【「映画ネメシス」特別インタビュー】広瀬すず&櫻井翔、“夢”から辿るそれぞれの正義
2023年3月29日 19:00
広瀬すずと櫻井翔が主演し、江口洋介らと共演する人気ドラマの劇場版「映画ネメシス 黄金螺旋の謎」が、3月31日に封切られる。映画.comでは、2021年4月期の連続ドラマ時から厚い信頼関係でタッグを組んできた広瀬と櫻井に話を聞いた。(取材・文/大塚史貴、写真/根田拓也)
「ネメシス」は、天才的なひらめきで事件の真相を見破る探偵助手の美神アンナ(広瀬)、ポンコツだが人望に厚い自称“天才探偵”の風真尚希(櫻井)が、栗田一秋(江口)が社長を務める探偵事務所「ネメシス」に寄せられる難解な依頼に挑む物語。映画版の舞台は、ドラマ最終話から2年後。依頼がピタリと止まり経営難に陥った探偵事務所「ネメシス」は、雑居ビル屋上の小さな事務所へ移転しているという設定だ。
物語は、アンナと風真が誘拐されたペットの犬を奪い返して欲しいという高額報酬の依頼を引き受けるところから始まる。その頃から、アンナは仲間たちが死んでいく悪夢を毎晩見るようになる。そして、「窓」と名乗る正体不明の男(佐藤浩市)の出現をきっかけに、大切な仲間たちが次々と生命の危機にさらされていく……。
今作の脚本を務めるのは、「アンフェア」シリーズなどミステリーの名手として知られる秦建日子氏。連続ドラマでは総監督を務め、全10話のうち7話の演出を手がけた入江悠がメガホンをとり、秦氏が仕掛けた複雑なトリックの数々を映像に昇華してみせた。だが、広瀬と櫻井はこの脚本を、初見で完全に理解することは出来なかったと明かす。
広瀬「最初に読んだときは、よく分かりませんでした。私だけなのかな? と思って現場へ行ったら、皆さんも同様に『分からない』って。いい現場だなって思いました(笑)。どのシーンも、監督が入る前に説明してくださるので、やりながら徐々に理解していくのですが、でもやっぱり分からなくなったりしました。
もともと映画を主戦場にしているチームがドラマを作っていたので、今回の脚本からはドラマ以上に『やっぱり映画だな』と思える画力が映像を通して感じることができました。時間の使い方が映画は違うので、『こんな風になったのか!』と、今まで自分がやってきた作品とは全く異なるテイストに仕上がっているのは、見ていて新鮮でしたね」
櫻井「脚本を読んで面白いなとは思ったんですが、文字で読んで面白いのと映像にするイメージが出来るかは別の話。脚本として入り組んでいて面白い、難しくて面白い、不思議な感じがして面白い……という要素が詰まっていたんですが、映像になったときにどうなるんだろう? とは思っていました。実際に観てみると、映像でないと出来ない表現が多かったと思いますし、脚本からより立体的になっていましたね」
見どころの多い今作だが、とりわけ本格的なアクションシーンは更にアップデートされている。カークラッシュのシーンではCGを使うことなく、実際に公道を封鎖して撮影。昨今では道路の全面封鎖はハードルが高く、関東近郊で敢行することは容易ではない。だが映画の舞台が神奈川・横浜ということもあり、“横浜感”を損なわないロケーションで行われたという。
ふたりは、プロのカースタントが運転する究極の蛇行運転に実車しており、本編ではリアルな(?)悲鳴をあげている。「カーアクションがありましたね!」と、映画ならではの見どころを聞かれて身を乗り出した広瀬。櫻井も、「凄かったよねえ。カースタントの運転する車に乗って、何テイクも。めちゃくちゃ面白かったですよ」と同調する。
クライマックスの壮大なアクションシーンは、入江監督をして「背景や人物が入れ替わっていく映像は、撮影の手法を含めてかなり複雑で、映画だからこそ成立するものだと思います」と語るほどの力の入れよう。櫻井も「テレビの画面の大きさで観るよりも、スクリーンで観た方が浮遊感みたいなものも感じられると思う」と見どころに推す。
また、今作のキーワードのひとつとして「夢」が挙げられる。広瀬は、仕事に関する夢を見ることはよくあるという。
広瀬「セリフを覚えながら寝てしまうと、夢の中でそのシーンを撮影しています(笑)」
櫻井「面白いね。俺はそういうの、ないなあ。セリフを覚えずに現場へ行くとか、歌も踊りも覚えていないのに急にコンサートに呼ばれるとか、なにひとつ勉強していないのに試験を受けなくちゃいけない……、というのはあるけどね。でも、セリフを覚えていない夢とか、見ないの?」
広瀬「私は現実的な夢しか見ないです。子どもの頃は、爆弾が転がってきて死んでしまう夢というのはあって、あまりの衝撃で目が覚めたので、いまでも覚えています。ヒヤヒヤした夢でいうと、それくらいかもしれません」
櫻井「子どもの頃からよく見る怖い夢とかってなかった? 俺はね、円形の流れるプールでずっと流れているっていう夢。超怖いよ、ずっと流れていて陸に上がれないんだから(笑)」
櫻井のオチは広瀬だけでなく、取材陣の爆笑を誘った。それにしても、今作には個性あふれる登場人物が多数登場するが、映画では「それぞれの正義」というものに焦点が当てられている。ふたりにとって、表現者としていま考える「正義」がどのようなものなのか聞いてみた。
櫻井「『ネメシス』を撮り終えたあと、すずちゃんが出演する野田秀樹さん演出の舞台『Q:A Night At The Kabuki Inspired by A Night At The Opera』を観に行ったんです。すごく良かった。何が良かったかというと、そこにかけた情熱が漏れ伝わってくるからだと思うんです。そこに至るまでの準備なのか、傾けた思いなのか分からないですが、出るものがひとつだとしてもそのプロセスが伝わってくるようなものというのが、受け手として強く感じることができたんです」
広瀬「好きだからやっている、ということですかね……。どれだけ周囲から『向いているよ』と言われても、私が好きじゃなかったらやめてしまうと思うんです。この仕事だけでなく、好きなことは貫きたいなって感じています。その気持ちだけは、嘘つくのをやめようって。やらなきゃじゃなくて、やりたい。表現するというものに関しては、自分に嘘をつきながらやり続ける必要がないものだと思うから」
広瀬「やめたいな、中途半端だな、やめられなくなってきたな、という感覚です。流されている感じもしませんし、この10年で感覚は180度、ぐるっと変わった気がします」
櫻井「僕は何年かに1度しか映画には出ていないからなあ。今回も『ラプラスの魔女』以来5年ぶりになるんですが、この数年は広瀬すずとしか映画に出ていないんですよ(笑)。そういうペースなので、変化というほどのものではないですが、楽しいですよ。20年くらい前は、『ああ楽しいな』と思えるよりも『悔しいな』『納得できなかったな』ということのほうが多いけど、今また楽しいと思えるようになったのは大きいんじゃないですかね」
ふたりのテンポの良い会話からは、互いに全幅の信頼を寄せていることがうかがえる。また、広瀬にとって連続ドラマからの映画化というパターンは、初めてのケースだっただけに、尚更だろう。ふたりとも多忙なため、次に相まみえるのがいつになるのか見当もつかないが、映画ファンを「あっ」と言わせてくれる新たな役どころで再び対峙する日がくることを願わずにはいられない。
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執筆者紹介
大塚史貴 (おおつか・ふみたか)
映画.com副編集長。1976年生まれ、神奈川県出身。出版社やハリウッドのエンタメ業界紙の日本版「Variety Japan」を経て、2009年から映画.com編集部に所属。規模の大小を問わず、数多くの邦画作品の撮影現場を取材し、日本映画プロフェッショナル大賞選考委員を務める。
Twitter:@com56362672
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