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【NY発コラム】故マイケル・ケネス・ウィリアムズについて――出演作の裏話、非営利団体「Making Kids Win」の設立経緯

2021年10月2日 09:00

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マイケル・ケネス・ウィリアムズ
マイケル・ケネス・ウィリアムズ
Photo by Michael Tran/FilmMagic

ニューヨークで注目されている映画とは? 現地在住のライター・細木信宏が、スタッフやキャストのインタビュー、イベント取材を通じて、日本未公開作品や良質な独立系映画を紹介していきます。


アメリカ・ニューヨーク出身の演技俳優、マイケル・ケネス・ウィリアムズが9月6日(現地時間)にこの世を去った。テレビシリーズ「THE WIRE ザ・ワイヤー」「ボードウォーク・エンパイア 欲望の街」「ラヴクラフトカントリー 恐怖の旅路」といった人気番組で知られ、映画では「それでも夜は明ける」「ロボコップ」「パージ:アナーキー」で、その存在感を示した。

今回は追悼企画として、2016年に彼が登壇したイベントの内容を振り返ってみる。ニューヨークのハドソン・ユニオン・ソサエティーが行なった同イベントでは、自身の出演作、経歴などについて語ってくれている。

THE WIRE ザ・ワイヤー」は、米メリーランド州西ボルティモアが舞台となった作品。麻薬の売買が絡んだ殺人事件をきっかけに生まれた特別捜査班と麻薬組織の追跡劇、ボルティモア市警察内部の政治的駆け引きや麻薬取引の世界での権力闘争を描いている。このクライムアクションドラマは、批評家から高評価を受けているが、その理由とは何なのだろうか? その問いかけに、ウィリアムズが「正直に描き、扱っている題材をセンセーショナルにしていなかったからだ」と口火を切った。

「ボルティモアで起きている社会システムの欠陥、間違いをとらえているが、人々の感覚に訴えるために、決して派手に描いたり、焦らすような描き方をしなかった。“我々の国では何が間違っているのか”を素直に、真実として伝えた。それは、我々の住む都市と社会システムをとらえた“アメリカの物語”だった」

同番組で演じたオマール・リトルは、麻薬の売人を襲う強盗グループのリーダーで同性愛者というキャラクター。バラク・オバマ元大統領は、このキャラクターが気に入ったようだ。

「オバマ元米大統領が、このキャラクターに惹かれたのは、彼のライフスタイルにあるのではないかと思う。人に左右されず、標準時間に合わせたライフスタイルを送っているという点だ。視聴者の賛否にかかわらず、道徳規範を持った男なんだ。そして、自分の生き方を貫き、安易に謝ったりはしない」

THE WIRE ザ・ワイヤー」の第5シーズンでは、オマール・リトルは物語から“退場”する。多くの麻薬密売人から追われながら、グロサリーストアに入った瞬間、「少年に撃たれて死ぬ」という予想だにしない瞬間が訪れる。

「クリエイターのデビッド・サイモンは、あのシーンで“次世代”を描いている。オマールのような存在は必要とされなくなる一方で、我々は、あのような子どもたちを、ドラッグディーラーが蔓延るストリートへ出すことを止めさせなければならない。アフリカの子ども達が少年兵士として雇われていくのと同じだ――オマールの殺されたシーンは、そんなことを僕に伝えてくれた。オマールは、プエルトリコを離れた瞬間から“もう亡くなっていた”。彼はボルティモアで死ぬことがわかっていたし、プエルトリコに戻ることはない。おそらく誰もが、オマールとマルロ・スタンフィールド(ボルティモア西部の新興麻薬組織スタンフィールド・ファミリーのボス)の戦いを望んでいたはず。だが、デビッド・サイモンは、センセーショナリズムにはせず、視聴者が望んでいることも提供したりはしなかった」

画像2Photo by Rodin Eckenroth/FilmMagic/Getty Images

話題は「それでも夜は明ける」に転じる。同作では、多くのアフリカ系アメリカ人に焦点が当たった。近年、アカデミー賞の会員も含め、人種におけるダイバーシティ(多様性)の変化があった。だが、16年当時は、まだまだアフリカ系アメリカ人が中心となる映画は少なかった。

「僕はダイバーシティを語るうえで、現在のハリウッドのように、白人と黒人だけの問題に置き換えたくない。僕は、黒人映画、スパニッシュ映画、アジア映画も見たいし、さまざまな文化を知りたい。だからダイバーシティという意味合いが、すべての人種を示すことを理解してほしい。もし、それでもハリウッドが理解しないならば、黒人俳優兼監督のタイラー・ペリーのように、自分のスタジオをつくるしかない」

続けて語ってくれたのは「ボードウォーク・エンパイア 欲望の街」のキャスティングについてだ。

「テレビシリーズ『The Philanthropist(原題)』でケープタウンにいた時のことだ。あの番組は出演料が高く、僕は自分の体に敬意を表さず、悪いこと(=ドラッグなど)ばかりしていた。もし、同番組の2シーズン放映が決定し、あの時の状態が続いていたら……僕は間違いなく死んでいたと思う。当時は心の中で『この番組には適していない』とささやき、神に対して『“男になるためのサイン(合図)”が欲しい』と祈っていた。そう考えていた頃『ボードウォーク・エンパイア 欲望の街』への出演依頼があったんだ」

「ボードウォーク・エンパイア 欲望の街」への参加によって、ドラッグをやめることができたウィリアムズ。しかし、一度は断ち切ることができたものの、今年、ドラッグの過剰摂取で亡くなってしまった。

ウィリアムズを語るうえで、優れた出演作だけではなく、彼が立ち上げた非営利団体「Making Kids Win」のことも知っておいて欲しい。この団体のことについても、ウィリアムズはイベント登壇時に語ってくれている。

「ハーバード大学のオグルトゥリー教授が『THE WIRE ザ・ワイヤー』から数人のキャストメンバーを呼び、『Wire 101』という授業を行ってくれた。やがて3年が経った頃、オグルトゥリー教授から突然『君は、いつから非営利団体を始めるんだ?』と言われたんだ。『僕に非営利団体を始めてほしいと思っているのかい?』と聞き返すと、彼は『その通りだ』と。そこから、どのような非営利団体にするか、アイデアを考え始めたんだ。その間、彼は僕に何度も電話してきた。そのことに悩まされた時もあったが、彼の中には、僕が非営利団体で活躍するビジョンがあったんだ」

「ある日、オグルトゥリー教授が、3人の若い黒人女性を呼んで、同じ部屋に座らせたことがあった。彼女たちから『(非営利団体を立ち上げることについて)何が問題なの? 何を待っているの?』と聞かれたんだ。僕は『スマートじゃない。何をしたら良いのかわからないし、非営利団体のスペルさえわからないくらいだ』と答えた。すると彼女たちから『自分が何をしているかわからなくても良いわ。あなたが何かに情熱を感じるものがあればね。自分のコミュニティでは、まず何を変えたいの?』と問われた。そこで『僕は子ども達にチャンスを与えたい。(ギャングになっていくような)ストリートキッズの話を聞くのは、もううんざりしている』と伝えたんだ」

「Making Kids Win」を立ち上げたウィリアムズは、ドラッグディーラーが蔓延る場所へ州ごとに訪れることになった。学校での授業が終わった子どもたちを対象に、親が帰ってくるまでの間の“場所”を提供したのだ。そこでは子どもたちが安全に過ごすことができ、暴力。ドラッグ、ビデオゲームを禁止する環境を築きあげた。

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