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ミュージカル「October Sky -遠い空の向こうに-」でロケット級の急成長を見せる甲斐翔真が追う夢!【若林ゆり 舞台.com】

2021年10月15日 09:00

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ジェイク・ギレンホール主演映画「遠い空の向こうに」のミュージカル版
ジェイク・ギレンホール主演映画「遠い空の向こうに」のミュージカル版
(C)撮影:若林ゆり

どんな逆境にあったとしても、どんなに無謀と思われようとも、「絶対に叶える」と強く思える夢さえあれば未来は切り拓くことができる。「遠い空の向こうに」(原題:October Sky)は、そんな夢を持った少年と、彼を支える人々の思いを描いた青春映画。元NASAのロケット技術者、ホーマー・ヒッカムJr.による自伝小説「ロケットボーイズ」を映画化したこの作品は、見る者の心を揺さぶる真の珠玉作だ。

この映画が、ミュージカルになった。アメリカで製作されてトライアウト公演が好評を得た「October Sky -遠い空の向こうに-」。映画でジェイク・ギレンホールが演じてブレイクのきっかけとなった主人公・ホーマー役を務めるのは、日本のミュージカル界でロケット級の急成長を見せる甲斐翔真。初日の幕を開け、興奮と安堵を感じているという甲斐に熱い思いを聞いた。

画像2(C)撮影:若林ゆり

物語の舞台は1957年、米ソ冷戦時代のアメリカ、ウエストバージニアの炭鉱町コールウッド。ほとんどの男子が炭鉱夫として危険な職務に就くのが当たり前の町で、高校生のホーマーは希望を持てずにいた。そんなとき、彼の人生を一変させる運命の瞬間が訪れる。ソ連の打ち上げた人類初の人工衛星、スプートニクを見たのだ。その美にひとすじの光を見いだし「ロケットを作りたい!」という大きな夢を抱くようになったホーマーは、3人の仲間たちとチームを組んで夢へと邁進する。だが、父の無理解など、行く手には数々の障壁が待ち受けていた。

画像3(C)撮影:若林ゆり

このミュージカルへの出演が決まったことで、初めて映画を見たという甲斐は「仕事で見ることになったのですが、『なぜいままで出合わなかったんだろう、こんなにいい映画なのに!』と思うくらい、すごく胸を打たれました」と語る。

「ホーマーは自分の居場所というものをいつも探していて、何かが足りない、何か熱中できるものがほしいと思っている普通の少年だったんですが、スプートニクのおかげで運命の扉が開いた。僕自身は自分の人生に満足しちゃっているわけでもないけど、不満なわけでもない。なのに、なんでこんなに響いたんだろうと考えたとき、舞台になっている閉鎖的な炭鉱町コールウッドと、コロナ禍に悩まされているいま現在の世界に重なるところがあるからだ、と思い当たったんです。外に出たくても出られない、望んでいることが自由にできない。こういう時代を必死に生き抜いている僕たちと似ているんだ、って。だから20年以上も前の映画ですけど、よけいに響いたんだろうと思います」

画像4(C)撮影:若林ゆり

シンプルでいて多層的、非常にエモーショナルな物語なだけに、ミュージカル化には向いた作品と言える。炭鉱町という舞台や父と息子の構図には、どこか名作ミュージカル「ビリー・エリオット」(映画「リトル・ダンサー」のミュージカル版)を思わせる部分も。

「映画があれだけの完成度で成り立っているだけに、正直、ここに歌を加えてミュージカルになったときどうなるんだろう、よりよくすることができるのか、という不安はありました。『この作品を壊してはならない』というプレッシャーもあった。でもこの作品は、ただホーマーが夢を掴みにいくという物語じゃない。お父さんとかお母さんとか先生とか、いろいろな登場人物の立場に共感できるし、いろいろな見方ができると思うんです。夢の裏に、どれだけの人が関わっているか。そう考えたときに、ミュージカルだからこそ伝わることもきっとあると確信できました。実話な分、無理なく成長が見て取れるし、ホーマーを囲む、夢破れた大人たちと真っ白なキャンバスのような少年という対比も、ロケットを見上げる人たちと地下に潜って過酷な仕事をする炭鉱夫たちという対比も、舞台だとくっきり見えるんです」

画像5(C)撮影:若林ゆり

そう、この作品の素晴らしさは、人が人を思う力、応援し、支える力の温かさを描いているところにもあるのだ。

「舞台稽古のとき、ホーマーとしてライリー先生から『あなたは夢を叶えられなかった人のためにロケットを打ち上げて夢を叶えなさい』と言われた瞬間に、いままで関わってきた大人の人たち、夢を叶えられなかった人たちの顔がパーッと浮かんだんです。お父さん、お母さん、先生、バイコフスキーさんの顔が。『ああそうか、みんな夢を叶えられなかったから、そこまで僕のことを応援してくれて、僕に夢を託してくれたのかもしれないな』と思いました。そう思ったのがホーマーなのか僕なのかわからないんですけど(笑)」

画像6(C)撮影:若林ゆり

2016年に「仮面ライダーエグゼイド」でデビューした甲斐は、20年に「デス・ノート THE MUSICAL」の主演で初舞台を踏んで以来、「RENT」(ロジャー役)、「マリー・アントワネット」(フェルセン伯爵役)、「ロミオ&ジュリエット」(ロミオ役)と立て続けに大きなミュージカルに挑んできたが、すべてダブルキャスト。単独主演はこれが初、しかも日本初演ということで、1から作品を作り上げるという初めての経験を「楽しかった記憶しかない、特別な時間」と振り返る。

「比較する相手がいないというのは、逆に気持ちの上では楽でした。『自分はこの人みたいにできない』と思わなくて済む(笑)。演出の板垣(恭一)さんに『どう動いてもいいよ』と言われて、『いいんですか本当に?』って(笑)。すべての提案が僕のものというのが初めてで、新鮮でした。たとえば第1幕の終わりで、『必ず輝くぞ』って歌いながら、ホーマーは後ろを向いて幕が下りる。あそこは僕が演出の板垣さんに提案してみたんです。そうしたら『採用!』って言ってもらえて(笑)。前向きなホーマーが後ろを向いて終わるというのは斬新だって。そこで運命に弄ばれている感じがするし、後ろを向いた先にはお父さんがいて、そこが対峙して終わるという感じが僕はすごく好きなんです」

画像7(C)撮影:若林ゆり

ただし稽古場では苦労もあった。コロナ禍の影響で常にマスクをつけ、共演者とディスタンスを保たなければならないのだ。

「(共演者に)どれだけ近づこうとしても、最終的には近づけないんですよ。『もっといろんな話ができたらいいのにな』と、もどかしく思いました。でもホーマーも思い通りにならない現状を抱えている。そこは利用できるな、と思っていました。劇場入りしてからもずっとマスクをしていたので、初めて顔を見て芝居をしたのは初日の前日だったんです。これが意外と、僕にとってはよかった。なぜかというと、その表情に慣れていないから『あ、こんな表情をしていたんだ』と新鮮に芝居を受けられたんです。その感情を忘れないようにしたい。それに、コロナがない時代にこれを上演したら、共感できる人がもっと少なかったかもしれない。いまはみんなが不便を感じながら生きています。どうにかしたいんだけど、どうにもならない。だから、そんななかを突き進んでいくホーマーの姿がすごく美しく見えるし、たくましく、理想的に見えると思うんです。『自分もああなりたい』と、僕自身が思います。だからお客様にもそう思ってほしいんです」

画像8(C)撮影:若林ゆり

ホーマーはスプートニクを見たことで夢を掴み、運命をガラリと変えた。甲斐自身には、そういう経験はあった?

「僕がミュージカルに出たいと思ったきっかけは、『プリンス・オブ・ブロードウェイ』というミュージカルでラミン・カリムルーさんの歌を聞いて、圧倒されて。『ミュージカルってこんなにすごいんだ!』と肌で感じた瞬間でした。それから韓国で『ジキル&ハイド』などのミュージカルを見て、そこでも同じような感覚を味わって。すごいパンチを2発食らった経験が、僕にとって大きかったと思います。まだ僕は自分を探しながら歩んでいる最中で、ホーマーほど確かなものは見つけられていないのかもしれないですが。ホーマーはスプートニクを見たとき、『世界ってコールウッドだけじゃないんだ、世界は繋がっているんだ』と感じて、可能性が大きく広がった。最初はこの町から出て行けるなら、理由は何でもよかったんです。でも、ロケットを見た瞬間に『これだ!』と歯車が合った。原作の自伝によると、自分の憧れていた博士がスプートニクを見た翌日に記事を書いていたんですよね。自分の好きな人が同じものを見ていた。その感動を味わったからこそ、『自分にもできるんじゃないか、作れるんじゃないか、あのきれいな星みたいなロケットを』という思いを強くしたんだと思います」

画像9(C)撮影:若林ゆり

劇場という空間も、まさにそういう繋がりを味わえる場所。自分の好きな俳優と同じものを見て、共鳴できる。観客の応援する力が、演者を後押しする。

「それに尽きますね。同じものを見て、同じように心を動かされる。『同じものを見る』って、忘れがちじゃないですか。でもやっぱり僕らにしても、稽古場と、お客様のパワーを受け取ってやる本番とでは全然違うということを、初日に肌で感じました。マスクをしていらっしゃっても反応がわかるんです、息づかいとか、空気とか、鼻をすする音とかで。それが僕たちにエネルギーを与えてくれるし、この関係性は、やはりナマモノだからこそだと思います。お客様のなかには夢を叶えられなかった方も、これから夢を追う方もいらっしゃるかもしれない。でもこの作品を見ると、誰もが夢を追いたくなると思うんです。どれだけ年をとっていてもどれだけ落ち込んでいても、きっと『ひとりじゃないんだ』『もう1回立ち上がって前を見たい』と思えるし、お客様の人生に何かのきっかけを作れるかもしれない。そういう経験をしていただけたら何より嬉しいと思います」

画像10(C)撮影:若林ゆり

ミュージカル「October Sky -遠い空の向こうに-」は10月24日まで東京・Bunkamuraシアターコクーンで上演中。当日券あり。11月11日?14日には大阪・森ノ宮ピロティホールで上演予定。詳しい情報は公式サイト(https://october-sky.jp)で確認できる。

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