【「天国にちがいない」評論】パレスチナの巨匠がユーモアのなかに込めた、世界の不条理を表す皮肉なメタファー
2021年1月30日 20:00

前作「時の彼方へ」から10年ぶりの長編となった本作は、パレスチナの鬼才として知られるエリア・スレイマン監督の健在ぶりを示して余りあるものだ。これほどシンプルで、日々の些細なものごとを写しているだけのようなスケッチでありながら、そのじつ隠喩に飛んだ、味わい深い作品も珍しい。スレイマンの「本作は世界をパレスチナの縮図として提示しようとした」という言葉を思い起こすなら、ここに出てくるすべての小話は、パレスチナの現在の状況のメタファーと考えられる。
主人公は彼自身が演じる、映画監督ES(エリア・スレイマン)。ナザレの自宅で穏やかにお茶を飲んでいると、物音が聞こえ、外を見ると庭で勝手にレモンをもぎ取っている男がいる。男は「隣人よ、泥棒と思うな。ドアはノックした。誰も出てこなかったのだ」と言う。勝手に人の領地に入り我が物顔に振る舞うこの男は、果たして隣国を体現しているのか。
やがてESは、次回作の企画を携え、プロデューサーを探しにパリ、ニューヨークと旅をする。パリでは「パレスチナ色が弱い」と断られ、ニューヨークでは、ガエル・ガルシア・ベルナル(本人役)の紹介にも拘らず、中東の和平をテーマにしたコメディという説明に「すでに笑っちゃう」と、素っ気なくスルーされる。
パレスチナの状況を誰もが知りつつも、実際手を差し伸べることはない。そんな世界の不条理を目の前に、どこかチャップリンを彷彿させる佇まいで寡黙に立ち尽くすスレイマンが、可笑しくもせつない。
ニューヨークでは誰もが大仰なライフルを携帯していたり、公園に天使が出現して警官に追いかけられたりと、この監督らしい突飛なアイディアが紛れ込んでいるのは、主人公がどこに居ても、故郷を彷彿させるような不穏な出来事と無縁ではいられないことを示唆しているのだろう。
因みに、パリの地下鉄でむやみに彼を威嚇するパンクな男に扮しているのは、「ネネットとボニ」や「七夜待」で知られるグレゴワール・コラン。その存在もまた、得体の知れない脅威を印象づける。
故国があるようで、それはもはや同じ故国ではない、そんな運命を背負った流浪の民、スレイマンの心の声に耳を傾けたい。
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