【「羊飼いと風船」評論】文学的な匂いが漂う、チベット映画の先駆者ペマツェテンの現時点での集大成
2021年1月24日 21:00

ペマツェテン監督は、北京電影学院で初めてのチベット族出身の学生だ。昔のチベットでは、映画製作は遠い夢だった。しかし、子供の時に野外上映で出会った映画は、ずっとペマツェテンの頭のどこかにあった。大学を卒業し、文学者として活躍していても、いつか映画を作りたいと思っていたそうだ。2005年に長編映画監督デビューしてから16年、ペマツェテンは、もはや今の中国映画界においてなくてはならない存在となった。そして、日本の劇場初公開となる本作「羊飼いと風船」は、まさに現時点における監督ペマツェテンの集大成だ。
小説家出身の彼の作品にはいつも文学的な匂いが漂っている。文字の言語が、映像の言語とうまく融和し、チベットという神秘的な“聖地”の文化、そして生命力を完全に表現することに成功している。一方、常にチベットの日常や変化を観察しているペマツェテンは、いつも客観的な目線で“チベット”とそこに生きる市井の人々を描いている。特にチベットのシンボルとも言われている宗教や信仰に関して、ペマツェテン映画の中ではごく自然に、生活の一部分として描かれている。だから「羊飼いと風船」の中で“一人っ子政策”や“近代化文明”という外部の勢力が来た時、“生活”が脅かされ、ついに“戦い”が始まることになる。
「羊飼いと風船」で、ペマツェテンの以前の作品と比べて最も大きな変化は女性を主人公にしたことだ。主人公・ドルカルは信仰を持ち、伝統的な生活を営むが、ある事件によってその平穏な日常が崩される。ここまではいつものペマツェテンと変わらないが、今回は“女性”というテーマを入れたことにより、物語は更に深くまでたどり着く。子供を産むか、産まないか。ドルカルは一人っ子政策や経済的問題に翻弄されながらも、一人の女性として目覚め、前に進もうとするが、やはり心に染み付いた固定観念がなかなか破れない。そこに登場する、昔の恋人を忘れられない尼の妹ドルマは、ドルカルの揺れ動く心を具体化した存在だ。特にドルカルが、ドルマの昔の恋人が書いた小説を火の中に投げ込んだ後、ドルマが火の中から小説を取り出したシーンは、本作のクライマックスであり、ペマツェテン映画の核であろう。
チベット映画の先駆者ペマツェテン。以前の作品も含めて、これからもぜひ日本国内でどんどん公開してほしい。
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