片渕須直監督、“清少納言を捉え直す”新作は「1000年前の人をどれだけリアルに描き出せるかが使命」 「マイマイ新子」とのつながりも
2023年3月20日 13:00
新潟市で開催中の「第1回新潟国際アニメーション映画祭」で3月19日、片渕須直監督のトークイベントが開催され、新作(タイトル未発表)の設定、進行状況などを語った。
新作は、2009年公開の「マイマイ新子と千年の魔法」でのリサーチで、舞台となった山口県防府市に子どもの頃の清少納言が住んでいたことを知ったことがきっかけ。「マイマイ新子」にも後の清少納言となる、1000年前に生きた諾子(なぎこ)という少女を登場させたが、映画の完成後も、「この世界の片隅に」を経て、清少納言が生きた時代の調査を続けていたという。「義務教育でも習う『枕草子』の世界は、十二単を着て和歌を詠むようなつまらなそうな世界だが、歴史をたどるとそうじゃないことがわかった」そうで、中宮定子に仕えた清少納言は、紫式部に悪口を書かれたり、藤原道長の子分のスパイの疑いをかけられたりと、現代人が思い描く宮中の女性とは異なる人物像に興味を持った。
「『枕草子』は風流を書いているだけではない。ドキュメンタリーなんです。創作ではなく、清少納言は実際にあった出来事を書いている」といい、「春はあけぼの」の山を探しに行くなど、清少納言が見た景色を追い続けている片渕監督。「月のいと明きに川を渡れば、牛の歩むままに水晶などのわれたるやうに水の散りたるこそをかしけれ」という一文を紹介し、「なんてアニメ向きの映像描写をしてくれる人なんだ、出来事もドラマチックだし、もう絵コンテができてしまいそう」と、清少納言のドキュメンタリストとしての視点を高く評価する。
「それが『マイマイ新子』の時から面白いと思っていて、映画にならないかなと思っていて、『この世界の片隅に』が終わってから、スタッフにやりたいと言った」と、新作では清少納言を中心に、1000年前の若い女性たちの暮らしを描く物語となる。
トークでは、多岐にわたる清少納言とその時代のリサーチ成果の一部も紹介。夏にも十二単を着ていたのか?という疑問に対し、残された絵画資料や当時の布をイメージした見本を見せながら、「透ける素材の着物を着ており、4月になると衣替えをした。夏服は男女差が無くて色はコバルトブルー。多くの場面で半透明の着物を着ている人が多くてアニメーションの絵が大変だ……とおののきました。夏にはかき氷を食べていて、シロップはツタの一種である甘葛(あまづら)という当時の甘味料をかけていた。清少納言は『金属の入れ物にかき氷を入れて、シロップをかけるのがきれい』と書いていて、映像にしようと言われているみたい」と平安時代の夏に思いを馳せる。
また、天然痘など疫病が蔓延した時代でもあり、「疫病で苦しみ、それに伴う政治的混乱で中宮が内裏(だいり)を追い出されてしまう。その後彼女たちがどう生きたのか?」とその後も描き出す予定だ。「マイマイ新子」からスタートし、新子の母世代であるすずさんを描いた「この世界の片隅に」では80年前の日常をリアルに再現した。そして今回、「1000年前の世界を手前に引きよせて、いろんなものが見えてきた気がする」という片淵監督。清少納言を捉え直し、「1000年前の人をどれだけリアルに描き出せるかということが自分たちの使命。清少納言が見たままをスケッチしてくれていたので、今までやってきたことがすべてこの作品を作る道しるべになった。おそらく2025年公開です」と、進行状況をこの日集まった多くの観客に伝えた。
第1回新潟国際アニメーション映画祭は22日まで開催。映画祭の情報は、公式HP(https://niaff.net)で随時発表される。
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