巨匠指揮者率いる紛争地のオーケストラ 映画「クレッシェンド」に引き継がれる活動とは?
2022年1月4日 17:00

今も紛争が続くパレスチナとイスラエルの若者を集めて、オーケストラを結成するさまを描く映画「クレッシェンド 音楽の架け橋」が、1月28日から公開される。本作に登場する楽団のモデルになったのは、巨匠指揮者のダニエル・バレンボイムと、彼の盟友の米文学者エドワード・サイードが、中東の障壁を打ち破ろうと1999年に設立した和平オーケストラ。その活動を紹介する。
ゲーテの著作のタイトルから「ウェスト=イースタン・ディヴァン管弦楽団」と名付けられたその楽団には、バレンボイムとサイードの故郷であるイスラエルとパレスチナ、アラブ諸国から若き音楽家たちが集い、「共存への架け橋」を理念に、現在も世界中でツアーを行うなど活動を続けている。

ちなみに、バレンボイムは現代音楽界で最高峰の指揮者・ピアニストであり、現在、ベルリン国立歌劇場音楽総監督も務める人物。昨年6月、16年ぶりに来日ピアノリサイタルを行った際にはチケットが即完売となるほど、日本でも高い人気を誇っている。
敵対する民族の若者たちが集まっていたこの楽団では、日中はオーケストラのリハーサルを行い、それだけでなく、夜にはワークショップやディスカッションを行なった。政治論争ではなく、音楽や文化について、できるだけ対話を促したいという思いがあったそうだ。
プログラムの中では、対立するシリア人の少年とイスラエル人のチェロ奏者が隣り合わせになって譜面台を共有することもあったという。「彼らは同じ音を、同じ強弱で、同じボーイングで、同じ響きで、同じ表現で演奏しようとしていた」「彼らはもうお互いを前と同じように見ることができなかった。共通の体験を分け合ったからだ。これこそが出会いの大切さだと僕は思う」と、バレンボイムは過去のインタビューで語っている(2004『バレンボイム/サイード 音楽と社会』みすず書房 より)。

本作でもそのスピリットは受け継がれ、オーケストラの楽団員たちは、激しくぶつかり合いながらも、譜面台を共有し、さまざまなワークショップに取り組んでいく。劇中で楽団員を演じた者の中には、実際にウェスト=イースタン・ディヴァン管弦楽団に所属する奏者もいたという。
楽団の紹介にあわせて、新場面写真も披露された。楽団員たちに熱心に指導する指揮者スポルクの姿や真剣な眼差しで演奏する若者たちの様子を切り取っている。
「クレッシェンド 音楽の架け橋」は1月28日から全国公開。
(C)CCC Filmkunst GmbH
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