「クー!キン・ザ・ザ」公開 なぜアニメにしたのか?「不思議惑星キン・ザ・ザ」監督生前のインタビューを入手!

2021年5月14日 20:00

ゲオルギー・ダネリア監督
ゲオルギー・ダネリア監督

ソビエト連邦時代のジョージア(グルジア)で1986年に製作され世界中でカルト的人気を集めたSFコメディ「不思議惑星キン・ザ・ザ」を、ゲオルギー・ダネリア監督が自らの手でアニメ映画化した「クー!キン・ザ・ザ」が公開された。ダネリア監督は2019年、肺炎のため88歳の生涯を閉じ、今作が遺作となった。2013年のロシア劇場公開時の生前のダネリヤ監督と、共同監督を務めたタチアナ・イリーナ監督のインタビューを映画.comが入手した。

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ゲオルギー・ダネリア監督へ質問

――なぜ実写の「不思議惑星キン・ザ・ザ」をアニメにしようと思ったのですか?

40年以上も前、オー・ヘンリーの小説で、悪党2人が身代金目的で誘拐した腕白坊主に振り回される「赤い酋長の身代金」を基に映画を撮ろうと、ちょっとしたスケッチを描いてみた。友人のレオニード・ガイダイ(ソビエト連邦・ロシアの喜劇映画監督)はこれを見て、「劇映画を撮らせてくれないか?」と言った。スケッチを渡すと、彼は「Business People」(1963)という素晴らしい作品を作った。

約10年前、アメリカから「不思議惑星キン・ザ・ザ」をリメイクしないかというオファーを受けたが、正直言って驚き、なぜかと質問した。すると、作品の中で提起された問題は現在も切実で、人類が生きている限りこれらの問題がなくなることはないからだ、という答えを受け取った。最初は本当に撮り直してもいいかもしれないと思ったが、最終的には断った。理由はキャストだ。アメリカ人でもロシア人でも好きな俳優を使っていいと言われた。しかし、エブゲーニー・レオノフ(ウエフ役)やユーリー・ヤコブレフ(ビー役)の代わりをどうやって見つけたらいいのか、わからなかった。そこで、人間でなくアニメのキャラクターにすれば表現しやすのではないかと考えた。ウエフとビーをアニメにして、他の役を俳優に演じさせてはどうかというオファーもあったが、スタニスラフ・リュブシン(マシコフ役)がいないと無理だと思ってしまった。このようにしてアニメに気持ちが傾いていった。

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――アニメ版の「クー!キン・ザ・ザ」にも実写版と同様に「クー!」という言葉が出てきますが。

1986年に劇映画「不思議惑星キン・ザ・ザ」を制作した。アニメ映画「クー!キン・ザ・ザ」には劇映画と多くの共通点がある。誰が「クー!」という語を思いついたのか。もし私に聞かれたら、私だと言うだろうし、私と共にに脚本を担当したガブリアゼに聞いたら、自分だと言うだろう。二人とも正直だ。私たちはバレーボール選手のように仕事をする。そっちにパス、こっちにパスといった具合だ。クー、キュー、ケー、カーなどの候補があり、どちらが「クーにしよう」と言ったのか、実はわからないのだ。

脚本と映画のプロットは似ているが、撮影中に脚本を変更したので、大きく異なる部分もある。映画と脚本の違いの一部は、検閲によるものだ。例えば「クー」も消滅の危機に晒されそうになった。

最高指導者レオニード・ブレジネフ(1964年10月ソビエト連邦共産党中央委員会第一書記に就任、18年間に渡って最高指導者)の葬儀の暫く後に、重要な「クー」という単語を、急遽、別の言葉に替えなければならなくなりそうだった。「プラヴダ」紙を見ると一面には、「K.U.チェルネンコ」の名が太字でいくつも印刷されていた。これはブレジネフの後継者としてコンスタンチン・ウスチノフ・チェルネンコが任命されたという報道であった。プリュク星では「クー(KU)」が全てを意味していたから、繰り返し使われている。我々は考えた。「カー」? いや違う!「コー」? 違う! 「クィ」? ありかも……と。しかし、いずれも馴染みの「クー」には劣る。考えているうちにチェルネンコも亡くなった。その前のアンドロポフ(ブレジネフの死後のソビエト連邦共産党中央委員会書記長、ソビエト連邦最高会議幹部会議長。詩人でもある)政権は我々の仕事に全く影響しなかった。

また1985年、ミハイル・ゴルバチョフが政権に就き、反アルコールキャンペーンを開始すると、多くの問題が起きた。当初の設定ではゲデバンはジョージアからチャチャ(密造ブドウ酒)を一瓶カバンに入れて持ってきたのだ。当時、密造酒の製造と販売には8年間の刑を科すという法令が施行されていた。だが我々はすでに多くの場面でこの酒瓶を撮影しており、撮り直すわけにはいかなかった。私は憂鬱な気持ちで、どうするべきかガブリアゼに聞いたところ彼は「クーにしよう」と答えた。そして、この瓶には酢が入っているとゲデバンに言わせることにした。どんな馬鹿がジョージアのバトゥミからモスクワに酢を持ってくるというのだろう(笑)? そして脚本から素晴らしい宴会の場面を削除せざるを得なくなった。

――本作はアニメということもあって、印象深い声の声優が集まったようですね?

最終的にとてもいい俳優が集まった。一緒に仕事をしたことがある人も、初めての人も。たとえば、ウエフ役にアンドレイ・レオノフを採用したのは、実写版「不思議惑星キン・ザ・ザ」で同役を演じたエブゲーニー・レオノフと声が似ているからではない。ちなみに、「クー!キン・ザ・ザ」でウエフはレオノフとは全く切り離して描かれたが、結果的にはよく似ている。彼の父でもあるエブゲーニー・レオノフは生前よく「アンドレイに何かいい役をやってくれ」と頼んできた。しかし、どういうわけかうまくいかなかった。たとえば「秋のマラソン」(1979年/ゲオルギー・ダネリヤ監督)でアンドレイにオファーできる役なんてあっただろうか?

アニメ映画の制作を開始した時、アンドレイに頼まなきゃいけない、そしてそうすればエブゲーニーとの関係がなんだか楽になるということに突然気がつき、アンドレイはとてもよく演じてくれた。チジョフ役のニコライ・グベンコは他の人からの推薦だが、私は満足している。とてもいい俳優だ。ずいぶん昔、彼が「私は20歳」(1920年/マルレン・フツイエフ監督)に出演した頃から彼を評価していた。

トリク役の少年を探すのにはかなり時間がかかった。たとえば製作会社の俳優リストに載っている役者だとだいたい同じように話す。つまり、声は異なっても、誰もがモスクワ出身のような話し方をする。でも、トリクはニジニ・ノヴゴロド地方のヤムキという小さな町からやってくる設定だ。誰かがトリク役の少年を見つけてきた時、ピンときた。最初はうまくできなかったようだったが、彼を信じたらうまくいったんだ。

タチアナ・イリーナ監督
タチアナ・イリーナ監督

タチアナ・イリーナ監督への質問

――「不思議惑星キン・ザ・ザ」をアニメ化するうえで気をつけたことはあります?

不思議惑星キン・ザ・ザ」の公開時から、わが国の状況はそれほど変わっていません。「クー!キン・ザ・ザ」はリメイクではないし、1986年版の続編でもないのです。一定の期間を経て内的に変化した作者により同じ物語が異なる方法で語られるという、芸術においては珍しい作品です。新たな時代に同じ事柄について全く別の方法で観客と対話するのは、非常に興味深いことでした。たとえば、アニメ版には携帯電話、“地方と首都”の関係、“出稼ぎ外国人労働者”の概念など現代的事象が反映されていますが、1986年版には登場したが現在は切実でなくなった、物不足、行列、“鉄のカーテン”などを示唆する場面は削りました。

――アニメのスタッフについて聞かせてください。

私たちは美術スタッフを探すことからから始めました。アニメーターだけではなく、アニメ映画と関係のない線画家やマルチメディア・アーティストなど、様々なスペシャリストを採用しました。選考の原則は、“精神的に映画の構想に近い面白い人”。採用した多くは線画家やグラフィック・デザイナーだったので、アニメ制作の経験はありませんでした。しかし、彼らの絵のスタイルは奇妙なプリュク星の空間に最大限に近いことがわかったのです。クリエイティブなチームになったことにより、映画の雰囲気が変わりました。この映画は私達がスクリーンで見慣れているアニメ映画とは異なるのです。

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――このアニメの絵柄やキャラクターは、主流となっているアニメ作品とは一線を画すものだと思います。

従来のアニメ映画と一線を画す第二のステップとなったのは、スタイルの模索です。セルアニメの基本原則は変えなかったが、主な表現は大まかな手描きの構図にかかっていました。我々にとって重要なのは、俳優の視点から見て、表現力豊かな原画でした。古典的なアニメ映画では、活き活きとしたキャラクターの特徴や性格は動きの量で決まるのです。登場人物に魂はないため、アニメーター自身がキャラクターに魂を込めます。我々が重視したのは、特徴的なスケッチ、面白いポーズの決定、顔の表情。このスタイルはどことなくいわゆる「マンガ」に似ています。これはかなり大胆な方法でした。キャラクターがスクリーン上で「フリーズ」する危険性があります。ちなみに、スピーディでアクティブなせわしない動きを作る方が技術的にははるかに簡単です。画数を減らす方が、はるかに緻密な仕上げと表現力を求められるのです。決まった方法で作業することに慣れてしまった多くのアニメーターが、私たちの要求にとても苦労していました。このプロジェクトに最後まで残ったアニメーターは少なく、ロシアのほぼ全てのアニメーターがこの映画に参加し、150人以上が腕試しをしましたが、最後に残ったのは約30人ほどでした。

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――「不思議惑星キン・ザ・ザ」の主要な舞台といえば砂漠ですが、それをアニメで表現するうえでご苦労はありましたか?

我々が直面した最も困難な課題の一つは背景の作成です。「クー!キン・ザ・ザ」の背景には取り立てて目を惹くようなディテール、たとえば風変わりな山、木、花、果実、回転木馬など、明るく遊び心のあるものは一つもありません。我々は砂漠にいて、上映時間の70%にわたり、この退屈な黄色い砂が画面を埋め尽くしているのです! だからこそ、我々は殺風景な砂漠に対して非常に難しい要求を課しました。砂漠は一方では悲しく、厳しく、絶望的でなければならないですが、他方では美的に強い印象を与えなければならない。最も難しいのは、単純なものなのです。単純にスクリーン上に存在するものは、独創的に単純でなければなりません。この「単純な独創性」の模索はとてつもなく困難でした。スケッチは10枚単位で増えていきました。本作がどのように制作されたかについて本を書くだけで、映画史に大きな足跡を残すことになるかもしれない。つまり、非常に多くのことが成し遂げられ、それ自体が興味深いものとなるに違いないのです。

また、本作を従来の2Dセルアニメと、平坦な手描き画像を模した3Dグラフィックスという二つの技術を用いて制作しました。その結果、観客はどこが手描きでどこがバーチャルグラフィックスかわかりません。一部のシーンでは多くの3Dオブジェクト(飛行物体、乗り物、ペペラッツ、ロボットなど)を、最終仕上げの段階では画面ごとに手動で処理しました。その結果、全体として、壮大でクリエイティブな作業を成し遂げることができました。常に新しい言語を模索しなければ、映画とはいえないのです!

クー!キン・ザ・ザ」は、ヒューマントラストシネマ有楽町、アップリンク吉祥寺ほか全国で公開中、「不思議惑星キン・ザ・ザ」も同時公開。

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