大塚康生さんは“アニメーションの大先生” ともに仕事をしたアニメーターと研究家が語る多角的な一面
2021年11月1日 21:00
第34回東京国際映画祭のジャパニーズ・アニメーション部門マスタークラス(シンポジウム)「アニメーター・大塚康生の足跡」が10月31日、東京・帝国ホテルで開催された。今年3月に亡くなった大塚さんと縁のあるアニメーターの小田部羊一氏、友永和秀氏、映像研究家の叶精二氏の3人が登壇。アニメ評論家・藤津亮太氏の司会により、アニメ黎明期から活躍してきた大塚さんのアニメーターとしての足跡や功績、教育者やプロデューサーとしての側面について語りあった。
「大塚さんは仕事が早い方だった」と語る小田部氏は、大塚さんがアニメーターとして参加した長編の第1作「白蛇伝」に憧れて東映動画(現・東映アニメーション)に入社し、3年目で「わんぱく王子の大蛇退治」の原画と一部デザインを担当した。同作で大塚さんと月岡貞夫氏が作画を担当したクライマックスシーンを見て、「見事な動きと力強さ、スピード感。とにかく圧倒されました」と熱弁する。「アニメーションのキャラクターはただ作っただけでは駄目なんだ。それを生き生きと動かしてこそキャラクターになるんだ」と気づかされたという。
大塚さんが宮崎駿監督とタッグを組み、作画監督を手がけた「ルパン三世 カリオストロの城」で、友永氏はカーチェイスシーンを担当した。大塚さんからタイヤのホイールの描き方など車のことを教えてもらい、車内でルパンがクラッチを操作する動きは大塚さんが追加していたと明かす。宮崎監督と大塚さんが忌憚なく仕事のやりとりをする様子を間近で聞いてプレッシャーを感じ、「『えらいところに来てしまったなあ』というのが正直な気持ちだった。最初はくるんじゃなかったと思った(笑)」と冗談めかして話しながら、大塚さんが好物のコーラをもって社内を歩きながら、皆に気さくに話しかけていた当時のスタジオの様子を振り返っていた。
同人誌の取材をきっかけに知り合い、大塚さんの著書にも関わる映像研究家の叶氏は、大塚さんが東映動画時代や宮崎監督、高畑勲監督との仕事について綴った書籍「作画汗まみれ」を「アニメーションの現場で何がおきていたのかを初めて知ることができた本」と称賛。平面的な描き方が主流だった頃から、大塚さんには空間を意識した設計のなかでキャラクターを縦横無尽に動かす感覚があったと、アニメーターとしての特徴について深く語る一幕もあった。
大塚さんは人懐こくやわらかい性格で、人をよく見ていたと3人は口をそろえる。小田部氏は、「自分が作るから人を呼び寄せるのではなく、『これは誰が作れば面白くなるだろうか』と考えて人に声をかける。作品を作るために何が必要かをきちんと見ている方だった」とプロデューサー視点のある仕事ぶりだったと分析する。叶氏は大塚さんが演出に携わった作品などにも触れ、「大塚さんがどのような作品に関与してきたのか、他の人たちの仕事とあわせながら検証する場がこれからも増えてほしい」と語った。
トークの終盤、友永氏は「アニメーターになる前に、どれだけお金にならない絵を描いたかが勝負だ」という大塚さんの発言を紹介しながら、「いまでも大塚さんのファンなんです」と話す。小田部氏も、修練を重ねたアニメーションの技術を惜しみなく仲間に教えていた大塚さんを「アニメーションの大先生だと思っています」と語っていた。
第34回東京国際映画祭は、11月8日まで開催。イベントの模様は、YouTubeの公式チャンネルでアーカイブ配信中。
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