押井守が審査委員長「第1回新潟国際アニメーション映画祭」23年3月開催 長編商業作品に特化
2022年5月23日 19:30
2023年3月に「第1回新潟国際アニメーション映画祭」の開催が決定し5月23日、カンヌ、東京、新潟の3都市で同時会見が行われた。長編商業アニメーションに特化し、長編アニメ映画のコンペティション部門を持つアジア最大の祭典として、新潟から世界へアニメーション文化を発信する。
第1回審査委員長に押井守監督、プログラミング・ディレクターにジャーナリストの数土直志氏、フェスティバル・ディレクターをKADOKAWA上級顧問の井上伸一郎氏が務める。企画・制作はユーロスペース代表の堀越謙三氏と「この世界の片隅に」「機動警察パトレイバー」などを手掛けたプロデュース会社ジェンコの真木太郎代表。
日本を代表する文化であり、いまや世界のどこででも見ることができる日本のアニメーション作品。その文化を維持するために、文化価値の共有や作品への評価、人材やスタジオが持続する基盤を作る必要があるが、「商業」と「アート」、「国内」と「海外」、「専門家」と「大衆」と様々に分断され、十分な力を発揮しているとは言えない。その現状を打破し、中心的な役割を担おうとするのが、本映画祭の狙いだ。
フェスティバル・ディレクターの井上氏は映画祭の概要について、クリエイティブな映画祭を目指すと明かし、アニメ・コミックの研究者論文発表の場とし、日本のアニメーションをグローバルコンテンツへ成長させることと説明。「私の狙いは国際映画祭である以上、国内外のアニメファンや製作者の交流を実現させること。みんなで祭りを盛り上げましょう」と呼びかけた。
海外への窓口となる世界港を有する新潟は、17世紀末から日本海側最大の港湾商業都市として発展し、19世紀には江戸を凌ぐほどの都市といわれた。また、多くの著名なマンガ家、アニメ・クリエーターを輩出し、2012年から10年間、「マンガとアニメを活用した街づくり構想」を実施、継続的なイベントとして「にいがたアニメ・マンガフェスティバル」(来場者約5万人)、1996年から全国対象の「にいがたマンガ大賞」も実施。また、「新潟市マンガ・アニメ情報館」や蔵書1万冊を誇るマンガ図書館「新潟市マンガの家」を運営、マンガ家志望者のための家賃補助施設「トキワ荘」、そしてマンガ雑誌編集部と結んだ無料「ON LINE添削」を実施するなど、日本有数のアニメ都市でもあることから、本映画祭の開催地に選ばれた。
堀越氏は、「アニメーションの人材育成では日本で一番実績があり、専門学校や大学での教育で技術者だけではなくプロデューサーなど、必要な人材を新潟で育成することが可能。ヨーロッパで言えばベニス、ハンブルグのような自由貿易港をもつ都市であり、また、歴史的に、殿様もいなければ城もない、市民が自分たちをコントロールする市民都市という特徴がある。市民社会が成熟していることで、批評精神や豊かな想像力が市民が生まれる土壌を持つ新潟であるからこそ、この映画祭をやる意義がある」と新潟の立地や歴史の特徴や優位点について解説した。
コンペ部門の審査委員長を務める押井監督は「コンテストは映画祭の一部ですが、映画祭にとってコンペは求心力のある大きなイベントだと思っている」といい、「今までアニメーションのコンテストはたくさんあり、アヌシーや広島は基本的にはアート系のアニメーションがコンテストのメイン。今回の特徴は商業エンタテイメント作品のコンペに特化するのが面白いと思った。いままでそういったコンテストはなかった。その理由のひとつは、我々のアニメ業界は人の作品を評価したりすることをしない特殊な世界。人の仕事に口を出すな、ケチつけるなというのは僕からしたら悪しき伝統。批評もなければ評価もない。今回、そういったものを打ち破る契機になればいい」と語る。その一方で、「プロの作品を集めることで、企業にどんなメリットがあるのか。商業主義を前面に出すことの難しさもある」と懸念も伝えた。
そして、「審査委員長を引き受けた以上は、自分のポリシーで選びたい。興行成績や会社の規模、監督のキャリアではなく、情熱の感じられる作品を選びたい」といい、映画祭に期待することとして、「アニメーションという文化は、周辺にさまざまな文化が集まっている。声優さん、コスプレ、フィギュア、ゲームなど、全体が盛り上がり、業界の人間ではなく、ファンが楽しいイベントになれば最高だと思います」と期待を込めた。
また、日本の商業アニメーション業界特有のルールなどがあることから、どのようにフレッシュな新作を集めるのか?という会場からの質問に、「日本のアニメ作品は公開当日まで取り扱いがシビアで、情報漏洩を恐れている。海外には、公開前の作品を1回だけ一般の観客に見せる、スニークプレビューがあり、興行側にはそこでの反応を知れるメリットがある。日本にはそういったシステムはほぼないが、それは良いこと。また、お互いの製作会社で公開前に見せる制度も海外にはあるが、日本にはない。そういったことの先駆けになってほしい。興行ではないので、出品する側のメリットにもなるのでは」と持論を述べた。
会期は、2023年3月17日~22日。新潟市民プラザなど4拠点が会場となる。現在、コンペティション以外に、上映イベント、文化プログラムの7部門が予定されており、上映作品数は25~35本になる予定。作品エントリー開始は22年11月予定。
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