【ハリウッドコラムvol.318】アカデミー賞受賞の価値あり。「コーダ あいのうた」を見逃すな

2022年3月1日 16:00

「コーダ あいのうた」
「コーダ あいのうた」

ゴールデングローブ賞を主催するハリウッド外国人記者協会(HFPA)に所属する、米ロサンゼルス在住のフィルムメイカー/映画ジャーナリストの小西未来氏が、ハリウッドの最新情報をお届けします。

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身も蓋もない言い方だけど、映画賞を受賞した作品が必ずしも傑作とは限らない。審査員の嗜好や時代のムード、宣伝キャンペーンなどさまざまな力学が及んでいるためで、政治家の選挙のようなものだからだ。

それでも、映画好きなら作品賞にノミネートされた映画をチェックする価値は充分あると思う。とくに米映画界最高の栄誉とされるアカデミー賞作品賞にノミネートされたということは、ハリウッドの映画人にその年のベストのひとつに選ばれたことを意味する。多様な作品があるからすべてがはまるわけではないだろうけれど、観れば選ばれた理由がわかるだろうし、なかには琴線に触れるような作品や、人生を変えてしまう作品に出会うことだってあるはずだ。

3月27日(現地時間)のアカデミー賞授賞式に向けて、予習をはじめている熱心な映画ファンもいるかもしれない。おそらく「パワー・オブ・ザ・ドッグ」や「ウエスト・サイド・ストーリー」などのノミネートの多い作品や、邦画として史上はじめて作品賞にノミネートされる快挙を達成した「ドライブ・マイ・カー」などから手をつけているだろう。

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個人的には「コーダ あいのうた」を推している。作品賞、助演男優賞、脚色賞と3部門でしかノミネートされていないから後回しにされているかもしれないけれど、3部門すべてで受賞してもおかしくない傑作だと思っている。未見の人のために、紹介したいと思う。

コーダ あいのうた」の主人公は、港町で暮らす女子高生のルビーだ。漁師の家族を手伝っているので朝が早く、授業では居眠りばかり。引っ込み思案なルビーだが、好きな男子を追いかけてコーラス部に入部。個性的な音楽教師に歌の才能を見いだされると、家族と自らの夢のあいだで葛藤することになる。

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物語のベースは、少女の恋と進路と家族との関係を描くありがちな青春映画である。だが、たったひとつ異質な要素を取り込むことで、独自の化学反応を起こしている。ルビーの両親と兄は聴覚障がい者であり、家族のなかで耳が聞こえるのはルビーだけなのだ。タイトルのコーダ(CODA)とは、Child of Deaf Adults(ろうあの親を持つの子供)の略である。

障がいを抱えているといっても、家族に悲愴感はない。耳が聞こえないことは彼らにとっては当たり前で、同じ世界を共有する仲間と一緒に暮らしている。実際、他人の悪口や卑猥な会話を手話をつかってやりあっている。不便があっても、唯一の健常者であるルビーが助けてくれる。実際、彼女は生まれたときからずっと、彼らの通訳をこなしてきているのだ。

子供の進路に親が反対するストーリーはよくある。たいていの理由は価値観の違いや世間体や経済的によるものだ。だが「コーダ あいのうた」は、ずっと深刻だ。ルビーが離れてしまうと、残された家族は社会との繋がりを失う。生活基盤の維持ができなくなってしまうのだ。

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おまけにルビーが情熱を燃やすのは、「音楽」という、家族には理解できない芸術だ。耳が聞こえない彼らにはその価値がわからないし──父親は重低音を尻で感じることができるという理由でヒップホップを爆音で鳴らすことを好むが──、ルビーの実力も判断しようがない。

葛藤があってこそ、ドラマが成りたつ。「コーダ あいのうた」では、ルビーの両肩にありえないほどのプレッシャーがのしかかるのだ。

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家族が嫌な連中だったら、さっさと見切りをつける選択肢もあっただろう。だが、父と母と兄は、くせは強いし、欠点もあるけれど、愛すべき人々だ。ルビーもまた、家族想いの優しい女の子である。と、同時に、田舎町で埋もれてしまうには、あまりにも惜しい才能の持ち主でもある。やがて、ボストンの音大に行きたいという彼女のシンプルな衝動は、家族だけでなく、田舎町を巻き込んだ大きなうねりとなっていくのだ。

ギスギスした今の世の中にあって、この映画に癒される人は少なくないはずだ。やさしさと思いやりと笑いに満ちた、さわやかな感動作を楽しんでほしい。そして、アカデミー賞での奇跡を期待しようではないか。

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この原稿を仕上げているとき、アメリカ俳優組合(SAG)賞において「コーダ あいのうた」が作品賞にあたるアンサンブル演技賞を受賞したという知らせが飛び込んできた。2019年に「パラサイト 半地下の家族」がSAG賞をサプライズ受賞したのちに、アカデミー賞作品賞に輝いたのは記憶に新しい。傑作がそのまま受賞する展開になってくれることを祈りつつ、授賞式を待ちたいと思う。

(映画.com速報)

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