【「カラミティ」評論】色面で塗り分けられた美しい世界で躍動する、自由を求める少女

2021年9月19日 16:00

「カラミティ」
「カラミティ」

地平線まで続く広大なアメリカ西部の平原を、雲が流れていく。夜は濃紺の空に満天の星が輝く。

レミ・シャイエ監督の新作長編「カラミティ」のヴィジュアルは、息を呑むほどに美しい。色彩監督パトリス・スオウの魔法のような色使いは、その世界に差し込む光と影、さらには空気の揺らぎまで表現している。前作「ロング・ウェイ・ノース 地球のてっぺん」(2016)と同じく、主人公たちと共に旅をしているような錯覚に陥る。

日本のセルアニメーションは写実的に描かれた背景画の上に、線で描かれ色面で塗りつぶされたキャラクターが置かれることで成り立っている。対して本作のキャラクターには輪郭線がない。人物も動物も自然も分割された色面で塗り分けられ、画面上の区別はない。全てを等しく塗り分ける画面スタイルは、世界を端から塗り直したように新鮮だ。まるで印象派の画家モネやルノアールが追求した筆触分割の絵画のようだ。

西部開拓時代に活躍した自由奔放な女性ガンマン、カラミティ・ジェーン。古くは「平原児」(1936)「腰抜け二挺拳銃」(1948)から「ワイルド・ビル」(1995)まで、多くの映画・舞台に彼女は登場した。「カラミティ・ジェーン」(1953)では、主演のドリス・デイが弾けるような演技で歌って踊り、観客を魅了した。幾多の作品に共通なのは、カウボーイハットに軍服の装束、大酒飲み、軍隊にも参加したプロの斥候、男と見紛う無法者──といったイメージである。

カラミティ」とは疫病神のことで、男たちが彼女につけた渾名だ。しかし、彼女が「マーサ・ジェーン」だった少女時代は全く知られていない。レミ監督は、マーサが11歳で家族と経験した幌馬車隊の旅を、事実をベースに創造を交えて映画化した。彼女自身が後年「この時がもっとも楽しかった」と証言していたからだ。

スボンの男たちは馬を駆り家族を率いる。スカートの女たちは煮炊きと家事と育児。厳格に仕切られた二つの世界をマーサは飛び越えようともがき、苛立ち、苦しむ。それでも彼女は前進することをやめない。彼女は、男に強制される可愛らしさとも、父に求められる従順さとも無縁だ。尊厳と自由を求め続ける彼女の生き様が、「カラミティ」という忌み名を勲章の如く輝かせる。

コロナ禍下の不自由な暮らしの中で、カラミティと劇場で出会うことは特別な体験となるに違いない。

(叶精二)

(映画.com速報)

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