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【「由宇子の天秤」評論】「あなたなら、どうしますか?」正しさの基準を揺るがす“鏡の機能”を有した傑作

2021年9月12日 16:30

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「由宇子の天秤」
「由宇子の天秤」
(C)2020 映画工房春組合同会社

鏡のような映画――鑑賞後、率直に感じたことだ。映画は、観客を空想の世界へと誘い、エンドロール後も、スクリーンの中に心の一部を留め置いてくれる場合がある。だが「由宇子の天秤」は、即座に現実へと突き返し、強烈な問いを投げかける。「あなたなら、どうしますか?」と。投影が終わったスクリーンに、必ずや自身の姿を見出すだろう。さて、答えはすぐに言語化できるのか。私には、困難だった。そして、未だに言葉にはできない。“正しさ”の基準を、完全に見失っているからだ。

かぞくへ」の春本雄二郎監督が長編第2作の主人公に据えたのは、確固たる信念を貫くドキュメンタリーディレクターの由宇子(瀧内公美)。テレビ局の方針と対立を繰り返しながらも、3年前に起こった「女子高生いじめ自殺事件」の真相を追っている。そんな矢先、学習塾を経営する父に関する衝撃的な事実に直面。守るべきは、自らの正義か、それとも“大切なもの”か。由宇子は、究極の選択を迫られる。

驚くほど綿密に構築された物語。印象的だったのは「身内」という要素だ。マスコミ、仕事仲間、そして、家族。由宇子にとっては、信頼関係で結ばれた取材対象者、秘密の共有を行う女子高生も、徐々に「身内」と化していく。ある者が抱える真実は、別の者にとっての不都合な真実。図らずも得てしまった生殺与奪の権利。だが、この「身内」とは「身の内側」も示しているように思える。由宇子が最も向き合うべきものは、「身の内側」にある自身の心となっていく。

仕事と私生活――由宇子の姿には、それらの間に明確な線引きがなされていることが伺える。一方で抱えた感情は、境界を軽々しくは飛び越えない(だからこそ、その狭間に位置するような瞬間「風呂を洗う由宇子の後ろ姿」が脳裏に焼きついている)。2つの場は、ストーリーの進行とともに融和し、彼女の足元は揺らぐ。英題の「A Balance」を記憶しておいてほしい。由宇子が必死に試みた「バランス(≒公正さ)を保つ」ことの難しさが、抗いようもない形で証明されていくのだ。

「私は誰の味方にもなれません。でも、光を当てることはできます」という由宇子のセリフを、取材をする者として、何度も反芻している。「光を当てる」とは、照射しない部分との“差”を明確にしていくということだ。これは武器にもなり、他者を傷つける凶器にも成り得る。選び取った光の当て方は正しいのか。闇に紛れた箇所に「見逃しているもの」、または「見ぬふりをしたもの」はないか。自戒の念を込め、何度でも見返さなければならない作品となった。

(岡田寛司)

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