衣は、尖っているパーツが多いことが特徴的なデザインです。アニメそのままに具現化すれば俳優の動きに制限が出て違和感が拭えないでしょうし、それこそCGに頼らなければ制作できなくなります。
というわけで、本物の鎧と同じ製法で、実際に聖衣を制作することを選びました。実在する素材を使用し、リアルの人間が着て、動けて、見て違和感がなく、かつ原作の聖衣の特徴をとどめた聖衣を創出することが、今回の最大のチャレンジでした。
素材は鋼だと重すぎて役者が動けず、アクションができません。なので比較的軽い金属を選定し、さらに(可動域を確保するため)100以上のパーツにわかれるように制作し、アクション部などとの試行錯誤の末にようやく動けて、かつ原作のシルエットに近い聖衣ができあがりました。
結果、もしも本当に聖衣が現実世界に存在するならば、きっと今作のような形になるだろうと自負しています。それくらい長いプロセスを経て、こだわりをこめていったのです。
もうひとつ重要なことは、他の作品で観たような“鎧”にはしたくなかったんです。原作の星矢がそうであるように、この作品は独特のスタイルや世界観を持っています。星矢らしさの真髄を受け継ごうとしました。
バギンスキー監督:さまざまな理由から、今作の聖衣にファンから批判が起こることは重々承知のうえですし、実際にチームのなかでもそういった声は上がりました。漫画やアニメの色・素材と異なるという指摘もあります。しかし、ディテールに目を向けてもらえると、特にアニメのデザインにある要素を、今回の実写用に誠実にリデザインしていることがよくわかると思います。
バギンスキー監督:私自身は今回のデザインに満足していますし、最終的に製作チーム全体でも意見は一致したと思っています。徹底して議論を重ね、優れたデザインだけでなく実用的な機能も追求できたからです。作品の独自性と斬新さを備え、そしてCGを使わずとも撮影ができるという重要な特性を兼ね備えたものになったと考えています。
バギンスキー監督:チームでかなり長く協議したのは、ヘッドギアに関してでした。企画段階からプリプロダクションの間、私たちは各聖衣の見栄えについて徹底して議論しました。特に今作での星矢のヘッドギアは、原作漫画とアニメの“ペガサスの聖衣”の違いをじっくりと分析しました。
原作漫画ではペガサスのヘッドギアはいつも冠(ティアラ)型のものです。ペガサスが中央に位置し、両サイドに小さな翼がついています。物語が展開していくにつれ星矢の聖衣は進化していきますが、このヘッドギアの構成は不変でした(第二形態を除いては……それは紫龍の血のおかげで再生されたからでしょう)。
一方でアニメ版では、最初は漫画と異なり、ヘルメット型になっています。ペガサスの頭部そのものが星矢の頭をすっぽり覆う形ですね。とても素晴らしい、象徴的なデザインです。
そこで、実写版のヘッドギアです。アニメと漫画、両方の要素を取り入れたものにしました。漫画のようにペガサスを中央にかかげ、両サイドに翼をもってきています。また、アニメのように星矢の頭を覆う形のヘルメット型にした、というわけです。加えて、古代ギリシャのヘルメット「コリント式兜」のように、側頭部や口元を保護する要素も取り入れています。
今回の経験のおかげで、続編でのデザインアイデアもたくさん沸いてきました。ひとつ例を挙げると、金属製の鎧の方が動きが良いということがわかったので、特に今作のフェニックス(本編にしっかり登場するのでお楽しみに)の聖衣に反映させ、可能な限り金属バージョンを使って撮影していました。
とはいえ、やはり(軽い素材で作っても)金属製の鎧は重く、戦いやアクションがしにくいので、できないことも発生しました。しかしながら、多くのシーンでフェニックスは本物の鎧を着ています。スクリーン上で「それを感じる」ことができるでしょう。
バギンスキー監督:ものすごく印象に残っていることは、最初に聖衣をデザインしているときのことです。初期のころ、私たちは“完ぺき”や“完成形”を目指していたのですが、車田先生のチームの方を経由して「そうじゃなくていいんです」と言っていただいた。
「聖衣は星矢たちの成長とともに姿を変え、小宇宙の影響を受け形成されていきます。だから、最初は未完成のままでいいんです。小宇宙を受け進化するのです」と。原作でも、初期は胸当てなどとても簡易的なものですよね。
答えは明らかに目の前にあったのに、なぜ気づかなかったのだろうと思いました。そのとき、これは見た目の作品ではなく“心が連動する作品”でなければいけない、これが「聖闘士星矢」なんだと改めて気づかされました。ゆえに、キャラクターも聖衣も成長していくことを物語に強く取り入れています。
私が「聖闘士星矢」で好きなことは、力ではなく“心”で勝ち取らなければ、聖衣も勝利も手に入れられない、というテーマ。そして、本当の戦いは自分自身だということです。それが物語で表現できて、とても手応えを感じています。
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執筆者紹介
尾崎秋彦 (おざき・あきひこ)
映画.com編集部。1989年生まれ、神奈川県出身。「映画の仕事と、書く仕事がしたい」と思い、両方できる映画.comへ2014年に入社。読者の疑問に答えるインタビューや、ネットで話題になった出来事を深掘りする記事などを書いています。
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