【映画.com編集長コラム/映画って何だ?】アカデミー賞授賞式、今年は配信プラットフォームが圧倒的存在感

2021年4月29日 13:00


今年は配信プラットフォームが圧勝
今年は配信プラットフォームが圧勝

4月26日(日本時間)、米アカデミー賞授賞式が行われました。今年は密を避けるため、ドルビーシアターに加え、ユニオンステーションという鉄道駅舎の2箇所を使って実施。ゴールデングローブ賞はじめ、世界の映画祭などオンライン開催の映画賞が盛り上がりを欠いたため、リアル開催にこだわった結果の対応です。

WOWOWの中継で見ていましたが、今年は放映スタートが例年より早かったので、冒頭の3賞ぐらいを見逃してしまいました。しかも、発表の順序も例年と変わっていて、脚本賞や監督賞がかなり早いタイミングでの発表。また、作品賞が最後ではなく、作品賞→主演女優賞→主演男優賞→終了、という順序。何か意図があったのでしょう。

さて、作品賞はクロエ・ジャオ監督の「ノマドランド」が受賞しました。これはほぼ予想通りの結末です。「ノマドランド」は、監督賞と主演女優賞も受賞し、4部門ノミネートで3冠という素晴らしい結果に。女性監督の作品が作品賞に輝くのは2010年の「ハート・ロッカー」(キャスリン・ビグロー監督)以来、女性監督が監督賞を獲るのもそれ以来。しかも、アジア系女性ではもちろん初めてです。ダイバーシティの時代に相応しい結果となりました。

「ノマドランド」
「ノマドランド」

クロエ・ジャオ監督は、パートナーで撮影監督のジョシュア・ジェームズ・リチャーズとともに、巨匠テレンス・マリックのようなスタイルで撮影します。日没や日の出前のマジックアワーを選び、広角のカメラで、照明なしで撮影するというスタイルです。シネマスコープサイズの端から端まで使い切って、美しい空を、地平線を切り取ります。北京出身のジャオ監督は、やはり大陸的なビジュアルセンスの持ち主なのかも知れません。

また、彼女の描き出す物語は、テレンス・マリックほどポエミーではなく、きちんと出演者や観客に寄り添った形で進行します。哲学的な難解さはあまりなく、俳優によるモノローグは使わずに、会話で話を進めることを選ぶ。なので、ストーリーの分かりにくさはありません。師匠たるマリック監督よりも先に、オスカー監督賞を受賞したのはお見事でした。

「プロミシング・ヤング・ウーマン」
「プロミシング・ヤング・ウーマン」

個人的には、5部門ノミネートの「プロミシング・ヤング・ウーマン」と、サシャ・バロン・コーエンの悪夢のようなどっきりカメラ「続・ボラット」に期待していたのですが、「プロミシング・ヤング・ウーマン」が脚本賞を取ったので、少し癒されました。

もう一本、長編ドキュメンタリー賞に「オクトパスの神秘 海の賢者は語る」が選ばれた時はちょっと興奮しましたね。これはある種の変態映画と呼んでもいい代物ですが、本当に生命の神秘を感じられる、想像を絶する1本です。「毎日タコに会いに行く」と決めて、結果、凄い撮れ高を手にしています。

Netflix映画「オクトパスの神秘 海の賢者は語る」独占配信中
Netflix映画「オクトパスの神秘 海の賢者は語る」独占配信中

この「オクトパスの神秘」はNETFLIXオリジナルなのですが、今年のオスカーはNETFLIXが合計7部門と圧勝。そして、ディズニーが5部門。ディズニーも配信プラットフォームを持つスタジオです。さらに、Amazonが2部門。全23部門のうち、実に14部門を配信プラットフォーム(を持つ)企業がかっさらいました。しかしNETFLIXやAmazonといった配信専業のスタジオからは作品賞は生まれなかったわけで、真に歴史的なアカデミー賞授賞式とはなりませんでした。

今年の結果が、コロナ禍で北米の映画館が営業できなかった影響なのか、それとも、単純に配信プラットフォームの実力が大きく勝っている状況を示しただけであるのかは、来年まで判断を待ちたいと思います。

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