【「秘密の森の、その向こう」評論】娘と母、それぞれの生。大仰な装置なしに心の旅を成し遂げる大きな映画
2022年9月25日 21:00

カンヌで脚本賞、クィア・パルムのダブル受賞に輝いた「燃ゆる女の肖像」から2年。コロナ禍を挟んで昨年ベルリンでお披露目上映されたセリーヌ・シアマの新な監督・脚本作は、72分の"小さな世界″でしかし、あっけらかんと時の旅を断行し、思春期未満のやわらかな子供の領分を繊細に緊密にみつめて創り手の才能の豊かさ、深さ、大きさを思わせずにはいない。
亡くなったばかりの祖母の家を訪れた8歳のネリー。彼女が森で出会う自分と瓜二つの少女マリオン。それが8歳の頃の母であることをさらりと明かして、もうそこに実現されている時の旅。そのみごとにあっけない成就のされ方を噛みしめるうちに思い出したのが、20世紀末、ペニー・マーシャル監督作「ビッグ」とアニエス・バルダ監督作「カンフー・マスター」とを相前後して見た時に抱いたハリウッドとフランスの小さな映画との異同にまつわる感慨だ。
急いでことわっておくと成人女性と男の子の恋物語を描く2本はどちらもロマンスの真正さを切り取っていて、だから両作に優劣をつけるつもりはさらさらない。ただトム・ハンクスという"大人の体″(つまりはリアルに律儀に可視化されたある種の時の旅、マジックの結果)なしでは大人と子供の恋、非日常の領域に踏み入れないハリウッドの窮屈さに対し、“生身の”少年と大人の女性が恋する様を平然と提示してみせたバルダの一作、そのノンシャランとしたリアルの飛び越え方が大仰なタイムトラベルの仕掛もなく、森での出会い、遠い雷鳴、その一瞬にマジックを成立させてしまえるシアマの映画の素敵な平然と重なるようで興味深いのだ。そういえばシアマが男の子になりたい女の子の心をやはり親密にみつめた「トム・ボーイ」で少女の父役を「カンフー・マスター」の少年だったマチュー・ドゥミが演じていたのも案外、偶然ではないかもしれない。
「信じる?あなたの子ども、娘なの」「未来から来たの?」「裏の道から」そんな会話の先に分かち合われる秘密、記憶。俳優になる夢を抱き、目前の脚の手術に不安を募らせていた8歳の母。その母の母(ネリーの祖母)の杖に染みついた匂いの懐かしさ。森というタイムマシン、家というタイムカプセルを仲立ちに互いを知り、心に息づく「あなた」を慈しみ、未来に向けて開かれていく娘と母、それぞれの生。大仰な装置なしにそんな心の旅を成し遂げる映画の大きさにもう一度、深く撃たれずにはいられない。
(C) 2021 Lilies Films / France 3 Cinema
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