「雨を告げる漂流団地」なぜ大人の心に響く? 誰もが経験する別れの試練に共感
2022年9月25日 09:30
スタジオコロリドの長編アニメーション映画第3弾「雨を告げる漂流団地」が、9月16日からNetflixにて全世界独占配信中&全国公開されている。SNSなどで「漂流団地エモい要素が多くて泣きました」「色々懐かしい気持ちになった」というコメントが上がっている本作は、なぜ多くの人の心を打つのか。石田祐康監督のコメントからその理由を紐解いていく。
小学6年生の航祐と夏芽は、同じ団地で育った幼なじみ。夏休みのある日、航祐はクラスメイトとともに取り壊しの進む「おばけ団地」に忍び込む。その団地は、航祐と夏芽が育った思い出の家だった。航祐はそこで思いがけず夏芽と遭遇し、謎の少年・のっぽの存在について聞かされる。すると突然不思議な現象に巻き込まれ、気がつくとあたり一面の大海原に団地ごと漂流していた。
自身の監督作「ペンギン・ハイウェイ」に続き、本作でも小学生を主人公にした理由について、石田監督は「大人になって無くしたものや苦しいと感じることに向き合う方法が、自分はたまたまそれだった……ような気はしています。なぜ小学生かと問われれば、素直に楽しい時間だったからです(中学生以降が楽しくなかったとは思いませんが、進路を決めたかどうかで何か違いがあるのかもしれません)。心のままに素直に、楽しいことを楽しいと感じていましたし、少なくともよく笑っていました」と語っている。
石田監督自身が“楽しかった小学生の頃”という原体験を大切にし続けているからこそ、キャラクターである小学生たちは生き生きとリアルに動き出し、観客たちは彼らに共感したり懐かしさを感じることができるのだろう。
また、本作では“初めての別れの旅”がテーマとなり、航祐ともう一人の主人公である夏芽が思い出の団地に別れを告げることを決意するまでが大きな軸となっている。2人は航祐の祖父である安次のもとで姉弟のように育つが、安次の他界をきっかけにギクシャクしていた。両親が離婚し、厳しい家庭環境で育った夏芽にとって、心の支えであった安次がいなくなったことだけでなく、思い出の団地も取り壊されることはすぐに受け入れられることではなかった。
しかし、一方の航祐は夏芽の様子を気にしていながらも、彼女の気持ちをなかなか理解できずにいた。そんな2人が漂流する団地でのサバイバルを通して、時に本音でぶつかり合いながら、大切な場所や人との別れに真正面から向き合っていく。
鑑賞者のなかには、「自分の思い出の地と比較して切ない気持ちになり、幼い記憶が蘇り少年少女の気持ちを取り戻してくれる、そんな素敵な作品でした」と、自らの思い出と重ねた人もいる。本作の公開記念舞台挨拶で石田監督が「作品はタイトルの通り団地にまつわる話ですが、観る方によってはこの作品の団地が自分の家や友達と遊んだ広場やゲームセンターとか、それぞれの忘れられない思い出の場所を代入して観てもらえればいいなあと考えながら作りました」と語っていたように、作品の舞台は団地ではあるものの、本作で描かれるのは誰にでも覚えのある「かつて大切だった場所への思い」や「大好きだった人への思い」という普遍的なもの。
多くの人が経験したであろう“初めての別れ”という試練は、“あの頃”の思い出を持つ大人にこそ響くはずだ。
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