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松山ケンイチ、ボクサー役を感性で演じた決め手 吉田恵輔監督への信頼を語る

2021年4月10日 21:00

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(左から)吉田恵輔監督、松山ケンイチ
(左から)吉田恵輔監督、松山ケンイチ
撮影:堀弥生

ボクシングを題材に、挑戦者を象徴する“ブルーコーナー”で戦い続ける者たちの生きざまを描く「BLUE ブルー」が、4月9日から公開された。主演を務めた松山ケンイチは、約2年もの間役作りに挑み、情熱はあっても試合に勝てないボクサーを熱演している。これまでのいわゆる“王道”のボクシング映画とは大きくかけ離れた本作について、松山、メガホンをとった吉田恵輔監督(吉はつちよしが正式表記)に話を聞いた。

画像6(C)2021「BLUE ブルー」製作委員会

負け続きのボクサーで、ジムではトレーナーも務める主人公・瓜田信人を松山が演じ、同じジムに所属する、強さと才能を合わせ持つ後輩・小川一樹を東出昌大、好きな人のために始めたボクシングにのめり込んでいく楢崎剛を柄本時生、瓜田の初恋の人で、今は小川の婚約者の天野千佳を木村文乃が演じている。

30年以上ボクシングを続けてきた吉田監督は、過去に東京・吉祥寺のジムで瓜田のモデルとなる男性と出会う。とにかく面倒見が良く、絵に描いたような“いい人”だったそうだが、ボクサーとしての才能は開花せず。そんな彼がある日を境にジムに来なくなり、吉田監督は彼への思いも込めて8年前に本作の脚本を執筆した。

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――吉田監督がボクシングを始めたきっかけを教えてください。
吉田監督:中学校で部活になじめなかったので、一人でできることを探してボクシングジムに通い始めるという、友達がいなかったっていうところがスタートでした。空手とかと違って、当時は中学生でボクシングをやっている人はあまりいなかったので、やるなら先にやっているほうがいいなっていう感覚でやったら、やめられなくなってしまった。ずっとやめるやめるっていう詐欺を30年くらいしているのに、いまだにやっています。
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――体験者ならではのやめられない魅力があるのですね。松山さんは今回ボクシングを経験されていかがでしたか?
松山:シャドー、ロープ、サンドバッグ、ミット打ちだけをやっていると面白さはあんまりわからないですが、マス(マススパーリング=実践形式の練習)をやると全然パンチが届いていないとか、なんで打たれたんだろうとか、いろいろ考えさせられます。そうなってからすごく面白くなりました。1対1のマスがコミュニケーションみたいに感じたんです。
吉田監督:確かに、こいつムカつくなって思っていた相手とも、スパをやると急にその日から話すようになったりします。タメ口で話すようになったり、恋人みたいな距離感になるんです(笑)。
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――松山さんは2年間ジムに通って役作りされたと聞きしました。具体的にどんなことをされましたか?
松山:普通に練習していたんですが、特にジャブ、ストレート、フックやシャドーは大事なのでたくさんやっていましたね。“ゆったり”やっていたんです。プロや練習生の方たちみたいに短時間でズバッとやって帰っていくというよりは、ダラッといて人を見ていました。トレーナーの役でもあるので、トレーナーさんがそこにいることが普通に感じるように、ダラッといられるようになりたいと思っていました。
吉田監督:本当はもっと早く撮影を始めたかったけれど、いろいろ時間がかかった結果、練習時間が伸びた(笑)。僕からしたらありがたかったです。今日本で撮っているボクシング映画だと、だいたい準備期間は3カ月くらい、長くても4、5カ月くらいだと思うので。
松山:僕にとっても2年はありがたかったです。
画像7(C)2021「BLUE ブルー」製作委員会
――お2人は本作で初めてタッグを組まれましたが、お互いの印象はいかがでしたか。
吉田監督:インのとき、(瓜田が)思っていたより元気だなとは思いました。会長への挨拶の仕方とか、もう少しダラッとしているのかなって思っていたので、そういう作りこみをしてきたのかって、それはそれで新鮮でした。僕は役者のアプローチを泳がせたいタイプなので、これはこれで見ていたいって思って、お客として楽しんでいた感覚です。
松山:1回監督から「違う」って言われたことがありました。次の対戦相手のシミュレーションをするために小川の家に行くシーンのとき、僕が家に入るときにドアをノックせずそのまま入っていたのですが、「それは危ない」って止められました(笑)。
吉田監督:それはもう田舎の人だから(笑)。小学校からの友達ならわかるけれど、高校くらいからの友達でその距離感はおっかねーなって思って(笑)。
松山:撮影中に、監督をすごく面白いなと思ったことがありました。スタッフさんのセッティング中や休憩中に監督がどこかに走って行って、ニコニコしながら戻ってくるんです。何をしていたのか聞いたら、「ポケモンを探していた」って。それがすごく好きで、監督が現場でそういう風にいてくれたので、僕もセオリーとかより自分の感性を信じて演じることができました。自分を信じて2年間ジムに通っていたので、今からはもう何もしないでいようって思えたし、監督のこともすごく信じられたんです。特に長い間しゃべっているわけでもないし、ボクシングの練習を一緒にしたのも1週間もなかったと思いますが、あれが決め手でしたね。
吉田監督:人によっては怒られそうな話だけれどね(笑)。僕は現場にいるとき、役者とか役を好きになりすぎて、のめり込んでしまって、演技を見て一人で泣いたりしちゃうんです。それって結構危険なことで、その場ではOKって言っているけれど、編集で見たときにみんなに届いていないってこともある。だから、少し冷めたポジションにいたいので、ギリギリまで携帯ゲームをやるくらいは距離を置きたいんです。
……っていう言い訳ですけれどね(笑)。だけれど、後楽園ホールの撮影では、ポケモン仲間が30人くらいエキストラで来てくれました。みんな本名は知らなくて、ポケモンネームしか知らないです。
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――ポケモンにも意味があったのですね! ボクシングシーンの殺陣は吉田監督自ら動きをつけたそうですが、どんなこだわりがあったのでしょうか。
吉田監督:ほかのボクシング映画を見ているとき、ボクシングをやっている側からすると、顔が空いているのにお腹を狙ったりするのが気になっていました。なので、避けられないほうが悪いってことで動きをつけさせてもらって、どこかでケガするかもしれないと心配していましたが、なんとか無事に撮れました。
松山:ボクシングシーンの撮影は安心しながらやっていましたが、監督の求めているところまで到達できているのかは心配でした。ガードが下がり気味だとか、そういう細かいところも殺陣のときは出てくるので。
吉田監督:大振りで大胆にくらうほうが映画的で、「ロッキー」とか僕も好きなんですが、実際の試合ではそういう動きは見ないですよね。刑事ドラマみたいに、映画は別物としての面白さもあるけれど、自分が30年ボクシングをやってきちゃったのでそこは嘘つけないなと思っていました。
画像8(C)2021「BLUE ブルー」製作委員会
――最後に、瓜田のモデルになった方はこの作品のことを知っているのでしょうか。
吉田監督:実はクランクインの2週間前に、たまたま今回トレーニングしてくれた方から電話がきて、瓜田のモデルになった人が今いるよって。酔っていたからちゃんと映画のことを理解しているかわからないですが、でもちょっとこっぱずかしいですよね。こっそりラブレターをあげようと思っていたら、あげる準備しているところを見られてしまったみたいな(笑)。

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