コロナ禍での有観客開催、東京国際映画祭で見えてきた未来への展望
2020年11月17日 17:00
第33回東京国際映画祭は、新設された部門「TOKYOプレミア2020」の観客賞に大九明子監督の「私をくいとめて」が選ばれ閉幕した。新型コロナウイルスの感染拡大で、世界各国の映画祭が延期、中止を余儀なくされる中で、観客を動員しての開催。安藤裕康チェアマンは、いかなるかじ取りをしたのか。
10月31日~11月9日の10日間で上映された映画は138本。前年(9日間)の183本から大幅に減ったが、観客動員は速報値で4万533人(前年6万4492人)とコロナ禍を鑑みれば踏みとどまったといえる。
安藤氏の就任は昨年7月。だが、その年の映画祭は既に大枠が決まっていたため、今回が実質的に初の采配となる。だが、今年2月頃からコロナウイルスの懸念が高まり、カンヌなど世界の主要な映画祭が軒並み延期、中止を発表。その中で、有観客での実施という決断をした。
こう正直な気持ちを吐露する。安どの表情からは、それまでの道のりが決して平たんではなかったことがうかがえる。開催に当たっては、海外から審査員を招へいできないため従来のコンペ3部門を統合し、観客賞のみを選ぶショーケース的な「TOKYOプレミア2020」とした。
「僕らがいくら鐘や太鼓を叩いてやりますといっても、お客さまが来てくださらないとできない。映画祭を祝福していただくのはお客さまですから、多くのお客さまに来ていただいたことに感謝しています。映画の未来に向け火を灯し続けるということが一番の大きな眼目でしたから、それが達成できたとことは非常に良かったと感じています」
海外の監督や俳優に関してはオンラインを活用。TIFFトークサロンや、是枝裕和監督の提唱で国際交流基金アジアセンターと共催の「アジア交流ラウンジ」などを連日発信した。
「海外でもリアル開催をあきらめて完全にオンラインだけでやったところもありますから、僕らはそれをハイブリッドにして活用しました。どのトークも内容が濃かったし、そこで友情が生まれたりもしました。オープニングセレモニーもYouTubeなどで配信し、かなりのお客さまに見てもらえました。オープニングではクリストファー・ノーラン監督やロバート・デ・ニーロら4人の方がビデオメッセージをくださって、国際的な連帯を強めるというもう一つの目的もある程度は達成されたのではないかと思います」
コロナ禍における国際映画祭のモデルケースとなったことは間違いない。だが、これはあくまで例外的な措置であり、コロナの先行きは不透明だが来年以降を見据える必要がある。
「事務局の中では、コンペをやりたいという意見が多い。他方で、是枝監督から映画祭の本来の姿はなんなのか、映画祭の目的は何なのかよく考えてほしいなど意見をいただいています。来年以降、コンペの形をどうしていくかは今回の反省も踏まえて皆さんの意見もうかがった上で考えていきたい」
「東京国際映画祭に素晴らしい作品が集まって、お客さまに見ていただくことが一番大切。そのために、部門立てをどうすればいいかということになってくる。初めに部門ありきではなく、作品を確保するためにはどうすればいいかを含めた選定の質の向上です」
加えて、来日が可能になった場合は積極的に招へいして交流の場を増やし、国際映画祭として本来あるべき姿を目指す。その端緒として今年は東京フィルメックスとの連携も実現させた。
「相互乗り入れで、交流していただくことを想定していたけれど、(来日がなく)その面でのメリットはなかったかもしれない。ただ、少なくともひとつの枠組み、来年に向けての地盤はつくれたと思っています」
もうひとつ、山中貞雄監督の現存する3作品の4Kデジタル修復版などを上映した「日本映画クラシックス」の盛況を強調した安藤氏。東京国際映画祭が今後どのように発展していくのか。そのらつ腕に期待がかかる。
関連ニュース
映画.com注目特集をチェック
関連コンテンツをチェック
シネマ映画.comで今すぐ見る
父親と2人で過ごした夏休みを、20年後、その時の父親と同じ年齢になった娘の視点からつづり、当時は知らなかった父親の新たな一面を見いだしていく姿を描いたヒューマンドラマ。 11歳の夏休み、思春期のソフィは、離れて暮らす31歳の父親カラムとともにトルコのひなびたリゾート地にやってきた。まぶしい太陽の下、カラムが入手したビデオカメラを互いに向け合い、2人は親密な時間を過ごす。20年後、当時のカラムと同じ年齢になったソフィは、その時に撮影した懐かしい映像を振り返り、大好きだった父との記憶をよみがえらてゆく。 テレビドラマ「ノーマル・ピープル」でブレイクしたポール・メスカルが愛情深くも繊細な父親カラムを演じ、第95回アカデミー主演男優賞にノミネート。ソフィ役はオーディションで選ばれた新人フランキー・コリオ。監督・脚本はこれが長編デビューとなる、スコットランド出身の新星シャーロット・ウェルズ。
「苦役列車」「まなみ100%」の脚本や「れいこいるか」などの監督作で知られるいまおかしんじ監督が、突然体が入れ替わってしまった男女を主人公に、セックスもジェンダーも超えた恋の形をユーモラスにつづった奇想天外なラブストーリー。 39歳の小説家・辺見たかしと24歳の美容師・横澤サトミは、街で衝突して一緒に階段から転げ落ちたことをきっかけに、体が入れ替わってしまう。お互いになりきってそれぞれの生活を送り始める2人だったが、たかしの妻・由莉奈には別の男の影があり、レズビアンのサトミは同棲中の真紀から男の恋人ができたことを理由に別れを告げられる。たかしとサトミはお互いの人生を好転させるため、周囲の人々を巻き込みながら奮闘を続けるが……。 小説家たかしを小出恵介、たかしと体が入れ替わってしまう美容師サトミをグラビアアイドルの風吹ケイ、たかしの妻・由莉奈を新藤まなみ、たかしとサトミを見守るゲイのバー店主を田中幸太朗が演じた。
ギリシャ・クレタ島のリゾート地を舞台に、10代の少女たちの友情や恋愛やセックスが絡み合う夏休みをいきいきと描いた青春ドラマ。 タラ、スカイ、エムの親友3人組は卒業旅行の締めくくりとして、パーティが盛んなクレタ島のリゾート地マリアへやって来る。3人の中で自分だけがバージンのタラはこの地で初体験を果たすべく焦りを募らせるが、スカイとエムはお節介な混乱を招いてばかり。バーやナイトクラブが立ち並ぶ雑踏を、酒に酔ってひとりさまようタラ。やがて彼女はホテルの隣室の青年たちと出会い、思い出に残る夏の日々への期待を抱くが……。 主人公タラ役に、ドラマ「ヴァンパイア・アカデミー」のミア・マッケンナ=ブルース。「SCRAPPER スクラッパー」などの作品で撮影監督として活躍してきたモリー・マニング・ウォーカーが長編初監督・脚本を手がけ、2023年・第76回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門グランプリをはじめ世界各地の映画祭で高く評価された。
文豪・谷崎潤一郎が同性愛や不倫に溺れる男女の破滅的な情愛を赤裸々につづった長編小説「卍」を、現代に舞台を置き換えて登場人物の性別を逆にするなど大胆なアレンジを加えて映画化。 画家になる夢を諦めきれず、サラリーマンを辞めて美術学校に通う園田。家庭では弁護士の妻・弥生が生計を支えていた。そんな中、園田は学校で見かけた美しい青年・光を目で追うようになり、デッサンのモデルとして自宅に招く。園田と光は自然に体を重ね、その後も逢瀬を繰り返していく。弥生からの誘いを断って光との情事に溺れる園田だったが、光には香織という婚約者がいることが発覚し……。 「クロガラス0」の中﨑絵梨奈が弥生役を体当たりで演じ、「ヘタな二人の恋の話」の鈴木志遠、「モダンかアナーキー」の門間航が共演。監督・脚本は「家政夫のミタゾノ」「孤独のグルメ」などテレビドラマの演出を中心に手がけてきた宝来忠昭。
奔放な美少女に翻弄される男の姿をつづった谷崎潤一郎の長編小説「痴人の愛」を、現代に舞台を置き換えて主人公ふたりの性別を逆転させるなど大胆なアレンジを加えて映画化。 教師のなおみは、捨て猫のように道端に座り込んでいた青年ゆずるを放っておくことができず、広い家に引っ越して一緒に暮らし始める。ゆずるとの間に体の関係はなく、なおみは彼の成長を見守るだけのはずだった。しかし、ゆずるの自由奔放な行動に振り回されるうちに、その蠱惑的な魅力の虜になっていき……。 2022年の映画「鍵」でも谷崎作品のヒロインを務めた桝田幸希が主人公なおみ、「ロストサマー」「ブルーイマジン」の林裕太がゆずるを演じ、「青春ジャック 止められるか、俺たちを2」の碧木愛莉、「きのう生まれたわけじゃない」の守屋文雄が共演。「家政夫のミタゾノ」などテレビドラマの演出を中心に手がけてきた宝来忠昭が監督・脚本を担当。
内容のあまりの過激さに世界各国で上映の際に多くのシーンがカット、ないしは上映そのものが禁止されるなど物議をかもしたセルビア製ゴアスリラー。元ポルノ男優のミロシュは、怪しげな大作ポルノ映画への出演を依頼され、高額なギャラにひかれて話を引き受ける。ある豪邸につれていかれ、そこに現れたビクミルと名乗る謎の男から「大金持ちのクライアントの嗜好を満たす芸術的なポルノ映画が撮りたい」と諭されたミロシュは、具体的な内容の説明も聞かぬうちに契約書にサインしてしまうが……。日本では2012年にノーカット版で劇場公開。2022年には4Kデジタルリマスター化&無修正の「4Kリマスター完全版」で公開。※本作品はHD画質での配信となります。予め、ご了承くださいませ。