【「The Son 息子」評論】「ファーザー」に続くフロリアン・ゼレール監督作第2弾。父と息子の相容れない関係を描く
2023年3月19日 08:00
劇作家でもある監督のフロリアン・ゼレールが、「ファーザー」に続き自らの戯曲を映画化した第2弾。心に傷を負った息子と、再婚し別々に暮らす父との関係を中心に、苦悩する家族の姿を描いている。主演のヒュー・ジャックマンは製作総指揮にもクレジットされている。
厳格な父アンソニー(アンソニー・ホプキンス)に育てられ、NYで活躍する弁護士ピーター(ヒュー・ジャックマン)は、妻のベス(ヴァネッサ・カービー)と生後間もない息子セオの3人で暮らしていた。そこへ前妻のケイト(ローラ・ダーン)が、同居する息子ニコラス(ゼン・マクグラス)が手に負えないと相談に訪れる。彼女に長男を任せっきりにしていたピーターは責任を感じ、ベスを説得して自宅にニコラスを引き取る。ぎこちない日々の中で徐々に落ち着きを取り戻すニコラスと、彼を受け入れ家族になろうと努めるピーターとベスだったが、思いがけない事態に陥ってしまう。
息子という題名は複合的だ。高校生のニコラスはピーターの息子であり、ピーターは未だ緊張関係にある老父アンソニーの息子でもある。赤ん坊のセオもピーターの息子で、これから思春期を迎える。父子で脈々と受け継がれてしまう父親らしさという呪縛。やり場のない思いが、世代を越えたものとして描かれる。
「ファーザー」と同様、今回もセットや背景が素晴らしい。ピーターが住む高級アパートは、まだ日が浅いからか、壁は殺風景なレンガ仕様で温もりは感じられない。一方、ピーターが出て行ったケイトたちの家は生活感に溢れ、かつて幸福だった家族を想像出来る。成功しているピーターは常に摩天楼を見下ろすような高層オフィスで働いているが、地上のニコラスは見下ろされ、街をさまよい深い地下鉄へと降りていく。
作中「チェーホフの銃」の喩えそのままのシーンが登場する。筆者は門外漢だが、原作が戯曲と言うこともあり、ゼレール監督は偉大なる巨匠を意識したのではないか。偶然かも知れないが、脚本のハンプトンは「三人姉妹」「かもめ」の翻訳を手がけている。チェーホフとなれば、この悲劇には喜劇の要素もあるのだろうか。仏版の舞台動画では、ニコラスが弟セオの世話をベスに申し出る場面など、いくつかのシーンで大きな笑いが起こっている。
濱口竜介監督「ドライブ・マイ・カー」でも演じられた「ワーニャ伯父さん」、そのラストの台詞「生きていきましょう。長い長い日々を、長い夜を生き抜きましょう」を思い出した。残された人々の人生はこれからも続き、辛かった出来事もいつかは笑って話せるかも知れない。そんなことを考えさせられた作品だ。
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