「ビジネスは常に違うアングルで考えることが大切」難民が大富豪になったアメリカンドリーム「ドーナツキング」 ドーナツ王の次なる野心は…?
2021年11月15日 17:00
内戦を逃れるため、無一文でカンボジアからアメリカへ渡り、ドーナツ店の経営で資産2000万ドルを所有する「ドーナツ王」と呼ばれるようになったカンボジア人男性の人生に迫ったドキュメンタリーで、リドリー・スコットが製作総指揮に名を連ねる「ドーナツキング」が公開された。本作が昨年のSXSWで絶賛された、中国系アメリカ人のアリス・グー監督と「ドーナツ王」テッド・ノイが作品を語った。
映画では、誰もがうらやむアメリカンドリームを掴んだテッド・ノイは、なぜアメリカに渡り、いかにしてドーナツ店経営に至ったのか。カンボジア内戦や難民問題、大手チェーン店と個人経営店が対立する最新ドーナツ事情まで、数々の困難を乗り越えてきた「ドーナツ王」の数奇な半生を描き出す。
自身のベビーシッターとの会話をきっかけにテッド・ノイに辿りついたというグー監督。本人にコンタクトをとりカンボジアへ飛んだ。「テッドの人生はわたしが想像よりも遥かに波乱に満ちたものでした。彼の話を聞いてすぐに自分の両親のことを思いました。わたしの両親は飲食店の経営はしていなかったけど、二人もまた文化大革命から逃れて中国からアメリカへ渡ってきました。私たちにはそれほど大きな違いはない。愛されること、安心して生活をすること、チャンスに恵まれること―生きる上で望むものは基本的に同じで、国が分断している今の時代にわたしはアメリカ人をとても誇りに思ったし、アメリカンドリームと団結力の物語を作りたかったんです」
テッド・ノイは、時の大統領ジョージ・H・W ブッシュに表彰されるほどに、富も名誉も手に人生の絶頂を味わうもギャンブルで身を崩した顛末も映画では描かれる。そのことに関して抵抗はなかったのか。「テッドは、言葉が多いような少ないような人。完成した作品を観て、カンボジアのこと、カンボジア人のことを多くの人に知ってもらえて誇らしい。ありがとう」と言ってくれたとグー監督は振り返る。
ノイは「まさか自分の話が映画になるとは。この映画を機会に知ってくれるのはうれしい。それでも、たとえ名前が知られるようになったからって僕の生き方はシンプルで生活が変わるわけではないんだよ。僕はクリスチャンだから信念があって、社会に還すことを忘れない謙虚な気持ちを持つこと、学び続けることを忘れちゃいけない」と穏やかに語る。とはいえ、ドーナツキングの異名をとり誰もが成しえることではない偉業を遂げた。現在80歳を迎えるテッドに今やりたいビジネスは? と問うと「ベトナム、タイ、カンボジアの3つの国のヌードルを揃えて、フランチャイズ化した店がやりたいんだ! 1つの国じゃなくて3つを揃えることで儲かるんじゃないかな。ファストフードとして簡単に麺を食べに行けて、24時間営業もできる。今夢見ているアイデアだよ!」と、バイタリティ溢れる明確で具体的なビジョンが返ってきた。
「ビジネスは常に違うアングルで考えることが大切。自分の出自は関係ない、目標は高く持って夢に向かって計画を立てる。決意、努力、諦めないこと、自信をもつこと、チャンスをちゃんと掴む。これが大事なんだ」
ノイが難民としてアメリカへ渡り波乱に富んだ人生ながらアメリカンドリームを体現したこと、カンボジアのみならず、世界中の民族が助け合いコミュニティを形成していく人々の生きる力強さが、この作品には込められている。また、アリス・グー監督の進行中のプロジェクトは「新日本プロレスのレスラーの話で、長編フィクション作品の企画開発中」とのこと。期待せずにはいられない。
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