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「5月の花嫁学校」監督が語る、女性の物語を撮り続ける理由、#metoo運動以降のフランス

2021年5月28日 15:00

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マルタン・プロボ監督
マルタン・プロボ監督

元家政婦で、素朴派の画家の生涯を描いた「セラフィーヌの庭」(08)、フランスを代表するフェミニスト、ボーボワールの友人であった女流作家を主人公とした「ヴィオレット ある作家の肖像」(13)、母娘の葛藤と和解、そして助産師の仕事にスポットを当てた「ルージュの手紙」(17)など、困難の中でも強く生きる女性たちを題材にした作品を発表し続けるマルタン・プロボ監督。今作「5月の花嫁学校」は、1968年5月革命直前の田舎町で、ジュリエット・ビノシュ扮する主人公が“良妻”を育成する花嫁学校校長の夫に先立たれ、学校の経営を立て直す中での意識の変化を描くコメディタッチのドラマだ。プロボ監督に話を聞いた。

画像3(C)2020 - LES FILMS DU KIOSQUE - FRANCE 3 CINEMA - ORANGE STUDIO - UMEDIA
――実際にフランス人女性の大半は68年まで、この映画の登場人物たちのように保守的だったでしょうか? また、花嫁学校はフランス各地に実在したのでしょうか?

バカンスで出会った年老いた女性に、若い頃の話を聞く機会があり、彼女が「進学も可能だったけれど、友達が行くので私も花嫁学校に行っていた」と言われて、「花嫁学校」という存在に驚き、同時に映画化がひらめきました。インターネットで探したり、フランスのアーカイブ映像が収蔵されている施設でドキュメンタリーを見ました。すごく面白いのですが、「これは中世の話ではないのか?」と驚きました。たかだか50年前の話とは思えなかったのです。卒業するには、“自分でうさぎを捌かなければいけない(!)”などというエピソードもありました。当時は、95%くらいの女性は良き妻になり、男性に養ってもらうという時代でした。「妻になる」ということ以外の人生はなかったのです。でもそのドキュメンタリーの女の子たちは、とっても幸せそうでした。大体は貧しい女の子が多かったと思いますが、学校に通えることはラッキーなことでした。「旦那さんが見つけられるかも」、「タイプライターの打ち方を教えてもらえるかも」と、とても前向きです。生きる喜びに溢れて、将来への期待が溢れたドキュメンタリーでした。

フランス女性が皆自由だというのは間違っています。1940年代のシモーヌ・ド・ボーボワールの「第二の性」などのイメージがあると思いますが、大半のフランス人女性は囚われていました。私の母親たちも少しは自由を謳歌してましたが、女性は男性の所属物とされてました。

花嫁学校はフランスの各地にあり、おそらく数千校はあったと思います。都会よりも地方に多くありましたが、1970年代になると一気になくなりました。農業学校に変わった学校もありましたが、ほとんど消滅したようです。それまで若い女性の憧れは結婚という考えが普通でした。普通というより義務という方がいいかもしれません。68年の5月革命で社会的な価値が変わり、1970年代の女性解放運動でようやく義務がなくなっていったのです。

画像2(C)2020 - LES FILMS DU KIOSQUE - FRANCE 3 CINEMA - ORANGE STUDIO - UMEDIA
――主演のジュリエット・ビノシュ起用の理由と、実際に仕事をしての感想を教えてください。

実はジュリエットとは、他の作品を一緒に撮ろうと計画をしていたのですが、頓挫してしまいました。本作の彼女の役は当て書きです。彼女に、いままでの役柄と違うところにいって欲しいなと思っていました。彼女は女優として出し惜しみを一切せず、作品の中に入り込む女優です。もちろん意見を戦わせることもありましたが、美しい絆ができました。今でも時々電話をします。また一緒に映画を作りたいです。

――映画のラストにミュージカル風の演出も入ったりと、作風をこれまでの作品に比べてかなりコミカルなタッチにした理由は?

最初からラストはミュージカルにしたいと思っていました。うまく説明はできませんが、本能的なものです。最後はオープンにしたかった。女性が心を解放し「さあ! パリに行くんだ!」と、自由に向かって勇ましく歩いている姿が浮かびました。たくさんリハーサルをしましたが、撮影は3日しか時間をかけられませんでした。様々な女性の名前を呼ぶシーンは、女性解放に貢献した人たちに対するオマージュの気持ちです。

インスピレーションになった花嫁学校のドキュメンタリーに登場する女の子たちは、今の時代からすると可哀想な部分も、もちろんあるのですが「花嫁になるんだ!」という快活さや明るさが溢れていました。70年代のボーボワールもそうでしたが、皆とてもユーモアがあり、シリアスなことも笑い飛ばしていました。女性解放運動も、決して全てがしかめっ面でやっていた訳ではなかったと思います。現代は社会問題は大事なことを取り扱っていると、真面目に見せなければならないような風潮がありますが、60年代や70年代の陽気さを見せたいと思いました。軽やかさ、柔軟性の価値を提示したかった。ユーモアや優しさとインテリジェンスがあれば、物事を動かしたり変化することができると信じていますし、それを体現したかったのです。

画像4(C)2020 - LES FILMS DU KIOSQUE - FRANCE 3 CINEMA - ORANGE STUDIO - UMEDIA
――なぜ女性を主人公にした物語を撮り続けるのですか?

それは若い時から自分自身が女性に近しい存在だと自覚していたからです。だからこそ描く作品の主人公は男性よりも、自然と女性になっていったと思います。そのような道のりを辿っていたのは、おそらく自分の中の女性性がそうさせていると思います。なぜ女性性が育まれていたかと説明するならば、母親との近しい関係、姉妹や祖母との関係があり、そのような中で女性性が生まれていったと思います。女性を語ることの方が楽だし自然なことのように思います。男性の方が難しいです。昔から母を通して女性の味方につくということがあり、自ずとそのようになっていきました。次回作も女性が主人公です。本作も「女性を支援している」「女性と一緒に仕事がしたい」という意思表示でもあります。

――#metooムーブメント以降、監督が感じるフランスでのフェミニズムの意識の変化を教えてください

意識はすごく変わりました。この作品の脚本を書き始めた頃は、実は#metooムーブメントは起こっていませんでした。脚本を進めているうちに#metoo運動が始まり、リンクしてきたという面白い体験でした。#metooも革命ですので、苦痛を伴いますし、過激ですが必要な革命だと私は思っています。男性が支配するシステムというのがようやく崩れようとしています。ただ現状は完璧に変化していないし、やはり変化を遂げるのは難しいことです。例えば未だに、同じ仕事でも給料の男女格差、男性による、女性に対しての地位乱用も消えてはいません。

でも、前の時代を知らない若い人が、この作品を通してでも今の女性の位置を築くために、女性たちがどのような道のりを辿ってきたのかを知ることは、大事だと思います。若い人たちはあの頃とは、全く違う価値観の社会に産まれてきたので、これからの社会は変わると思いますし、そう願っています。

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