【若林ゆり 舞台.com】「後悔しない生き方をする!」と決めた大野拓朗が「プロデューサーズ」のレオ役で真価を発揮!
2020年11月8日 13:00
ミュージカル好きなら、そしてコメディ好きなら、ネイサン・レインとマシュー・ブロデリック主演の映画「プロデューサーズ」(2005)を知らない人はいないだろう。ブロードウェイミュージカルの舞台裏を描いたこの作品は、アメリカンコメディの帝王メル・ブルックスが1967年に脚本・初監督を務めた、ゼロ・モステル&ジーン・ワイルダー主演の「プロデューサーズ」(アカデミー賞脚本賞を受賞)が原点。これをブルックス自らが作詞・作曲まで手がけてブロードウェイでミュージカル化したのが2001年。レイン&ブロデリックの主演で熱狂的な喝采を浴び、数々の記録や賞に輝いて大ヒット、チケット価格が大高騰した。この舞台で演出・振付を務めたスーザン・ストローマンが、主要キャストをそのままに映画化したのがミュージカル映画版の「プロデューサーズ」というわけだ。
かつてはブロードウェイで大ヒット作を連発したが今や落ち目となったプロデューサーのマックスが、気弱な会計士のレオから「失敗したショーの方が儲かる」と聞いて一大詐欺を画策。レオと手を組み、出資者から募った資金で史上最低なミュージカルを製作してわざと大コケさせ、分配金を出さずに資金をネコババしようというのだ。濃いキャラクター満載、バカバカしさと荒唐無稽さ、ヒトラーやナチスをネタにしたキケンな爆笑までてんこ盛りの本作が、日本で久々に上演される。演出は、日本におけるコメディの第一人者、福田雄一。マックス役は、元祖“ミュージカル界のプリンス”井上芳雄。そしてレオ役をダブルキャストで務めるのが、吉沢亮と大野拓朗という豪華な布陣。そこで大野に作品について、先日までのニューヨーク留学生活や夢について語ってもらった。
「元々、僕はミュージカルが好きで、コメディが好き。動画配信のサイトでミュージカル映画やコメディ映画を検索して、ひとりでお酒を飲みながら見ることが至福の時間なんです。それでハマった作品が、ミュージカル映画版の『プロデューサーズ』。だからこれをやれると知ったときは本当に嬉しかった。レオはちょっと弱々しい感じがありながらも作品を通して成長していくし、憎めなくて共感できる役。自分の得意ジャンルなんじゃないか、自分の良さを生かせるんじゃないかと思っていたので、お声がけいただけて夢のようでした」
今回のカンパニーで楽しみな点のひとつが、ストローマンのオリジナル振付をそのまま踏襲しつつ、福田がどういう演出で笑いを盛り上げてくれるか。稽古場での様子は?
「今日(取材は初日の約10日前)までには、福田さんはひと言も口を出していないんですよ。ただ大笑いしながら楽しそうに見ている。今日あたりから福田さんの演出がついていくということなので、僕も楽しみなんです。今はみんなが心を強くして(笑)、毎日毎日いろいろとチャレンジしている段階。稽古場に『絶対に面白くしよう、少しでも面白くしてやろう』という雰囲気が漲(みなぎ)っているところは、やっぱり福田さんが演出する現場の特徴なんじゃないかな」
彼が今回一番苦労しているのは、ダンスでも歌でもなく「笑いを堪えること」なのだとか。
「これはもう、耐えきれる自信がありません(笑)。共演者のみなさんのキャラクターが強すぎて、つい笑っちゃうんですよ、僕はゲラなので。ヒトラー信奉者役の佐藤二朗さんは毎回笑わせにかかってきますし、演出家のロジャー&助手カルメンというゲイカップルを演じる吉野圭吾さんと木村達成くんもずーっとふたりで『今日はこうしてみよう』って相談して深めてきますし。『何それ!?』とか『何でそれ!?』って毎回、やられてしまうツラさがありますね!」
意外だったのは、マックス役に井上というキャスティング。だらしなくてホラ吹き、老嬢パトロンたちから色仕掛けで金をせびり取っている落ちぶれ男に、ピカピカのミュージカル・プリンスが!?
「芳雄さんは、カッコいいんですよ。マックスってだらしないキャラクターではあるんですけど、『かつてはNo.1プロデューサーだった』というカッコよさを残しつつのだらしなさで。僕が映画版を見たときの印象としては、マックスは『だらしないからこそほっとけない』というところがありました。一方でレオは気弱すぎてほっとけないでしょう? だから、お互いに『ほっとけない、ほっとけない』で、支え合ってプロデューサーをやることになったんだ、お互い足りない部分を補い合うコンビだな、と思ったんです。でも芳雄さんのマックスはカリスマ性があってカッコいいから、レオが『カッコいいから惹かれる』という部分もあるな、と感じています。『この人についていってみよう』とか『この人の力になりたい』と思わせるんです」
なるほど、老嬢たちをメロメロにするセクシーな魅力があるマックスだから、カッコよくても成り立つわけだ。そして、同じレオ役を吉沢と大野がどう見せてくれるのかも、もちろん楽しみ。これまでにも「エリザベート」のルドルフや「ロミオ&ジュリエット」のロミオなど、ダブルキャストの経験は豊富な大野だが?
「ダブルキャストは自分の役と他のキャラクターとの関係性を客観的に見られるから、気づけることが多いのがいいところ。僕と亮くんでは、全然違うレオになると思います。もう見た目からして大分違うんですよ、亮くんはサイズ感がかわいくて。見ていて『こういうふうに見えるのか』と勉強になることが多いんです。僕だと芳雄さんや(ウーラ役の木下)晴香ちゃんとの身長差がかなり違うので(大野は185センチの長身)、僕が同じようにやってもこうは見えないんだろうなと思う。それでも『このアイデアはもらおうかな』ということもあるし、レオというキャラクターを作る上でふたりの知恵を持ち寄ってできるから、よりクオリティは上がると思います。自分では思いつかなかったような引き出しを開けられることもありますからね」
レオは会計事務所で決まり切った虚しい毎日を送っていた、気弱な会計士。しかしマックスと出会って「ブロードウェイのプロデューサーになりたい」という昔の夢を思い出し、「このままじゃいけない、自分を変えたい」と勇気を出して脱サラ、一歩を踏み出す。ここにも、大野がレオに共感する部分がある。彼は昨年の夏、長く所属していた事務所を辞めてフリーとなり、英語の習得のため年末に単身、ニューヨークへと渡ったのだ。
「僕は学生時代からずっと『いつか海外を飛び回りたい』という夢があったんです。仕事も含めて。英語が大好きだったし、絶対に勉強して英語をしゃべれるようになるって決めていました。でも、ありがたいことにデビューしてからずーっと忙しくさせていただいていて『あれ? もう30歳になるのに英語しゃべれてないな』と気づいた。それで『自分を高めることがしたい』という思いがどんどん強くなったんです。日本に固執せず視野を広げたかったし、自分の中の世界を広げたかった。最近、自分の身近な人が亡くなるという経験が多くて、考えさせられたことも大きいかな。『人生は一度きりだよね? 僕は今なぜ、この仕事をしているんだろう? なんで英語をしゃべれないんだろう? なんであれもこれもやっていないんだろう? これで明日死んだら、きっと後悔する。それなら後悔しない生き方をしよう、よし、ニューヨークに行こう!』と思ったんです」
ところが、ニューヨーク生活が始まって2カ月ほどで、新型コロナウイルスの感染が拡大。“ステイ・ホーム”を強いられる事態となってしまった。それでも大野は「最っ高に刺激的でした!」とポジティブだ。
「ニューヨークは夢を叶えようとしている人が住む場所だから『自由に生きているな』と感じることが多くて。みんな意志が強いというか、周りに流されずに自分の行きたい道を見極めて歩いている。だから『ああ、やっぱり僕も自分の人生、悔いのないよう生きていいんだな。間違っていなかったな』って背中を押された日々でした。もどかしいこともありましたけど、俳優という仕事から離れてゆっくりできる時間、自分を見つめ直す時間が持てたのはよかったです。英語学校もオンライン授業はずーっとありましたし、通学時間がなくなった分、勉強がはかどりました」
滞在中は「BLACK LIVES MATTER」のデモに参加するなど、日本にいたら考えもしなかったいろいろなことを考えさせられたという。英語以外で得たもの、成長できたと思えるところは?
「『世界は広いな』って実感できたし『どこに行っても生きていけるな』という実感を得ることができました。今までは『英語をしゃべりたいのにしゃべれない』というストレスが自信のなさにつながっていたので、しゃべれるようになったことは大きいですね。しゃべれれば海外のどこにだって行ける、仕事もできるし、少なくとも生きてはいける。それが自信になったと思います。レオも会計士として、すごく狭い世界で生きていた人間。日本でも学校だとか職場、いじめの問題もあるし、狭いところで悩んでいる人は多いと思うんです。でも、『世界は広いよ!』ってわかれば、狭いところから飛び出して楽になれるかもしれない。『あんなに悩んでいたアレは何だったんだろう?』って思うかも。まあレオはそれで失敗しているから説得力はないかもしれないけど(笑)、最終的にはハッピーになれますからね!」
レオは「I Wanna Be a Producer」(「プロデューサーになりたい」と歌う劇中のナンバー)という夢を抱いていたわけだが、大野にとって「Producer」の代わりに入るのは?
「『I Wanna Be an Entertainer』です! 僕自身、笑いが大好きですし、人々に笑顔を届けられる、元気を届けられる人間でいたいという思いがいつもあって。俳優というのはそれができる職業ですから、もっともっと、いろんな人を楽しませたいというのが僕の大きな目標です。ニューヨークではコロナの影響で劇場の幕が閉まってしまいましたが、映像でエンタテインメントを楽しむことができなかったら僕もきっと乗り切れなかったと思うんです。だから『エンタテインメントって本当に力をくれるものだなぁ』と身をもって実感しました。『必要ないものだ』なんて言う人もいますけど、こういう時にこそ『なくてはならないものだ』ってすごく思ったんです。だから今、コロナで大変な思いをしているみなさんに笑っていただいて、少しでも元気を与えられたらな、と思っています」
ミュージカル「プロデューサーズ」は20年11月9日~12月6日、東京・東急シアターオーブで上演。詳しい情報は公式サイト(https://www.tohostage.com/producers/)で確認できる。
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