【「私は確信する」評論】実話に基づく法廷劇が自己矛盾をはらみつつ突きつける“厄介な正義感”
2021年2月7日 18:30
フランスで耳目を集めた「ヴィギエ事件」の裁判。その不条理さはまさにカフカ的悪夢だ。法学教授の夫と3人の子を残してスザンヌ・ヴィギエが失踪した。その後彼女の愛人オリヴィエの告発により、夫ジャックが妻殺しを疑われて勾留、のちに2度の裁判にかけられる。遺体もなければ、妻を殺した証拠も自白もないのに!
夫婦仲が冷めていた、失踪後にマットレスを処分したなど、ジャックに不利な状況はいくつかあった。さらに彼がヒッチコック映画のファンで、「完全犯罪は可能だ」と学生に話していたことも世間を騒がせた。
「私は確信する」は三重の衝撃をもたらす。まず驚くのが、フランスの司法では確たる物証がなくても疑わしい状況証拠があれば殺人罪で刑事告訴され、有罪を言い渡される可能性があるということ。この裁判で言うと、スザンヌが殺されたことを示す証拠やジャックが殺したことの証拠がなくても、陪審員の一定数が「ジャックが妻を殺した」と確信したら、有罪になってしまうのだ。当時マスコミは「ヒッチコック狂による完全犯罪か?」とセンセーショナルに報じたといい、そうした偏向報道と世間の声が冤罪を誘発する図式は、悲しいかな日本でも繰り返されてきた。
ストーリーはシングルマザーのシェフ、ノラの視点で語られる。法律の素人だがジャック(ローラン・リュカ)の無罪を信じ、著名弁護士デュポン=モレッティ(オリビエ・グルメ)に控訴審を担当するよう懇願し、膨大な通話音源の文字起こしで協力する。事件の当事者でも専門家でもない一般人に映画と観客の橋渡しをさせるのは常套手段だが、次第に雲行きが怪しくなる。通話記録からオリヴィエこそが真犯人だと思い至ったノラは、子育ても仕事もパートナーとの関係も疎かにして素人探偵活動にのめり込んでいく。コミカルな役どころで知られてきたマリナ・フォイスによる鬼気迫る演技と、たたみかける展開でサスペンスを盛り上げる演出により、正義感が暴走する様が第二の衝撃をもたらす。
そして、劇中では明示されない部分に第三の衝撃がある。これが長編デビュー作となるアントワーヌ・ランボー監督(兼脚本)は、ほぼすべての主要人物の実名をそのまま使って裁判の経緯をスリリングに再現したが、唯一ノラのキャラクターは創作したことをインタビューで明かしている。そのモデルになったのは、法学部の学生だった頃にジャックと出会い、スザンヌの失踪後に彼と同棲するようになった若い女性だという。ジャックたち家族と支援者のプライバシーを守ると同時に劇的な効果を上げるための改変は当然認められるにせよ、そのせいで相対的にオリヴィエ側の印象を悪くしているとすれば、偏った正義感から他者を断罪することの危うさに警鐘を鳴らす本作もまた同じ罠にはまっている――いや、そんな自己矛盾をはらむ映画を作った監督こそが“確信犯”なのかもしれない。
いずれにせよ、決めつけは慎もう。自戒も込めて。
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