【「騙し絵の牙」評論】「あてがき」された原作を映画用に「あてがき」し直した吉田大八監督の胆力
2021年3月27日 15:00
人気作家・塩田武士氏が大泉洋をイメージして主人公を「あてがき」した意欲作を、吉田大八監督が大泉主演で映画化する企画「騙し絵の牙」は、観れば観るほど奥行きのある構成に仕上がっている。それは、ひとえに魅力的な原作をいったんバラバラに解体し、それを映画として成立させるために改めて「あてがき」して再構築しているからといえば説明がつくだろうか--。
オススメしたいのは、原作を読んでから映画を鑑賞するということ。原作がいかに秀逸であるかが体感でき、そのうえで映画の完成度の高さに更に唸らされる。ともに、非常に難度の高いことを何気ない風を装って、読者および観客に提示していることがよく分かるはずだ。
舞台となるのは、斜陽産業と言われて久しい出版業界。大泉扮する速水は老舗出版社「薫風社」に中途入社してカルチャー誌「トリニティ」の編集長に就くが、社内は次期社長の座を巡って権力争いの真っただ中で、いきなり廃刊のピンチに陥る。派閥争いに巻き込まれた速水は、専務の東松(佐藤浩市)から無理難題を押し付けられるが、人当たりの良い雰囲気とは裏腹に「次なる一手」を派手に仕掛けていく。
劇中で、出版人たちは悪戦苦闘している。書店に行かなくても簡単に自宅に欲しい本が届く時代にはなったが、それでも書籍、雑誌、それらを扱う書店の存在は人々に心のゆとりをもたらし、必要不可欠なものだと言い切ることができる。ここまで書いて、「あれ?」と思考が停止した。そう、これは完全に映画業界に話を置き換えて考えることができる話なのだ。
大型書店はシネコン、街中にある個人経営の小さな書店はミニシアター。コロナ禍にあっては新作映画の公開延期が相次いだことでNetflixなど配信コンテンツが大躍進を遂げたが、出版業界も長年にわたりAmazonの脅威と対峙しており、まるで他人事ではない。効率化を優先させていくなかで、人の温もりが残ったものが如何にして生き残っていくのかという普遍的なテーマも内包されている。
とはいえ、そんなに堅苦しく考えずとも、今作は吉田大八史上最高にエンタテインメントな作品に仕上がっている。なにせ、「大泉洋」らしさを封じられた大泉洋が松岡茉優、佐藤浩市、木村佳乃、國村隼、小林聡美ら芸達者な面々と“仁義なき戦い”を展開しているのだから、珠玉の113分をお約束する。
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