【「警官の血」評論】小説版の精神を汲み、国を超えて正義の血統を問う
2022年10月30日 12:30
過日、伊坂幸太郎の小説「マリアビートル」が特急犯罪スリラー「ブレット・トレイン」になったように、このたび佐々木譲の代表作「警官の血」も、同名タイトルのもと韓国で映画化された。奇しくも今年、日本文学の海外資本による翻案が顕著だ。
だがハイパーポップに味変された「ブレット・トレイン」とは対照的に、こちらは硬質なテイストを維持している。ソウル警察署から広域捜査隊の刑事パク・ガンユン(チョ・ジヌン)の内偵を依頼された、新人捜査官チェ・ミンジェ(チェ・ウシク)。出所不明の莫大な捜査費を使い、圧倒的な検挙実績を誇るパクは、闇組織との癒着が疑われていたのだ。
ミンジェは殉職した父に関する機密文書と引き換えに依頼を受け、真相の解明にあたる。不正を許さぬ原則主義者の彼と、犯罪撲滅のためなら違法もいとわぬパク。物語は新造覚醒剤で市場を制圧しようとたくらむ麻薬王の摘発を軸に、信念の異なる二人の男が互いを牽制しながら、捜査を展開させていく。同時に職務を遂行しようとして亡くなったミンジェの父の足跡をたどり、本作は正義のあり方をあらゆる角度から追求していくのだ。
小説版は祖父と父親、そして息子の警官親子三代にわたる壮大なクロニクルを形成しているが、映画は父と息子のエピソードを中心に構成し、警察内の汚職へと迫る刑事サスペンスにしている。時代を現代へ置き、自国の治安事情に合わせたアダプトがなされ、既読者は原作と違う味わいを楽しめるだろう。いっぽうでセリフや小道具から原作のテイストが感じられる箇所もあり、オリジナルへの敬意を忘れない。
ただ原作が持つスケールを損ねまいと複雑な設定を維持し、鑑賞中はそれへの理解や把握を余儀なくされるが、気を抜けない緊張感も価値のうちだ。なにより長大なドラマを映画用に引き締めることで、若き捜査官の葛藤と成長物語としての側面が際立ち、映画版として固有の価値をもたらしている。
善悪を見極めるために自らグレーゾーンに立ち、そのためにこそ、市民の確たる支持を得る――。こうした警官の苦衷やジレンマを真摯に描く点で、本作は佐々木の小説が持つ精神を見事なまでに汲んでおり、正義の血統を問う力強いタイトルを受け継ぐに値するのだ。
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