【「友だちのうちはどこ?」評論】少年の焦燥感や友だちへの思いが胸に迫るキアロスタミ監督の傑作
2021年10月24日 22:00

イランを代表する巨匠、アッバス・キアロスタミ監督の生誕81年、亡くなってから5年を迎えたということで、7作品をデジタルリマスター版で上映する特集「そしてキアロスタミはつづく」が、10月16日から東京・渋谷のユーロスペースで開催されている。
懐かしくなって、20数年ぶりに「シネマ映画.com」で「友だちのうちはどこ?」を見直すと、あの時の感動は色褪せることなく、新たな発見まであった。1987年製作のイラン映画で、日本で初公開されたのは1993年。当時、全盛の都内ミニシアターで初めて見た時の衝撃が甦る。それまでハリウッドや香港などの娯楽作やアクション作品を数多く見てきて映画好きを自負していたが、「友だちのうちはどこ?」には、自分の中の「映画」というものの概念が覆された。
フィクションの物語映画でありながら、その作品世界は真実のようで、それまでの映画で味わったことのない映画表現の領域に入り込んだような感覚に陥り、特にラストシーンの感動でしばらく立ち上がれなかったのを覚えている。キアロスタミ監督は、職業俳優を使わず、撮影地の村の住人や子どもたち、実際の家や学校を使用して撮影し、フィクションとドキュメンタリーの間の絶妙なバランスを保つスタイルを確立した作家だが、「友だちのうちはどこ?」はそんなスタイルを象徴する傑作である。
物語は、イラン北部の小さな村を舞台に、同級生のノートを間違って持ち帰ってしまった少年アハマッドが、ノートを返すために遠く離れた友だちの家を探し歩く姿を描いたとてもシンプルなもの。だが、イランののどかな風景の中で、アハマッド少年の不安げな表情やつぶらな瞳、困り切った焦燥感、そして勇気を出して小さな冒険に踏み出し、大人たちに翻弄されながらも友だちのうちを見つけだそうとする姿が真に迫っており、観客はいつしか作品の中に入り込んで一緒になってその焦燥感や友だちへの思いを味わうことになる。
この映画は、あなたのその後の人生観や映画の見方を変えてしまうかもしれないほど、映画的な力を持っている。そして、世界には異なる文化や習慣を持った民族がいて、映画表現も国によって異なるという、未知の領域を教示してくれるに違いない。しかし、この映画で描かれているのは普遍的なもの。国や人種、文化が異なっても共感できるテーマであることが、今なお世界中で愛されている所以なのだろう。
純朴なアハマッド少年が何度も駆け抜ける「ジグザグ道」の風景は、キアロスタミ監督のその後の作品「そして人生はつづく」「オリーブの林をぬけて」に受け継がれ、“ジグザグ道三部作”と言われている。キアロスタミ作品は続けて見ていくうちに、キアロスタミ監督が影響を受けた監督や作品の映画的な系譜まで浮き上がってくる面白さもあるので、是非この機会に、追悼するとともに作品と出会って欲しい。
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