青山真治監督との出会いから別れまで… 妻・とよた真帆が明かす新作映画の存在

2023年1月19日 11:00


クランクインが叶わなかった新作映画では菅田将暉の名前を挙げた青山真治監督
クランクインが叶わなかった新作映画では菅田将暉の名前を挙げた青山真治監督

Helpless」「EUREKA」「サッド ヴァケイション」で知られる映画監督の青山真治さんが、頸部食道がんで死去したのは2022年3月21日。青山監督を見送ってから初めて迎える新年、妻で女優のとよた真帆の姿は、東京・神保町のシェア型書店「猫の本棚」にあった。

クラシックな映画館のようなルックのシェア型書店「猫の本棚」で、青山監督の膨大な蔵書の中から約2000冊を順次ポップアップテーブルに陳列し、展示・販売する「青山真治文庫」が開設された。昨年展開された「大島渚文庫」を知った、青山監督と旧知の間柄の映画評論家・樋口泰人氏からの提案に、同店店主でもある映画評論家・監督の樋口尚文氏が共鳴したことで実現。中には付箋が貼られたままの状態の書籍もあり、青山監督の息吹を感じられる空間で、とよたに話を聞いた。(取材・文・写真/大塚史貴)


●目次

青山真治監督は「茶目っ気の塊みたいな人」

■闘病中に「痛い」「辛い」と言わなかった

■遠隔でも「最後にスタートを言わせたい」と願ったプロデューサーとの新作

■「青山の口から菅田君の名前が出た」


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青山真治監督は「茶目っ気の塊みたいな人」

とよたが青山監督と出会ったのは、第54回カンヌ国際映画祭コンペティション部門にも選出された「月の砂漠」(日本公開は2003)への出演オファーを受けた際だという。青山監督作は観ていたそうだが、「作品しか知らなかったから、どういうお顔なのかも分からなかったんです。すごく大きな印象を覚えて、さらに腰よりも下くらいのロン毛だったので、芸術家っぽいイメージが強かったですね」と当時を振り返る。

ふたりは02年7月9日に結婚するが、監督と俳優という関係から、パートナーへと心が移ろうのに、どのようなきっかけがあったのだろうか。

「年齢的なこともあるのですが、私が当時33~34歳。今後の人生を一緒に切磋琢磨しながら、成長し合えるような人に出会いたいなと考えていた時期と重なったんです。監督の作品に対する向き合い方、真面目な人柄……。初めてサポートしたいなという気持ちになりました。

ひとつのことに没頭して、真剣に取り組んで何かを作りあげるという姿勢に惹かれました。私は散漫で、なんでもやってしまうタイプ。青山は、不器用にひとつのことを突き詰めていく。それと彼が抱える危うさ、少し乙女なところを感じ取って母性本能がくすぐられました」

生活を共にすることで、初めて見えてくることが多々あったはずだ。誰よりも間近で見ていたからこそ、忘れることのできない青山監督の印象深い眼差しがどのようなものであったか聞いてみた。

「言葉は少ないのですが、真面目に色々なことを考え続けている人でしたね。考えている量と比例して、言葉は出て来ないんです。絞り出す前の、迷いの段階のことは口にしない。ただ、それをネガティブにはとらえていなくて、『どうしたらいいのかなあ』って深々と考えている眼差しをする人でした。私が思うよりも、ずっと傷つきやすかったんだと思います」

パブリックイメージほど当てにならないものもなく、とよたは青山監督を「茶目っ気の塊みたいな人」と形容する。

「怖いイメージは全くなくて、どこまでも優しい性格。ただ、協調性はないから、傍から見たらわがままに生きているように感じたかもしれませんね。だからといって、悪い人には見えないんです。私自身もなんとも思っていなかったし、不思議な人でしたね。

怖いイメージを持つ方も多いみたいなんですけど、プライベートで私と一緒に会うと『こんなに可愛い人だったの!?』って、みんなファンになってしまうんですよ。プライベートだと楽しくふざけるし、冗談をしょっちゅう口にしていました」

筆者も20年近く前、偶然同じ飲食店に居合わせたことがあるが、屈託なく笑う表情が記憶に刻まれている。青山監督はお酒にまつわる失敗談も色々持っているようで……。

「道路の真ん中で寝ているところを発見されて、お巡りさんが知らせてくれたこともありました(笑)。近所の方が『真帆さん、だんなさんがまた外で寝てるわよ!』って連絡をくれたときは、カメラを持参して何十枚と撮影し、本人が目を覚ますまでにプリントアウトしておくんです。

『昨日どうやって帰って来たの?』って聞くと、『いや、普通に』って言うんです(笑)。いやいや、普通じゃないでしょ! って写真を見せると、本来なら『すみません』って返ってくるはずが、青山は喜んじゃう。“俺、やってやったぜ!”みたいな(苦笑)」


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■闘病中に「痛い」「辛い」と言わなかった

21年春、食道がんが判明した青山監督は通院治療を続けることになるが、闘病についてどのように受け止めていたのだろうか。

「6~7年前、青山は心臓の病気で40日間も入院しているんです。その時の方が『明日死んでしまうかもしれない』という状況でした。集中治療室に30日入って、その後、一般病棟に移って10日間。管だらけになって、カテーテルで手術して生還できたんです。

今回の闘病に関しては、辛いだけだったんじゃないかな。どんどん笑顔もなくなっていきましたし……。ただ、私を思ってくれてなのか、『痛い』『辛い』という言葉は使わなかったですね」

本来ならば昨年初夏、青山監督は新作のクランクインを予定していた。とよたも、キャスティングのスタッフとして参加するはずだったという。

■遠隔でも「最後にスタートを言わせたい」と願ったプロデューサーとの新作

「青山の体の状態もありましたので、クランクインできるか、できないかの瀬戸際でした。すごく有名な方が主演することを快諾してくれたので、スケジュール調整に入ろうとしたら容態が急変したんです。プロデューサーの仙頭武則さんは『最後にスタートを言わせたい』とおっしゃってくださり、遠隔でも青山のいるところと繋げて撮影をするような話までしてくれていました」

青山監督がメガホンをとる予定だった今作は、「話はまだ生きています。監督は青山ではなくなるけれど、脚本は青山。今年、ゆっくり形にしていければいいなと思っています」と現在進行形の企画であると、とよたは明かす。

新作は実話を描くといい、「脚本が壮大で、戦後の復興の感じをロケするとなると、相当な製作費が必要になってくる。別の監督で、どのくらいコストを抑えながらやれるかでしょうね。映画関係の話なんですが、ひとりの人間が成長していく青春映画でもあるし、親子の話でもある。色々な要素が入り込んでいるから映画好きの方々に届けるだけではなく、多くの方に届けるために、ぜひ映画化できたらいいなあと考えているんです」と説明してくれた。

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■「青山の口から菅田君の名前が出た」

脚本執筆段階から、青山監督が配役のページに俳優の名前をある程度、書き込んでいたそうで、「その方々には既にコンタクトは取ってあって、皆さん、出演には前向きでいらしてくださっています」と謝意をにじませる。

また、映画.comの取材でも青山監督作「共喰い」に参加したことは人生観が変わるような出来事であったと、筆者に真摯な眼差しで語った菅田将暉に関しても、とよたは驚くべきことを話し始めた。

「菅田君には伝えていないんですが、青山がああいう状況になってもう撮れないと判断したときに、本格的に青山組がクランクインする前に撮れるシーンはないか? という話にもなったんです。映画の中で使われる、モノクロで無声の劇中劇のシーンがあるんですが、そこなら撮れると。私はもちろん出られるけど、じゃあ誰に頼む? となったときに青山の口から菅田君の名前が出たんです。

菅田君のスケジュールを抑えるのが大変だから、数時間でも空いていたら……って、マネージャーさんに頼もうかという話にもなっていました。あの撮影が成立していたら、青山の撮る最後のシーンになっていた……。ああ、菅田君と私で、青山が撮る最後のシーンができたらな……って、今でも残念に思うんです。

私としても、菅田君が青山に対する感謝を話してくれているのを感じていましたから、なんとか最後に青山と会わせたかった。初めて話しますけど、これは載せてください。菅田君に対して、最後まで青山が思っていたよって伝えたいんです。菅田君が女装で、私が男装する情緒的ですごく美しいシーンだったんですけどね……」


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青山監督が脚本を執筆した今作の動向も気になるが、「青山真治文庫」がどのようなラインナップで構成されているのかも、大いに気になるところだ。樋口泰人氏をはじめとする青山監督ゆかりの人物たちが、青山家の本棚から選定に携わったという。

「青山が亡くなる前に、『僕が死んだら、樋口さんに聞いてくれたら全て分かるから』って言っていたくらいなんです。ここに並んでいるものをピックアップしたのは樋口さん、プロデューサーの仙頭さん、青山の一番弟子みたいな監督で、バンドBialystocks (ビアリストックス)のボーカルでもある甫木元空(ほきもと・そら)が中心になってやってくれました」

「猫の本棚」の中央に展示されている「青山真治文庫」は、青山監督ファンにとって、いつまででも眺めていたくなる空間に仕上がっている。最後に、とよたから青山監督のファンにメッセージを寄せてもらった。

「皆さん、青山の死を『早い』と言ってくださるんですが、青山はこうでしか生きられなかったと思うんです。青山は幸せでしたよ、とお伝えしたいですね。青山を知らない方には、本や映画を通して触れていただきたいですし、触れたことのある方は、たまに思い出してあげてくださいって思います」

(執筆者:大塚史貴)

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