【インタビュー】デビッド・フィンチャー監督がほれ込んだ男「Mank マンク」の魅力
2020年12月12日 18:00
来年のアカデミー賞の大本命の1本と言われているデビッド・フィンチャー監督作「Mank マンク」。「ゴーン・ガール」以来、6年ぶりとなるこの新作は、映画史に残る傑作、オーソン・ウェルズ監督の「市民ケーン」(1941)の誕生過程を、まったく新しいアングルで描いたモノクロ作品だ。本作でフィンチャーがスポットを当てたのは、タイトルにもなっている「市民ケーン」の脚本家“マンク”ことハーマン・マンキウィッツ。そして、映画史のなかに埋もれてしまった“マンク”に光を当てた脚本を書き上げたのは、フィンチャーの実父であるジャック。フィンチャーにとっては宿願といっていい企画なのである。(取材・文/渡辺麻紀)
「市民ケーン」は、新聞王チャールズ・フォスター・ケーンの波乱に満ちた生涯をさまざまな視点で描いた作品で、いまでも語り継がれる不朽の名作だ。主人公ケーンのモデルとなったのは当時、絶大な影響力をもっていた実在の新聞王ウィリアム・ハースト。愛人の女優マリオン・デイビスのため城や動物園を作り、映画製作にも手を出した男だ。「Mank マンク」では、マンクとハーストやマリオン、さらにはウェルズ監督との関係性が丁寧に描かれ、あたかも「市民ケーン」製作の舞台裏を観ているような面白さも味わえる。
「1980年代、ジャーナリズム界を引退した父は、映画の脚本執筆に意欲を見せていた。そんな彼に私が勧めたのがマンキウィッツとウェルズの関係性についてだったんだ。私はマンキウィッツという男にとても興味があったんだよ」
そのときから始まった父子のコラボレーション。フィンチャーもリサーチを続け、印象的なマンクのセリフの多くは、彼をよく知る人や、残っていたさまざまな記述からすくいあげていったと言う。
「多くの人たちがマンクのことを憶えていた。彼の言葉と一緒にだ。彼らは口を揃えてこう言っていたよ。『今まで会った誰よりもユーモラスで機知に富み、それと同時にいじわるな男だった。そのいじわるさが自分に向けられない限り、最高に楽しいヤツだった』ってね。アル中の飲んだくれだけど、愛すべき男。そんな男が実は『市民ケーン』では重要な役割を果たしていたことを世間に知らしめたかったというより、私はとてもシンプルに、彼にほれ込んでしまったんだ」
だからなのだろう、今回のマンクというキャラクターは、これまでのフィンチャー作品のキャラクターでは考えられないくらいに愛らしく魅力的。彼のセリフ、仕草、すべてが驚くほど刺激的で面白い。言うまでもなく、それには演じたゲイリー・オールドマンの功績が大きい。
「ゲイリーは挑戦を恐れない役者だ。しかも、ワンシーンのなかで、あらゆる感情を表現できる類まれな才能をもっている。古い知り合いでもある私たちは、いつか一緒に仕事をしようと言っていて、ここにきてやっとそのチャンスを得たんだ。私が望んだのは、たとえ辛辣で横柄な言葉を投げても、その瞳のなかにはいたずらっ子のような輝きを見せてくれるような演技だった。その方法を見つけるのは大変だったが、ゲイリーはちゃんとやってくれた」
しかし、なぜ、こんなに時間がかかったのだろうか? フィンチャーの言葉を借りるなら、「30年を費やした」企画なのである。
「私はモノクロで撮りたかったんだ。そして音もモノラルにしたかった。当時の雰囲気を伝える映画にしたかったからだよ。でも、そういうことを聞いて『面白そうだ、やろう!』と言ってくれるような人間はあまりいない。ましてや主人公は知られてない男だ。私にとってはとてつもなく魅力的だったが、観客がいい反応を返してくれると思う人は少なかった。それに、スーパーヒーローも登場しなければ、爆発も起こらないからね(笑)」
初心を貫いたフィンチャーは、本作をあたかも40年代に作られたかのように仕上げてみせた。モノクロ&モノラルの映画である。
「AMラジオを聞いているようなサウンドにしているんだ。もちろん『市民ケーン』の録音にも合わせている。映像はカラーで撮って変換したのではなく、撮影時からデジタルセンサーでモノクロの映像を録画するようにした。そのほうがダンゼン分かりやすいからね。ただし、スクリーンサイズだけはワイドにしている。スタンダードだと家のディスプレイには合わないからだよ。過去の技術を意識はしたが、それに縛られることはしなかったんだ」
このフィンチャーらしいこだわりを容認しゴーサインを出してくれたのは、フィンチャーが設立当時から密接な関係を築いているNetflixだった。
「現在、ストリーミングサービスがなかったら、カルチャーとしての映画が作られることはあまりなかったんじゃないかと思っている。下手をすると劇場は、マーベルのような映画ばかりになっていたかもしれない。そういう時代にストリーミングサービスの果たす役割はとても大きくなったと思うね」
本作で、30~40年代のハリウッドを克明に再現してみせたフィンチャー。当時の映画の都と現在のハリウッドを比べて、もっとも大きな違いを感じたのはどんなところだろう。
「私は多くの友人に本作を見てもらったんだが、面白いことに、彼らはみんな同じように『いやあ、本当に何も変わっていないよね』と言っていたんだ(笑)。物事が変われば変わるほど、結局、物事は変わらないんじゃないかと、私も思ってしまったよ(笑)」
「Mank マンク」はNetflixで独占配信中。
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ギリシャ・クレタ島のリゾート地を舞台に、10代の少女たちの友情や恋愛やセックスが絡み合う夏休みをいきいきと描いた青春ドラマ。 タラ、スカイ、エムの親友3人組は卒業旅行の締めくくりとして、パーティが盛んなクレタ島のリゾート地マリアへやって来る。3人の中で自分だけがバージンのタラはこの地で初体験を果たすべく焦りを募らせるが、スカイとエムはお節介な混乱を招いてばかり。バーやナイトクラブが立ち並ぶ雑踏を、酒に酔ってひとりさまようタラ。やがて彼女はホテルの隣室の青年たちと出会い、思い出に残る夏の日々への期待を抱くが……。 主人公タラ役に、ドラマ「ヴァンパイア・アカデミー」のミア・マッケンナ=ブルース。「SCRAPPER スクラッパー」などの作品で撮影監督として活躍してきたモリー・マニング・ウォーカーが長編初監督・脚本を手がけ、2023年・第76回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門グランプリをはじめ世界各地の映画祭で高く評価された。
父親と2人で過ごした夏休みを、20年後、その時の父親と同じ年齢になった娘の視点からつづり、当時は知らなかった父親の新たな一面を見いだしていく姿を描いたヒューマンドラマ。 11歳の夏休み、思春期のソフィは、離れて暮らす31歳の父親カラムとともにトルコのひなびたリゾート地にやってきた。まぶしい太陽の下、カラムが入手したビデオカメラを互いに向け合い、2人は親密な時間を過ごす。20年後、当時のカラムと同じ年齢になったソフィは、その時に撮影した懐かしい映像を振り返り、大好きだった父との記憶をよみがえらてゆく。 テレビドラマ「ノーマル・ピープル」でブレイクしたポール・メスカルが愛情深くも繊細な父親カラムを演じ、第95回アカデミー主演男優賞にノミネート。ソフィ役はオーディションで選ばれた新人フランキー・コリオ。監督・脚本はこれが長編デビューとなる、スコットランド出身の新星シャーロット・ウェルズ。
奔放な美少女に翻弄される男の姿をつづった谷崎潤一郎の長編小説「痴人の愛」を、現代に舞台を置き換えて主人公ふたりの性別を逆転させるなど大胆なアレンジを加えて映画化。 教師のなおみは、捨て猫のように道端に座り込んでいた青年ゆずるを放っておくことができず、広い家に引っ越して一緒に暮らし始める。ゆずるとの間に体の関係はなく、なおみは彼の成長を見守るだけのはずだった。しかし、ゆずるの自由奔放な行動に振り回されるうちに、その蠱惑的な魅力の虜になっていき……。 2022年の映画「鍵」でも谷崎作品のヒロインを務めた桝田幸希が主人公なおみ、「ロストサマー」「ブルーイマジン」の林裕太がゆずるを演じ、「青春ジャック 止められるか、俺たちを2」の碧木愛莉、「きのう生まれたわけじゃない」の守屋文雄が共演。「家政夫のミタゾノ」などテレビドラマの演出を中心に手がけてきた宝来忠昭が監督・脚本を担当。
文豪・谷崎潤一郎が同性愛や不倫に溺れる男女の破滅的な情愛を赤裸々につづった長編小説「卍」を、現代に舞台を置き換えて登場人物の性別を逆にするなど大胆なアレンジを加えて映画化。 画家になる夢を諦めきれず、サラリーマンを辞めて美術学校に通う園田。家庭では弁護士の妻・弥生が生計を支えていた。そんな中、園田は学校で見かけた美しい青年・光を目で追うようになり、デッサンのモデルとして自宅に招く。園田と光は自然に体を重ね、その後も逢瀬を繰り返していく。弥生からの誘いを断って光との情事に溺れる園田だったが、光には香織という婚約者がいることが発覚し……。 「クロガラス0」の中﨑絵梨奈が弥生役を体当たりで演じ、「ヘタな二人の恋の話」の鈴木志遠、「モダンかアナーキー」の門間航が共演。監督・脚本は「家政夫のミタゾノ」「孤独のグルメ」などテレビドラマの演出を中心に手がけてきた宝来忠昭。
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