【「ゾッキ」潜入記:第2回】山田孝之が“全身監督”になった日
2021年3月26日 12:00
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漫画家・大橋裕之氏の初期傑作集を映画化する「ゾッキ」。第33回東京国際映画祭「TOKYOプレミア2020」部門でのワールドプレミア上映という華々しい披露を経て、今春、遂に劇場公開を迎える。さかのぼること2020年2月。映画.comは、その撮影現場に密着取材を敢行。竹中直人、山田孝之、齊藤工による“監督3人体制”の日々を、全3回にわたってレポートする。
2020年2月19日。宿泊施設を午前7時30分に出発することに。プロデューサー・伊藤主税氏とともに現地へと向かう車中、ドライバーが蒲郡市民であることを教えられる。今回の撮影に参加しているボランティアは、全体で約300人程度。市民の力なくしては、スムーズな撮影が成り立たないことを、改めて実感させられた。
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到着したのは、捨石川・野田橋付近。竹中監督、山田監督、齊藤監督が揃い、ドローンを駆使したクライマックスシーンの撮影が行われた。竹中監督が黒髪のかつらを被り、朝のひと笑い。現場の雰囲気が一気に和んだことを覚えている。
各監督のエピソードに関わるキャラクターが集合するため、この日は3人が声を合わせて「よーい、スタート!」「カット」。広がる田園風景、山、走り去る電車を、ドローンが映像に収めていく。音楽監督を務めた歌手・CharaによるBGMを流しつつ、映像の確認を行い、無事に「OK」の声が響き渡った。
同カット以降、撮影の中心を担うことになったのは山田監督だ。この日は、山田監督の演出パート「Winter Love」が本格始動するタイミング。俳優・山田孝之は、時が経つにつれて“全身監督”へと転じていった。
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最初に訪れたのは、若宮公園。現場に姿を現した旅人役の満島真之介とハグを交わした後、すぐに演出を行っていく。同シーンは、ママチャリで旅に出た藤村(松田龍平)が、旅人と出会い、意気投合したかと思いきや、結局は別れていくシーン。“気まずさ”が強調される場面となっている。
かつて自転車での日本一周に挑戦した経験がある満島。同シーンのテストを終えた後、この“気まずさ”について「リアルにこういう感じなんですよね」と笑いながら感想を述べていた。
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ベンチに腰掛けた松田と満島を長回しでとらえていく山田監督。すると「仕込みか?」と思うようなタイミングで、猫、そしてカラスの鳴き声が響く。現場は和やかな雰囲気に包まれ、「(撮影が)町と一体化していますね」という満島の言葉が印象に残っている。
続いて、自転車に乗った藤村と旅人が、一本道で抜きつ抜かれつのデッドヒートを繰り広げる場面に。打ち合わせをする松田と山田の軽妙なやりとりに、思わず噴き出してしまう。
松田「俺が(満島を)ガチで追い越せない可能性がある」
山田監督「おい! そこは頑張ってくれよ!!」
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その後、藤村が車に激突する場面、旅人とともに自転車を押しながら歩くシーンをスムーズに撮影していく山田監督。満島は同シークエンスでオールアップ。短時間で現場を離れたくないようで「もっと欲張ってくださいよ。まだ終わりたくないんだから」とごねつつも、最後には「楽しかったです。また続編があったら呼んでください!」とエールをおくっていた。

ホテルでの小休止を終え、夕暮れ時に西浦漁港へ。そこでは、蒲郡市民による炊き出し(約100人体制)が行われていた。現場取材に赴く際、メディアもこの炊き出しをご馳走になることがあるが、今回の食事が最も記憶に残るものとなった。
あさりとわかめの風味が効いたガマゴリうどん、おでんに卵焼き、お汁粉、トマトジュース、蒲郡みかん……。何度「美味しい」と口にしただろう。蒲郡市民の方々は、スタッフ、キャストと同様に、筆者を温かく迎え入れてくれたのだ。

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午後6時30分。同作で“俳優復帰”となったピエール瀧が現場に現れた。山田監督が、瀧にオファーをかけたのは「全裸監督」の撮影時。役どころは、刑務所帰りの漁師・定男。自転車で当て所もない旅を続けていた藤村が、漁師たちに誘われ、漁協事務所の飲み会に参加することに。そこへ組合に迷惑をかけた定男が帰ってくる――という流れでの参加となった。
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既に辺りは暗くなり始めていた。
山田監督は瀧の眼前に立ち、すぐに段取りを確認し始めたのだが……ここで瀧から思わぬ一言が飛び出した。
瀧「え!? おまえ、山田だったの!? めちゃくちゃ指示してくる助監督だなと思ってた(笑)」
漁港に響き渡る笑い声。まるでコントのようなやり取りだったが、さらにシュールな展開が続く。
撮影ポイントは堤防。そこへ突如現れたのは、波に漂う鴨である。
瀧の「鴨! 鴨、入れたいよね」という一言から“鴨待ちタイム”が展開。餌をまいて、鴨のベストポジションを探る山田監督。「皆がいるから、こっちに寄ってこないんじゃない?」と指摘する松田。結局、鴨は人間の意のままにはならなかった。
海に向かって小便をする藤村。そこへ定男が、あるキーアイテムを手にやってくるのだが、藤村の放尿はなかなか止まらない――というシーンに臨むことに。ここで登場したのは“しっこマシーン”。山田監督は的確な指示を出しつつ、海へと注がれる尿の角度を調整する。傍から見るとユニークな光景だが、誰もが笑みを交えながらも、真剣な表情。細部へのこだわりは一切捨てる気がないようだった。
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遠方からの光線によって、松田と瀧の姿が闇夜に浮かび上がる。山田監督は瀧のポジションを変更し、まずはバックショットから2人の演技をとらえる。定男という人間の哀愁を見事に体現してみせた瀧。わずかな出演シーンながらも、セリフひとつひとつに“男の人生”が感じとれる。瀧が担ったシリアスさに対抗するかのように、松田は「尿が止まらない」という“どうしようもなさ”でコミカルさを醸し出していく。笑えてしまうが、物悲しくもある。そんな奇妙な感情が呼び起こされる、不可思議なシーンだ。
山田監督はファーストテイクで「OK」と一言。その後、寄りのカットも初手で収めつつ、モニターを見ながらニヤリと頷く。確かな手応えを感じたのだろう。早朝から夜までの密着を経て、最後に目撃した“監督・山田孝之”の笑顔。この表情が見られただけでも、蒲郡市を訪れた甲斐があった――撮影現場を離れ、終電間近で飛び乗った新幹線の中、そう感じていたことを未だに覚えている。
「ゾッキ」は、3月20日から蒲郡市、3月26日から愛知県(一部劇場を除く)で先行公開され、4月2日より全国で公開。同作の制作から公開までの“裏側”に迫ったドキュメンタリー「裏ゾッキ」は、今春封切られる。
(C)2021「ゾッキ」製作委員会
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