深田晃司監督「LOVE LIFE」ベネチア映画祭で満場の喝采 木村文乃と砂田アトムもレッドカーペットで笑顔
2022年9月7日 04:00
現在開催中のベネチア国際映画祭で9月5日(現地時間)、深田晃司監督の「LOVE LIFE」がコンペティション部門で上映され、満場の喝采で迎えられた。現地には深田監督とともに木村文乃と砂田アトムが同行。蝶ネクタイで正装した深田監督を囲んで、華やかなラメのロングドレスを着た木村と、黒柳徹子から贈られたという袴姿の砂田がレッドカーペットを歩いた。
ベネチア国際映画祭を訪れるのは初めてである3人はそれぞれに、「初上映が終わって、やっとこれで映画が完成したという実感を持てました。20歳のときに初めて矢野顕子さんの『LOVE LIFE』という曲を聴いて、この曲を使って映画を作りたいと思って以来、20年夢見てきたことなので、感無量とはこのことか、と思いました。感謝をしたい方は沢山いるんですけれど、とくにこの歌を使うことを許してくれた矢野顕子さんに感謝を捧げたいです」(深田)、「エンドクレジットが終わっても、まだ拍手が鳴り続けていて、それもみなさんがわたしたちの方を向いて拍手をしてくれて、本当に愛されていると感じることができました。映画が好きで集まってくれる観客の方々の熱量と、わたしたち作り手の熱量が合わさって、作品の背中を押す、ということを感じることができました」(木村)、「これまで芝居の活動の方が多かったので、映画に出ることができ、しかもそれが全世界の方に観られている。それはもう感謝の気持ちしかありません」(砂田)と、感慨をあらわにした。
砂田はまた、「レッドカーペットは誰でも歩けるものではありませんから、本当に天にも昇る気持ちでした。ろう者の方は絶対に観てくれるだろうという思いがあり、夢は叶えられるのだということを感じてもらえたらと思いながら歩きました」と語り、木村は、「砂田さんと一緒にレッドカーペットを歩いて、彼はろう者であることをとてもポップにみなさんに表現していて、ネガティブなものではなくひとつの個性として、それは前を向けることである、ということを伝えていて、その姿を見てなんて格好いい方なのだろうと思いました」と言葉を添えた。
また公式上映に先立って開催された記者会見で、本作のテーマについて訊かれた深田監督は、「わたしの映画は家族を描いていると、よく指摘を受けるのですが、家族はわたしにとってのメインモチーフではありません。自分は映画を描くときに普遍的だと思えること、観た人に信じてもらえることを描きたい。それは、人はいつか死ぬということと、人間は誰しも孤独であるということです。これを毎回繰り返し描きたい。わたしたちは親しい家族、親しい恋人と一緒にいたとしても、ふと自分はひとりだと思うことがあるでしょう。そしてもうひとつ、コロナの時代が来たことによって、ソーシャル・ディスタンスが唱えられ、人と人が思うように会えなくなった。そんな時代に、離れていても愛することができるという(LOVE LIFEの)歌詞が新たな意味をもって更新されたりと、この映画はいつの間にか、みなさんに届けるべき映画になったのだと感じています」と、自負を語った。
一方の砂田は、「台本を読んだとき、ろう者の文化、生活様式が取り入られていて、それがとてもうれしかったです。これまでろう者が出るテレビ番組や映画は、可哀想だと観られることが多かった。でもこの台本にはお涙頂戴的なシーンはなく、そこに感動しました」と語り、木村も「今回手話を初めて学びましたが、イタリアや英語と変わらず、手話もひとつの言語だと思うことができました。そして手話とは目と目を合わせ、表情で伝える言語です。だからこそ、隠さなくて良い、ありのままの気持ちを届けるという意味で、わたしが演じる妙子というキャラクターの閉ざされてしまった気持ちは、(砂田演じる)パクさんによって開かれていったのだろうと解釈しています」と語った。
本作はプレス試写でも拍手が出るなど、好反応が見られただけに、受賞に期待がかかるところだ。(佐藤久理子)