【「83歳のやさしいスパイ」評論】“冗談のような本当の話”こそが深い感動を呼ぶやさしいドキュメンタリー
2021年7月4日 22:00

その邦題から最初はフィクションのコメディかと思ったが、なんと第93回アカデミー賞の長編ドキュメンタリー賞にノミネートされるなど、世界各国で絶賛されたドキュメンタリー作品である。クレジットには、チリ、アメリカ、ドイツ、オランダ、スペインの合作とあり、英題は「THE MOLE AGENT」(潜入スパイ)となっているが、「83歳のやさしいスパイ」とは?
7月9日からシネスイッチ銀座ほかで公開されるこの作品は、不思議な求人に応募して採用された83歳のおじいさん、セルヒオを追ったもの。人生初のスパイと張り切る彼の任務は、老人ホームへの潜入である。
面接からはじまる冒頭はドキュメンタリーっぽくなく、まるでドラマのような感じで、アル・パチーノの写真が映ったりする。だが不意にセルヒオを捉えていたカメラの後ろにドキュメンタリーを撮っている監督やスタッフがいることが映し出されるのだ。ドキュメンタリーでありながら、フィクションとの境界線を敢えて曖昧にすることで、リアルな人間の冗談のような本当の話こそが、まるでフィクションのようなドラマとなり得ることを描こうとしているようだ。
この作品を魅力的にしているのは、なんといってもセルヒオの人柄である。妻を亡くして新たな生きがいを探していた彼は、80歳から90歳の男性が条件という探偵事務所の求人に応募し採用されるが、最初はスマートフォンの使い方もわからず、老人ホームで虐待や盗難があるのかを調査し、報告する任務を遂行できるのか、見ているこちらが心配になる。
しかし同じ入居者としていざ潜入してみると、誰よりもやさしくて涙もろく男前な彼は、スパイなのにホームのおばあさんたちの人気者となってしまう。そして、いつしか入居者たちの良き相談相手となった新人スパイが見つけ出したのは、老人たちの孤独で、彼らの心の叫びが浮かび上がってくる。
若者や中高年にとって老後なんてまだ先のことかもしれないが、セルヒオの視点で入居者たちの様々な人生模様を見ていくうちに、「将来のもしもの自分」を彼らに重ね合わせることになるだろう。そして、高齢者にとっては「明日は我が身」かもしれないと切なくなるかもしれない。
だがこの作品が深い感動を呼ぶのは、老人たちの孤独な現実を重く受け止めるだけでなく、同じ老人でありながら、生きがいを求めて新人スパイとして奮闘するセルヒオを通し、ある種の“喜劇”へ昇華しているからではないだろうか。「83歳のやさしいスパイ」という邦題が見事にはまってくる。
まるで子どもにかえったかのように、ホームの生活を楽しく、気ままに謳歌しているように見える老人もいて、あるおばあさんのセルヒオへの淡い恋心には胸を締め付けられる。人生をいかに生き、終えるか。家族とは何かを問いかけてくるので、若者から高齢者まで幅広い層に見て欲しい作品だ。
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