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“幸せになれる”遺伝子組換え植物がもたらす不穏 ハネケに師事した女性監督によるボタニカルスリラー

2020年7月16日 16:00

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ジェシカ・ハウスナー監督
ジェシカ・ハウスナー監督
(C)COOP99 FILMPRODUKTION GMBH / LITTLE JOE PRODUCTIONS LTD / ESSENTIAL FILMPRODUKTION GMBH / BRITISH BROADCASTING CORPORATION / THE BRITISH FILM INSTITUTE 2019

ミヒャエル・ハネケの助手を務め、「ルルドの泉で」で注目されたジェシカ・ハウスナー監督が幸せになる香りを放つという新種の植物がもたらす不安を描いた「リトル・ジョー」が、7月17日公開される。優秀なシングルマザーの研究者が開発した遺伝子組み換え植物が、人間に予期せぬ“感染”という事態を引き起こす様を、美しく実験的な映像で表現。ハウスナー監督が作品を語った。

画像3(C)COOP99 FILMPRODUKTION GMBH / LITTLE JOE PRODUCTIONS LTD / ESSENTIAL FILMPRODUKTION GMBH / BRITISH BROADCASTING CORPORATION / THE BRITISH FILM INSTITUTE 2019
--バイオテクノロジーというテーマ、研究者でシングルマザーというアリスのキャラクター設定について教えてください。

この作品のインスピレーションの一つがフランケンシュタインで、それは男性の科学者がモンスターを作る物語でした。200年くらい前の話ですが、それを現代版に置き換えたらどうなるんだろう、どんな科学的な発明、モンスターが生まれるのかなと考えました。当然遺伝子工学や、特に植物の遺伝子技術に興味を持ちました。それは現代的であると同時に、アンビバレントなトピックでもあるからです。例えば人間を救うこともできる一方で、もしかしたら人間全てを滅ぼすようなものがあるかもしれない。特に食に関する遺伝子テクノロジーにはそういう矛盾を孕んでいるという、今日の科学の曖昧なところにも興味がありました。

そういったものを発明できてしまうというのが、今日のサイエンスですし、その科学者たちもそれを完璧にコントロールできないのです。私は、コントロールできないことを理解することも重要だと思っています。例えばコロナがいい例。ウイルスの専門家や科学者が言っていることが違うことがあります。みんな同じように未知の病気の情報を少しずつ解明していきますが、コントロールすることはできない。それはすごく私が心配していることでもあるし、すごく興味を持っている部分でもあります。

画像4(C)COOP99 FILMPRODUKTION GMBH / LITTLE JOE PRODUCTIONS LTD / ESSENTIAL FILMPRODUKTION GMBH / BRITISH BROADCASTING CORPORATION / THE BRITISH FILM INSTITUTE 2019

アリスを女性にしたのは自分自身が産んだ子どもと、作り出した子ども(新種の植物)の両方を登場させたかったからです。ひとりで子供を育てるということは、今日の女性にとても一般的で関連するシチュエーションであり、女性は仕事と家庭生活の両方にうまく対処しなくてはなりません。働く女性が誰かと交際しているときでさえ、その女性は仕事よりも、子供と家庭を優先事項とするでしょう。これは重い負担となることを、私はこの映画で語りたいと思ったのです。

--感染やマスク着用など、現在のコロナ禍の生活にも通じる表現が出てきます。

私自身、すごく驚かされました。特にビジュアル面、マスクもそうですし別の側面でも似てるなと思うのが、バーチャルなところがあること。オーストリアでも、一般的にステイホームだったりマスク着用や除菌をすることを心がけています。そして、物理的に起きていることに対してしているというよりも、起きうることに対して予防をしていることについて抵抗感を持ったり、個人の権利を失う方が、ウイルスに感染するよりも怖い、政府にそこまでコントロールされたくないという人もいて、それはウイルスの恐怖よりもその恐怖の方が勝っているというオーストリア人もいて、抗議にも繋がっています。それは私たちの頭の中で作り上げているもの。リトル・ジョーもそういうものなのです。そういう側面でコロナに似ているところがあると感じています。

画像2(C)COOP99 FILMPRODUKTION GMBH / LITTLE JOE PRODUCTIONS LTD / ESSENTIAL FILMPRODUKTION GMBH / BRITISH BROADCASTING CORPORATION / THE BRITISH FILM INSTITUTE 2019
--劇中で日本的な音楽を用いて、不穏な雰囲気を出している理由を教えてください。

私は1940~50年代にニューヨークで活躍した、シュールな実験映画を監督したマヤ・デレンに影響を受けています。撮影的ツールを使って、独特な世界を作り上げる監督です。彼女の使う音にも、日本の音楽家の伊藤貞司さんが関わっている作品がいくつかあって、すごく独特な効果を生み出していたのです。不吉な、ちょっと怖いムードを作るのに、大きな役割を彼の音楽が果たしていたので、他の楽曲がどんなものがあるのか調べたときにアルバム「Waltermill」を見つけて、サウンドトラックをこの作品で使うことにしました。「午後の網目」というマヤの作品で階段を登ったり、テーブルにナイフが当たる音で和太鼓の音が効果的に使われていて、それがいいなと思っていたときに改めて見て、伊藤さんにたどり着きました。

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--キャスティングについて。第72回カンヌ国際映画祭で主演女優賞を受賞したエミリー・ビーチャム、国際的スターであるベン・ウィショーを起用した理由。

エミリーは「DAPHNE」(ピーター・マッキー・バーンズ監督/2017、日本未公開)という映画で、決して人好きするようなキャラクターではない役なのに、観客から見ると嫌いになれない、どこか好ましく思ってしまうような演技をしていて。彼女の中にシンパシーを抱かせるものがあるし、すごくいろんな感情の機微を持っていると感じるんだけれど、演技で出しているのではないような、感じさせる力というのが決め手になりました。アリスは全ての感情を自分の中に留めて、それを決して見せようとしない、隠そうとする役だったので。だから必要とする女優も自分の感情を外で表現するのではなく、隠しているからこそ、あるいは隠しているのがわかるから見ていて面白い、そういうものを持っている女優が彼女だと思ったのです。

ベンは役者として奇妙な、そして曖昧なところのある役者。人当たりの良い近所の好青年みたいな雰囲気も持ちながら、どこか不吉さも出せる。もしかしたらダークな、危険なものを孕んでいるんじゃないかって思わせるところ。両方の要素を持っているところが好きです。彼の役者としてのパーソナリティが矛盾を孕んでいて、果たして今何を考えているのか、何を感じているのか思わず考えてしまうような、そういうところがクリスにぴったりだと思ったので起用しました。

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