木竜麻生×松井玲奈が語り尽くす“等身大の女性のリアル”【「(not) HEROINE movies」対談】
2022年9月12日 14:00
6月19日、作品の垣根を超えたコラボレーション企画が行われた。
トークセッションに臨んだのは、“へたくそだけど私らしく生きる”等身大の女性のリアルを紡ぐ映画シリーズ「(not) HEROINE movies」(ノット・ヒロイン・ムービーズ)の第1弾作品「わたし達はおとな」(公開中)の木竜麻生、第2弾作品「よだかの片想い」(9月16日公開)の松井玲奈。初対面となった“ヒロイン”たちは息の合った掛け合いを披露しつつ、互いの出演作に対して、示唆に富む感想を述べていた。
しかし、イベントの時間は限られている。この場では披露できない言葉が、きっとあるだろう。2人のトークに耳を傾けているうちに、「この“対話”をもっと聞いてみたい」という思いが芽生えてしまった。
その思いを携えて、イベント終わりの2人に直撃インタビューを敢行。改めて「わたし達はおとな」「よだかの片想い」について、たっぷりと語り合ってもらった。(取材・文/編集部 岡田寛司、写真/間庭裕基)
【「わたし達はおとな」作品情報】
演出家・劇作家の加藤拓也がオリジナル脚本を基に映画監督デビューを果たし、20代の若者たちの恋愛の危うさと歯がゆさをリアリズムに徹底した演出で描き出した。大学でデザインを学んでいる優実(木竜)には、知人の演劇サークルのチラシ作成をきっかけに出会った直哉(藤原季節)という恋人がいる。ある日、優実は自身の妊娠に気づくが、お腹の子の父親が直哉だと確信できずにいた。悩みながらも直哉にその事実を打ち明ける優実。しかし直哉が現実を受け入れようとすればするほど、2人の思いはすれ違ってしまう。
【「よだかの片想い」作品情報】
直木賞作家・島本理生氏の小説を、「Dressing UP」の安川有果監督が映画化(脚本は城定秀夫)。女子大生の前田アイコ(松井)は、顔の左側に大きなアザがある。幼い頃から畏怖やからかいの対象にされてきた彼女は、恋や遊びはすっかりあきらめ、大学院でも研究ひと筋の毎日を送っていた。そんなある日、「顔にアザや怪我を負った人」のルポタージュ本の取材を受けて話題となったことで、彼女を取り巻く状況は一変。本は映画化されることになり、監督の飛坂逢太(中島歩)と話をするうちに彼の人柄にひかれていく。
●木竜麻生&松井玲奈が考える「ヒロイン」とは?
●「わたし達はおとな」=生っぽい作品 松井玲奈「言葉の掛け合いでドラマが生まれている」
人はぶつかり合う時に、自分の守るべきものを盾として置いてしまうんですよね。比較することができないものを互いに出し合ってしまうから、どうしても分かり合うことができない。(劇中では)言葉の掛け合いが積み重なって生じる攻防戦が行われていました。展開としてドラマチックになっているわけではなく、言葉の掛け合いのなかでドラマがどんどんと生まれていく。この点がすごく面白いんです。
●木竜麻生が着目した「よだかの片想い」における身体のコンプレックスへの気づき
それと「身体のコンプレックスへの気づき」という点にも注目しました。特に印象に残ったのは、アイコの小学生時代のエピソード。あそこは嘘がないと思ったんです。皆にアザを見られている。でも、それが嬉しくもある。例えば、骨折をして松葉杖を使っている時を思い浮かべました。心配されたり、珍しがられたり……でも、そんな周囲の視線にどこか高揚してしまう。そういうことがちゃんと描かれていました。
●それぞれの人生における「特別な1冊」
詩は、真正面から言葉と戦っているイメージがあるんです。私はセリフをひとつ発するだけでも、とても緊張してしまいます。それに心の中で考えていることを言葉にした瞬間、“離れていってしまう”という感覚があるんです。本来思っていたものとは、異なるものが外に出ていってしまった。そういうことへの戸惑いみたいなものが、昔からずっとあったんです。だからこそ、詩というものに対して、色々感じる面があるんだろうなと思っています。
●「よだかの片想い」の大ファンだからこそ……松井玲奈がたどり着いた映画化の意味
実は、原作があまりにも好きなので、台本を最初に頂いた時は「このシーンがなんでないんだろう?」「飛坂さんとのシーンを増やさないと、アイコの恋心は分かってもらえないんじゃないか?」と考えてしまったんですよね(笑)。
でも、安川さんと城定さんが創り上げた「よだかの片想い」のアイコを演じながら感じたことは、飛坂さんとの恋愛を織り込みながら、アイコが周囲の人たちに助けてもらっている――つまり「アイコと周囲の人々の物語」になっていました。島本さんが映画を鑑賞された時「アイコに周りの人たちが助けてもらっていたように感じることができました」と仰っていました。原作を読んでいた時は「飛坂さんしか見えていない」という気持ちで読んでいたんですが、アイコを演じていくなかで、彼女は周りの人々に助けられ、受け入れてもらえる感覚があったので、島本さんの感想は私にとっては思いがけない視点の言葉でした。様々な見え方、考え方がある、だからこそ、映画化した意味があったと思います。
●まんまとキュンとしてしまった 「よだかの片想い」飛坂逢太の魅力を語り合う!
演じられた中島(歩)さんのおかげなのかもしれませんが、可愛さというものを感じる瞬間があるんです。男性に対する愛おしさをはらんでいるキャラクターでした。それはアイコを振り回す要因のひとつでもありましたが、彼の魅力でもあったと思います。
映画化が決定した時「飛坂さんは誰が演じるんだろう……」と不安を感じていたんです。でも、脚本の読み合わせの時に、その思いが払拭されました。中島さん、気づいたらそこにいたというくらい、ふらっと読み合わせの場に現れたんです。挨拶をしていただいて、目の前に座った時、「飛坂さんがやってきた!」と感じました。低温で響く声――対面に居るはずなのに、ずっと耳元で喋りかけられているような気がしてしまう。あの声色によって、親密さを感じさせられてしまう。ニュートラルでフラットな方だったので、最後までどういう人なのかははっきりとはわかりませんでしたが、それも含めて“飛坂さん”でした。中島さんが飛坂さんを演じてくれて、本当に良かったです。
●“ずるさ”というものは感じなかった 「わたし達はおとな」直哉の印象
●松井玲奈が見抜いた“飲み込む”という要素 「わたし達はおとな」のラスト
でも、優実が食事を作っている光景は、これまでの物語を思い返す時間になっているんですよね。そして、彼女がご飯を食べ始めた時、あることに気づきました。悲しさ、苦しさ、どうしようもなさ――それらは、何かを食べて、飲み込むことによって解消できることなんだなと。出すことはできないから、飲み込むしかない。外に流すのではなく、体の中に取り入れて生きていく。そういう選択だったのかなと。とても興味深い気持ちで見ていました。
●「よだかの片想い」のラストに訪れた“魔法にかかったような瞬間”
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