窪田正孝、三池監督と運命の再会 「初恋」が30代スタートの糧に
2020年2月27日 14:00
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鬼才・三池崇史が主演に窪田正孝を迎え、監督人生初の“ラブストーリー”となる映画「初恋」を完成させた。ピュアなラブストーリーながら、一癖も二癖もある登場人物たちがスクリーンを所狭しと暴れまくる本作は、世界各国の映画祭で熱狂的に受け入れられるなど、三池監督の集大成にして新境地とも言える作品に仕上がった。三池監督と窪田が本格的にタッグを組むのは、2008年のテレビドラマ「ケータイ捜査官7」以来、約10年ぶりのこと。インタビューを試みると、本作への愛情とお互いへの信頼感があふれ出した。(取材・文/成田おり枝 撮影/堀弥生)
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欲望渦巻く新宿・歌舞伎町を舞台とした本作。ヤクザに追われる一人の少女・モニカ(小西桜子)を助けたことから、黒社会の抗争に巻き込まれていく余命わずかのボクサー・レオ(窪田)が過ごす濃密な一夜を描く。
「ケータイ捜査官7」のオーディションでデビュー間もない窪田を見出した三池監督は、当時「10年後に窪田を選んだ理由がわかる」との言葉を残しており、まさにその予言が証明されたような1作となった。本作での再会について、三池監督は「運命でしょうね」とニヤリと笑い、「彼はあくまで役者として生きてきた。一つ一つの作品に正面から取り組んで、コツコツと積み上げてきたものが今回、しっかりと見えた。コツコツと続けてくると、普通は苦労のようなものが顔ににじみ出たりするものなんだけど、彼は爽やかなままなんだよね。とんでもない詐欺師かもしれない(笑)」と楽しそうに窪田をいじる。
「あはは!」と笑顔を浮かべた窪田は、「とにかく、三池監督とまた同じ現場を共にできることがものすごくうれしかったです」と感無量の面持ち。「三池監督はいろいろな作品を発表されていますが、その中に自分がいないことが悔しくもあって。いつかまた会えるためにも、コツコツと頑張るしかないなと思っていたんです。それがこういった形でかなって、海を越えて受け入れてもらえる作品ができた。本当にありがたいです」と喜びをにじませる。
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ヤクザや中国マフィア、警察までもが入り乱れ、どう転がるかわからない大騒動が繰り広げられる中、レオとモニカの純愛が浮かび上がる。本作の製作が発表された際、三池監督は「さらば、バイオレンス」と発言しつつも、劇中ではコンプライアンス重視の時代、シビれるような過激描写にも果敢に挑んでいる。「さらば、バイオレンス」の言葉に込めた思いとは?
三池監督は「ヤクザ映画に出てきた登場人物たちは、今や絶滅危惧種に近い。彼らの住む世界がなくなってきている。僕らがオリジナルビデオなどで作ってきたキャラクターたちは、映画から消えていく運命にあるのでは……という気がして。彼らに『ご苦労様』と声をかけたかった。本作では、彼らの中の誰一人が欠けても、レオとモニカのピュアな恋は生まれなかった。僕は彼らに哀愁と愛情をものすごく感じています」とヤクザ映画に出てくる魅力的な登場人物への鎮魂歌のような作品であるとも言い、「大好きな映画ですよ」とニッコリ。「昨今は、原作選び、脚本選び、キャスティングにしても、“ヒットしそうな映画”を大前提に企画が進んでいくことが多くて。それはもちろん大事だと思っています。でも今回のプロデューサーたちは、かつて確かにあった、破天荒な映画を作りたいと思っていて、僕にその場を与えてくれた。その勇気には応えられたかなと思っています」と手応えを語る。
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そんな特別な作品で、主演として窪田を選んだ三池監督。「やっぱり特別な役者ですよね」と口火を切り、「誰かが『今、窪田くんと一緒に仕事をしているんですよ』なんて聞くと、『あまり無理しないようにと言っておいて』なんて声をかけたりして(笑)。僕自身、彼にとって必要な監督であり続けたいと思いますしね」と今や国民的スターとなった窪田の存在が、三池監督にとっても刺激になっていることを告白する。
「お互いに必要だと思っていれば、いつかどこかで出会えるもの。彼は『ケータイ捜査官7』のオーディションには、『俳優として生きていくというのは、どういうことなんだろう?』という佇まいでやってきたんです。だからこそ、スタッフに対しても、彼に対しても、『10年後に窪田を選んだ理由がわかる』ということを伝えることが必要だった。あの作品で彼が『俳優ってつまらないな』と思っていたら、本作はあり得なかったわけですから。やっぱり、運命ということになるのかもしれません」。
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窪田は「三池監督は、本当に愛情深いんですよ。『三池監督が僕の作品を見て喜んでいた』という話を人づてに聞くこともあって、『ああ、三池監督らしいな』とうれしく思っていました。勝手に、親戚のおじさんのように思っています」とくしゃっとした笑顔を見せる。かねてより俳優としての転機になった作品として「ケータイ捜査官7」をあげている窪田だが、モニカ役を演じた新人・小西を見て、自身の10年前を思い出すことも多かったという。
「桜子ちゃんが、三池監督に奮い立たされて、自分を追い詰めていく姿をずっと横で見ていました。10年前を振り返らされましたね。経験を重ねる中でなくしたものがあるんじゃないか、自分は技術に走っているんじゃないかと思ったりもしました。やっぱり、僕にとっては『ケータイ捜査官7』で経験させていただいた、“芝居なんだけれど、その先のリアルを目指してがむしゃらに演じる”というのが、役者としての理想でした。桜子ちゃんが、監督の演出に真正面からぶつかっている姿を見て、その正解をバンバン出されているように感じて、ちょっと目を背けたくなるくらいまぶしかった。同時に自分も奮い立たされているような気がして、ワクワクしたんです。三池監督の現場の楽しさは、他では味わえないものです」と原点に立ち返る経験ができたと話す。
ピンチに陥りながらも、這い上がろうとする主人公・レオの奮闘が観客の心を揺さぶるが、三池監督と窪田も本作から大きな力をもらったという。三池監督は「曲げない、媚びない、自分を変えない。そんな愛着を持てるキャラクターたちに居場所を作って、本作のような世界を残せたことは、またある自由を手に入れたような気もしているんです。この映画を見て『もうあなたとは仕事をしたくありません』と言う人がいたとしても、なんの後悔もない(笑)。逆にこんな作品だからこそ声をかけてくれる人もいるかもしれない。まだこれから、自分でも気付いていない出会いがあるかもしれないと思わせてくれた」。
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窪田も「自分たちの作りたいものを譲らず、ここまで勝負していく作品に、久々に出合った気がしています。30代のスタート地点で、こういった作品で三池監督とご一緒できたことは、自分にとってものすごく大きいこと。いい起爆剤になりました」と真っ直ぐに前を見つめ、「朝ドラなどたくさんの方に見ていただける作品にも挑戦させていただいていて、それも本当にありがたいことです。その一方で、こういった作品に食らいついていける役者でもありたいと思っています。達成感も大きく、本作に参加させていただいたことは、役者冥利に尽きます」と意欲をみなぎらせる。2人の語る本気度は、映画を見れば明らか。強烈で痛快な1作が誕生した。
「初恋」は2月28日から全国公開。
(C)2020「初恋」製作委員会
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