【「TITANE チタン」評論】巨神誕生 破壊と再生、圧倒的な個と愛
2022年3月19日 16:00
カニバリズムに目覚めたベジタリアンの少女の成長を描く「RAW 少女のめざめ」(2016)で注目されたジュリア・デュクルノー監督の長編第2作。昨年のカンヌ映画祭で最高賞を獲得し、カンヌ史上2人目のパルムドール受賞の女性監督としても話題を集めた。エロスとバイオレンス、倒錯をスタイリッシュな映像と音楽、肉体の痛みを感じさせる表現を用いながら滑稽さと悲劇を交え、いわゆる優等生的作品ではないのにジェンダーはもちろん、種をも超越した愛まで導く、まさに怪物のような映画だ。
交通事故のケガで幼少期に頭にチタンを埋め込まれた主人公アレクシアが、成人して車に性的欲望を抱くようになり、その後たどる数奇な運命を描く物語。初見時には、クローネンバーグ、ジョン・カーペンター、タランティーノ、そして「必殺仕事人」に子宮が付くとこうなるのか……(女性監督への揶揄ではない)と驚いた。ジャンル映画特有の見世物的側面がクローズアップされがちだが、映画史のみならず、ギリシア神話、聖書、バロック絵画など、数々の西洋文化芸術からの様々な引用も確認できる重層的な作品である。
主演のアガト・ルセルは、本作が映画初主演。名の知られた俳優ではいけない、というデュクルノー監督の考えから、インスタグラムで発掘されたという。両性具有的な容姿を備えた彼女なしでは本作は成り立たなかったであろう。ある時はテストステロンに満ち溢れた男たちを挑発するゴージャスでエロティックな女、またある時は貧相なドブネズミのような青年、そして清濁併せ呑むような聖母へと変化。アレクシアは常識を破壊し、人間誰しもが持ち得る多面性と可能性をデフォルメして見せる。
昨今は世界的に不安定な社会情勢も反映し、家族、友情、連帯などを賛美する作品が良作ラインナップに立ち並ぶが、今作で描かれるのは、圧倒的な個。と同時に、既に名前のついた人間同士のつながりを飛び越えたスケールの大きな愛を見せつける。そう、新たな神の誕生に我々は立ち会うのだ。
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