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告発のためだけの映画ではない――北朝鮮強制収容所の真実を描く「トゥルーノース」に監督が込めた思い

2021年6月3日 20:00

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清水ハン栄治監督
清水ハン栄治監督

北朝鮮の政治犯強制収容所に生きる家族の姿を3Dアニメーションで描く「トゥルーノース」が、6月4日から公開される。監督は、ドキュメンタリー「happy しあわせを探すあなたへ」のプロデューサーを務めた清水ハン栄治。強制収容所への収容体験を持つ脱北者や元看守などにインタビューを行い、10年の歳月をかけて作り上げた清水監督に、本作の話を聞いた。

金正日体制下の北朝鮮で平和に暮らしていた主人公ヨハンの一家。あるとき、父が政治犯の疑いで逮捕され、母子は強制収容所に入れられてしまう。極寒の収容所での暮らしは凄惨を極めるが、耐え忍びながらも生き延びていく。

本作では、収容所の過酷な現状だけでなく、家族愛、仲間との友情、死にゆく者への慈しみの心情などドラマ部分も丁寧に描き、希望を見出すことができる結末が待ち受けている。

画像2(C)2020 sumimasen
――監督のほか、脚本・プロデューサーも務められました。本作を製作した理由と経緯を教えてください。

メディアを通して、人道的なインパクトを残したいという思いはありました。「ムーンショット」という欧米のビジネス界などでもよく使われる言葉があるのですが、これはケネディ大統領が月に行くと言い出したことでみんなが動き、やり遂げたことが由来で、大きな目標を立てて達成できるよう動くという意味です。収容所には、今も12万人が生きるか死ぬかの状態でいます。その人たちを救う動きがないので、僕は映画を作っている人間として、彼らを全員救うことは無理かも知れないけれど、この映画で一つの拷問や処刑、飢餓がなくなったりすれば、それが自分にとってのムーンショットだと思っています。

名前からわかる通り僕は在日コリアンなので、その出生だからこのプロジェクトをスタートしたと思われがちですが、今世紀最悪の人権問題を何とかしたいと思ったことがきっかけになります。その後から、在日として縁故のある問題だと気付きました。

――脱北者、元看守の方に取材を行ったそうですが、どうやって出会ったのでしょうか。

北朝鮮の強制収容所をなくすアクションをしている「No Fence」という団体があって、そこの副代表の宋允復さんや、さまざまな団体の方から脱北者の方たちを紹介してもらいました。

取材では、ショッキングな話はもちろん、すべて印象に残っています。映画に書ききれないくらい、悪夢に出てくるような現実でした。でも、告発だけの映画ではなく、共感できる人間的な話を映画にしたかったんです。脱北者の方は告発したいという思いがあるので、悲惨な側面だけの話をされる方が多いです。僕はそこから深堀りして、収容所の仲間たちの間で友情、助け合い、ユーモア、ロマンスがあったことを聞き出しました。

彼らからは、映画にしたことにポジティブな反応をいただいています。北朝鮮に限らず、人権に関して真摯に活動している方々はいますが、やっぱり一般の方にはまだその声は届いていないです。一生懸命声を上げている方たちは、一般の方から見ると、共感するけれど線を引かれがちですよね。でも、問題は顕在化するので活動は続けないといけない。そんななかで、この作品は彼らのアクティビズムの輪を広げるための“新たな武器”になると言っていただきました。アニメーションとして、キャラクターたちの苦しみや喜びが観客のもとへ届くことによって、一般の方たちに共感が生まれます。

画像3
――完成まで10年かかった理由はなぜですか?

僕にもっと能力があったら、2年半くらいで作ることができる作品だと思います。10年の半分以上は、いろんなところに企画書、サンプル映像を持って行き、お金を集める期間でした。日本の団体やアメリカ、韓国、ヨーロッパ、中南米にも行き、最初はみんな興味を持ってくれるのですが、リスクのある題材として断られてしまう。堂々巡りで、もうどうしようもなかったので、貯金をはたいて作品を作り、どうやってクオリティーを保ったまま安く作品を作るかにシフトしました。

――合作をしたインドネシアには、移住もされたそうですね。

もともとバリ島が好きで、よく旅行に行っていました。インドネシア語の先生と話をしていたら、映画の話になって。次回作はアニメを考えていると伝えたら、知り合いの作るアニメを見てほしいという話になり、サンプル映像を見たところ、あまりにもクオリティーが高くてあ然としました。新卒の青年だったのですが、彼の才能にびっくりして、本作の話をしたらやりたいと言ってくれました。

インドネシアのアニメーターは、スキルがあっても外国のスタジオから依頼されるアニメのCMや、ゲームの戦闘キャラなどを作る下請けの仕事が多いようで、彼はもっとやりがいのある仕事をしたいと思っていたそうです。それで一緒にやりましょうとなって、ほかのアニメーターにも協力してもらいました。そこから僕もトータルで6年ほどインドネシアに移住し、英語やインドネシア語で交流をしました。

画像4(C)2020 sumimasen
――監督自身はもともとどんな映画がお好きでしたか。

感動の後味が長続きする作品が好きです。スカッとするような作品もいいですが、見た後に心のざわめきが長く続いているような作品に惹かれるので、「トゥルーノース」もそれを意識して作りました。本作では、鑑賞後の観客の皆さんの反応にとても興味があります。映画として、後半は畳みかけるような展開になっているので、立ち上がれないほどふらふらになってほしいです。

監督でいうと、クリストファー・ノーランが好きです。実は若い頃から友達で、19歳のときには一緒にアフリカの難民キャンプでボランティアしていました。彼が初めて作ったドキュメンタリーは、僕と共同監督なんです。アフリカの旅をドキュメンタリーで撮ったのですが、もうお蔵入りになってしまいました(笑)。彼の作品は本当に面白くて、僕なんかが足元にも及ばない偉い人になってしまった。彼の作るどんでん返しの作風にはインスパイアされています。

――最後に、今後はどんな作品を予定されていますか?

前作のドキュメンタリーでは、“幸せ”をテーマにしました。「トゥルーノース」では北朝鮮の収容所を扱いつつ、普遍的な要素としては“生きる目的”を扱っています。3作目は同じく普遍的な問いとして、“神は存在するのか”ということを、一匹の犬の冒険を通して描くアニメ作品を予定しています。プロデューサーはビジネスマン、監督はアーティストのような感じで、僕の性格には監督が合っていると思ったので、3作目でも監督を務める予定です。


トゥルーノース」は6月4日公開。なお、公開中は清水監督と直接語ることができるオンラインイベントが開催され、詳細は後日公式HPなどで発表される。

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