【「バクラウ 地図から消された村」評論】UFO、亡霊、生首が破格の衝撃を呼び起こす南米産の不条理バイオレンス
2020年11月23日 22:00

「パラサイト 半地下の家族」がパルムドールに輝いた2019年のカンヌ国際映画祭コンペティション部門で審査員賞を受賞。2015年の前作「アクエリアス」(日本未公開/Netflixで配信中)で、すでに世界的な注目を集めていたクレベール・メンドンサ・フィリオ監督の長編第3作である。よくぞ配給に踏みきってくれたと、まずは関係者の英断を称えたい。
ブラジル北東部の港町に建つ古めかしいアパートを舞台にした「アクエリアス」を観れば、フィリオ監督がただならぬ才能の持ち主であることはひと目でわかるが、その凄さを簡潔に伝えるのは容易でない。全編にわたって謎めき続ける「アクエリアス」の映像世界は、主人公である音楽評論家の老女の現在と過去が重層的に絡み合いながら、彼女の静かな日常を浸蝕する得体の知れない脅威を描いていた。ブラジルの社会問題を取り込んだ人間ドラマであるにもかかわらず、奇妙なカメラワークや繊細な音響と相まって、映画体験としては濃密にして先鋭的なスリラーやホラーに触れた感覚が生々しく残る。鑑賞後しばらく経って知ったことだが、フィリオ監督は筋金入りのホラー好きだという。
「バクラウ 地図から消された村」もまた西部劇や辺境ホラーなど複数のジャンルの要素をはらむが、あらゆる先入観を排除して鑑賞すべき破格のサプライズに満ちあふれている。世界から見捨てられたかのように、ブラジルの広大な荒れ地にぽつんと位置するバクラウの村。その長老たる老女が息を引き取ったことをきっかけに、インターネット上の地図から村が消失し、給水車が銃撃を受けるなど、異様な出来事が続発していくという物語だ。序盤の展開はかなり意味不明で、「アクエリアス」同様、バクラウを脅かす何かは不気味で不可視な存在として表現されている。
ところが中盤、フィリオ監督は映画の視点をがらっと変える大胆な構成で、貧しい村人たち=虐げられた社会的弱者というこちらの予想を根こそぎひっくり返し、村に忍び寄る外敵との闘争を、予測不能のタイミングで炸裂するバイオレンス満載で映像化。さらにはブラジルという国を蝕む腐敗した政治家や先進国の傲慢さを痛烈に風刺しながら、インディオの亡霊をスクリーンに呼び覚まし、いくつもの棺桶や血みどろの生首をごろんと並べ立ててみせるのだ! トリッキーな視点の切り替えによってドローンを未確認飛行物体、すなわちUFOのように見せる奇抜なセンスにも舌を巻かずにいられない。
とてつもなく規格外で、もはや特定のジャンルの枠には収めようがない。そんな刺激的な快作/怪作を探し求めてやまない映画ファンは見逃し厳禁の一作だ。
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