【「クルエラ」評論】魔法も奇跡もない、魂の叫びをファッショナブルに描いた痛快作!
2021年5月30日 10:00
度肝を抜かれるとはこのことだ。アニメ史上名高い「101匹わんちゃん」や、実写版「101」で知られる悪役“クルエラ”の物語をよりによって70年代ロンドンのパンクムーブメントに乗せて描こうなんて、そんな奇抜なアイディア、一体誰が思いついたというのか。これは賭けだ。一つ間違えると火傷を被る可能性すらある。だが、結果的に主人公が産声をあげた瞬間、さらには幼少期、苦虫を噛み潰したような表情で世の中に一瞥をくれた瞬間から、この映画の勝ちは確定したと言っていい。
主人公エステラはいつも怒っている。友達は不要。協調性なんてクソ食らえ。“普通”と呼ばれることは耐えがたい屈辱。そんな彼女が母の死をきっかけに自分を封じた。そして他の孤児たちと共に廃墟のような場所で生き抜き、この大都会で老舗百貨店リバティの掃除係に就いたことから運命の歯車が回り始める。
エステラ役のエマ・ストーンが見せる立ち居振る舞いのカッコよさはこの上ない。そんな彼女がファッション業界のカリスマ、バロネス(エマ・トンプソン)のもとで奮闘する様子がどこか「プラダを着た悪魔」と重なるのは、かの作品の脚本家アライン・ブロッシュ・マッケンナが本作のストーリー原案に参加しているからだろうか。バロネスはとことん傍若無人だ。しかし階級やキャリアに惑わされず真価を見抜く力を持つ。そうやって徐々に取り立てられていくエステラ。だが我々は知っている。彼女がいつしか自我を解き放ってヴィランと化す宿命を。
思えば、過去作ではいつも常軌を逸した役柄だったクルエラだが、本作では自ずと自身の背負ってきたものが浮かび上がってくるし、何よりも70年代を彩るファッションやパンクロックが魂の叫びのごとく彼女の胸中を代弁する。
そう、叫びだ。この映画には叫びが満ちている。当時の英国が陥っていた社会、経済の停滞感を打ち破ろうと若者たちが反骨精神の限りをぶちまけたのと似たエネルギーの対流が、主人公の体内でもまさに嵐のごとく吹き荒れているわけだ。
かくも破天荒ながら、細かくみるとオリジナルを巧妙に活かした展開となっていたり、ああ、ここがこう繋がっていくのね、という目配せもある。だが、元々のストーリーを知らなくても気にする必要は全くなし! まずは彼女の人生に思い切りダイブすべし。魔法も奇跡もここには存在しない。ただ唯一、ロックスターの生き様を見つめるような熱狂的な時間が待っているはずだから。
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