【インタビュー】香取慎吾が忘れられない、「あの人」の笑顔
2022年9月23日 12:00
忍者ハットリくん、孫悟空(「西遊記」)、両津勘吉(「こちら葛飾区亀有公園前派出所」)など、数多くの“キャラクターもの”に扮してきた香取慎吾が、市井昌秀監督作「犬も食わねどチャーリーは笑う」で極端ではあるが平凡な男を好演している。トップスターの道をひた走ってきた香取は、この平凡な男に何を見出したのか――。(取材・文/大塚史貴、写真/根田拓也)
市井監督が脚本も兼ねたオリジナル作品「犬も食わねどチャーリーは笑う」は、結婚4年目を迎えた裕次郎(香取)と日和(岸井)が、妻たちの恐ろしい本音がつづられたSNSの「旦那デスノート」をきっかけに、引くに引けない夫婦ゲンカに発展する様子を描くブラックラブコメディ。
作品全体を通して、いわゆる「夫婦あるある」がちりばめられている。鈍感すぎる裕次郎の不用意な言動が蓄積されていき、日和の堪忍袋の緒が切れるさまは、「あるある」では済まされない恐怖を世の夫たちにもたらすはずだ。香取は、日常生活の中で不満を感じることはないのだろうか。
香取:不満がないので、不満を作らない術を持っているのかもしれません。要は、不満以前の段階で回避しているんでしょうね。自分から、そうではない方向に持っていく。
不満というものが、自分だけではなく周囲も関わってくる類のものだとしたら、僕の方で周囲の人々もそうではない方向に連れて行っちゃう感じはします。
不満がない香取にとっては、今作で演じた裕次郎を作品世界で生き切ることは容易ではなかったはずだ。このキャラクターに説得力を持たせるために、強く意識したことを聞いてみた。
香取:この役はとても難しくて、ステレオタイプ的な前向きさというか、「あの人のために!」みたいな考えは持ち合わせていない(笑)。それでいて、自分だけのことを考えているとも言い切れない。この「自分のことさえも見えていない」という感じが、演じていくにつれてどんどん難しくなっていったんです。
皆を引っ張って「さあ、前に突き進もう!」というのと、対極にある「もう仕事なんかしたくない」「俺なんかどうだっていいんだよ」というものの中間地点に近いんですよね(笑)。どちらかであれば、監督の「よーい、スタート!」というカチンコの合図とともに振り切れるはずなんです。
本番のタイミングで、「考えているようで考えていない、なんなら明日すら見えていない」という、大袈裟にいえばそれくらいの立ち位置に自分を持っていかなければ、今回の裕次郎じゃないと感じたので、本当に難しかったですね。
そんな難役を作り上げた市井監督との出会いは、15年前。香取が「ぴあフィルムフェスティバル」の審査員を務めた際、市井監督は「無防備」という作品で出品し、グランプリを獲得している。
香取:審査員として参加していて、僕もすごく好きな作品でした。でも、授賞式で少し話をして以来、ずっとお会いしていませんでした。それが、草なぎ剛の「台風家族」を監督したのが市井さんだと知って、「うわあ、すごい!」と。
それで、僕の方からミュージックビデオの監督をお願いしました。その後、「今度は映画とかお芝居の現場でご一緒したいですね」とお話ししていたら、監督の中でジワジワと考えてくださっていたみたいなんです。
香取が演じた裕次郎は市井監督の「当て書き」だったそうだが、エッセンスとして市井監督の内面も多分に役に盛り込まれていたことは想像に難くない。実際に現場を共にしてみて、香取は自らとの類似点を挙げる。
香取:いろいろなタイプの監督さんがいますが、市井さんはその場その場で判断していく方で、それは僕と似ている気がします。僕も現場でお芝居を組み立てていく方で、事前に勉強はしないし、脚本もあまり読まない。
というのも、その場じゃないと分からないことがあるじゃないですか。テーブルが丸いのか、四角いのかというのは、現場に行って初めて分かること。それに対応するために、あまり事前に固めて行かない。
市井さんも、現場で突然「ごめんなさい、このシーン、やっぱりやめます!」という事があったのですが、その場で頭をフル回転させながら作っていく感じが、非常に面白かったです。
劇中、香取扮する裕次郎が部下の結婚披露宴でスピーチをするシーンがある。結婚式を題材にした映画、ドラマが数多く存在することからも、アクシデントの多いイベントであることが見て取れる。香取に結婚式にまつわるエピソードを聞いたところ、思いもしない爆笑話が飛び出した。
香取:「キャイ~ン」の天野っち(天野ひろゆき)の結婚式に呼んでもらったことがあるんです。僕の人生で、披露宴の前の挙式にも呼んでもらったのは、その一度だけじゃないかな。
関根勤さんたちと参列させていただいたんですが、酔っぱらったウドちゃん(ウド鈴木)が「天野くん、天野くん」って大騒ぎしながら泣くんです。周囲は大爆笑。でも、大爆笑する空気でもないじゃないですか(笑)。
ウドちゃんはその後も、「天野くんが結婚するから、奥さんも天野くんかあ~」とか、ぶつくさ言っていて、もうハチャメチャですよ。僕らが「静かにしろ!」ってウドちゃんを抑え込んだことは、今でも忘れられませんね。そういえば、あれ以来、挙式には出席したことがないなあ。
「旦那デスノート」というワードが強烈なインパクトこそ与えるが、今作が伝えたいメッセージは「思いやりの心が大事なんだ」ということ。長きにわたって芸能界のトップを駆け抜けてきた香取も「心が救われた」瞬間は幾つもあるはず。香取が大切にしている、誰かの思いやりについて思い出してもらった。
香取:田中邦衛さんの笑顔ですね。
邦さんの笑顔、大好きなんです。何度か共演させていただいたのですが、もうルーティンと言っても良いくらいに、お会いするたびに冗談交じりで「おまえら、ふざけんなよ」って入って来られて、皆で笑い合っていると「笑ってるんじゃねえよ」って。
それでさらに皆で爆笑すると、邦さんが僕の肩に手を置いて「ありがとね」って。あの笑顔が、本当に忘れられない。「明日もまた邦さんに会いたいな」って思えるほどに大好き。僕もあんな笑顔が浮かべられるようになりたいって、自然と勉強させられましたね。
11歳でデビューを果たした香取も、45歳。一般的な45歳が新たなことを始めようとするとき、「今さら……」という心境に陥ることは珍しいことではないはずだ。だが、「さ」を「か」に一文字入れ替えるだけで、「今から」と真逆の発想に転換することが出来る。香取にとっての、「今から」は?
香取:最近、体のことを初めて気にするようになったんです。
30代になったら、40代になったらって節目に考えてはいたんだけど、結果的に僕は何もしてこなかった。それこそ「今さら」かもしれないけれど、「今から」でも! という思いで体のことを知っていったら、一気に大きな変化は生まれないけれど、ちょっと気持ちいいということが初めて分かったんです。
知ることができたからこそ、続けられそうだなって感じています。年齢を重ねると徐々に体調にも変化が生じるじゃないですか。「今さら」ではなく「今から」取り組んでいる感じです。
フォトギャラリー
関連ニュース
「踊る大捜査線 THE FINAL」今夜放送! あらすじ&キャストまとめ、織田裕二が青島俊作として伝えたい最後のメッセージも紹介
2024年11月16日 20:00
映画.com注目特集をチェック
ライオン・キング ムファサ NEW
【ディズニー史上最も温かく切ない“兄弟の絆”】この物語で本当の「ライオン・キング」が完成する
提供:ディズニー
中毒性200%の特殊な“刺激”作 NEW
【人生の楽しみが一個、増えた】ほかでは絶対に味わえない、尖りに尖った映画体験
提供:ローソンエンタテインメント
大人気マンガを実写化…大丈夫か!? NEW
ファンを失望させないか…? 不安な原作ファンが“企画した人”に忖度なしでインタビューしてきた
提供:東映
ラスト5分、涙腺崩壊――
【珠玉の傑作】いじめで退学になった少年の、再生と希望の物語。2024年の最後を優しい涙で包む感動作
提供:キノフィルムズ
映画を500円で観る“裏ワザ”
【「2000円は高い」というあなたに…】知らないと損する“超安くなる裏ワザ”、こっそり教えます
提供:KDDI
モアナと伝説の海2
【モアナが歴代No.1の人が観てきた】神曲揃いで超刺さった!!超オススメだからぜひ、ぜひ観て!!
提供:ディズニー
【眠れなくなる衝撃作】
ショッキングな展開に沼落ち確定…映画.comユーザーに熱烈にオススメしたい圧巻作
提供:hulu
関連コンテンツをチェック
シネマ映画.comで今すぐ見る
内容のあまりの過激さに世界各国で上映の際に多くのシーンがカット、ないしは上映そのものが禁止されるなど物議をかもしたセルビア製ゴアスリラー。元ポルノ男優のミロシュは、怪しげな大作ポルノ映画への出演を依頼され、高額なギャラにひかれて話を引き受ける。ある豪邸につれていかれ、そこに現れたビクミルと名乗る謎の男から「大金持ちのクライアントの嗜好を満たす芸術的なポルノ映画が撮りたい」と諭されたミロシュは、具体的な内容の説明も聞かぬうちに契約書にサインしてしまうが……。日本では2012年にノーカット版で劇場公開。2022年には4Kデジタルリマスター化&無修正の「4Kリマスター完全版」で公開。※本作品はHD画質での配信となります。予め、ご了承くださいませ。
父親と2人で過ごした夏休みを、20年後、その時の父親と同じ年齢になった娘の視点からつづり、当時は知らなかった父親の新たな一面を見いだしていく姿を描いたヒューマンドラマ。 11歳の夏休み、思春期のソフィは、離れて暮らす31歳の父親カラムとともにトルコのひなびたリゾート地にやってきた。まぶしい太陽の下、カラムが入手したビデオカメラを互いに向け合い、2人は親密な時間を過ごす。20年後、当時のカラムと同じ年齢になったソフィは、その時に撮影した懐かしい映像を振り返り、大好きだった父との記憶をよみがえらてゆく。 テレビドラマ「ノーマル・ピープル」でブレイクしたポール・メスカルが愛情深くも繊細な父親カラムを演じ、第95回アカデミー主演男優賞にノミネート。ソフィ役はオーディションで選ばれた新人フランキー・コリオ。監督・脚本はこれが長編デビューとなる、スコットランド出身の新星シャーロット・ウェルズ。
ギリシャ・クレタ島のリゾート地を舞台に、10代の少女たちの友情や恋愛やセックスが絡み合う夏休みをいきいきと描いた青春ドラマ。 タラ、スカイ、エムの親友3人組は卒業旅行の締めくくりとして、パーティが盛んなクレタ島のリゾート地マリアへやって来る。3人の中で自分だけがバージンのタラはこの地で初体験を果たすべく焦りを募らせるが、スカイとエムはお節介な混乱を招いてばかり。バーやナイトクラブが立ち並ぶ雑踏を、酒に酔ってひとりさまようタラ。やがて彼女はホテルの隣室の青年たちと出会い、思い出に残る夏の日々への期待を抱くが……。 主人公タラ役に、ドラマ「ヴァンパイア・アカデミー」のミア・マッケンナ=ブルース。「SCRAPPER スクラッパー」などの作品で撮影監督として活躍してきたモリー・マニング・ウォーカーが長編初監督・脚本を手がけ、2023年・第76回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門グランプリをはじめ世界各地の映画祭で高く評価された。
「苦役列車」「まなみ100%」の脚本や「れいこいるか」などの監督作で知られるいまおかしんじ監督が、突然体が入れ替わってしまった男女を主人公に、セックスもジェンダーも超えた恋の形をユーモラスにつづった奇想天外なラブストーリー。 39歳の小説家・辺見たかしと24歳の美容師・横澤サトミは、街で衝突して一緒に階段から転げ落ちたことをきっかけに、体が入れ替わってしまう。お互いになりきってそれぞれの生活を送り始める2人だったが、たかしの妻・由莉奈には別の男の影があり、レズビアンのサトミは同棲中の真紀から男の恋人ができたことを理由に別れを告げられる。たかしとサトミはお互いの人生を好転させるため、周囲の人々を巻き込みながら奮闘を続けるが……。 小説家たかしを小出恵介、たかしと体が入れ替わってしまう美容師サトミをグラビアアイドルの風吹ケイ、たかしの妻・由莉奈を新藤まなみ、たかしとサトミを見守るゲイのバー店主を田中幸太朗が演じた。
奔放な美少女に翻弄される男の姿をつづった谷崎潤一郎の長編小説「痴人の愛」を、現代に舞台を置き換えて主人公ふたりの性別を逆転させるなど大胆なアレンジを加えて映画化。 教師のなおみは、捨て猫のように道端に座り込んでいた青年ゆずるを放っておくことができず、広い家に引っ越して一緒に暮らし始める。ゆずるとの間に体の関係はなく、なおみは彼の成長を見守るだけのはずだった。しかし、ゆずるの自由奔放な行動に振り回されるうちに、その蠱惑的な魅力の虜になっていき……。 2022年の映画「鍵」でも谷崎作品のヒロインを務めた桝田幸希が主人公なおみ、「ロストサマー」「ブルーイマジン」の林裕太がゆずるを演じ、「青春ジャック 止められるか、俺たちを2」の碧木愛莉、「きのう生まれたわけじゃない」の守屋文雄が共演。「家政夫のミタゾノ」などテレビドラマの演出を中心に手がけてきた宝来忠昭が監督・脚本を担当。
文豪・谷崎潤一郎が同性愛や不倫に溺れる男女の破滅的な情愛を赤裸々につづった長編小説「卍」を、現代に舞台を置き換えて登場人物の性別を逆にするなど大胆なアレンジを加えて映画化。 画家になる夢を諦めきれず、サラリーマンを辞めて美術学校に通う園田。家庭では弁護士の妻・弥生が生計を支えていた。そんな中、園田は学校で見かけた美しい青年・光を目で追うようになり、デッサンのモデルとして自宅に招く。園田と光は自然に体を重ね、その後も逢瀬を繰り返していく。弥生からの誘いを断って光との情事に溺れる園田だったが、光には香織という婚約者がいることが発覚し……。 「クロガラス0」の中﨑絵梨奈が弥生役を体当たりで演じ、「ヘタな二人の恋の話」の鈴木志遠、「モダンかアナーキー」の門間航が共演。監督・脚本は「家政夫のミタゾノ」「孤独のグルメ」などテレビドラマの演出を中心に手がけてきた宝来忠昭。